国をつくるという仕事

著者 :
制作 : 田坂 広志(解説) 
  • 英治出版
4.16
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862760548

感想・レビュー・書評

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  •  世銀の副総裁だった著者が在任中に出会った各国のリーダーやその国の人々との思い出をつづったもの。元々は雑誌連載だったらしいので、断片的に感じるかもしれない。
     事実を淡々と書いているのだろうけれど、これがかなり感動的な仕上がりになっていて、読んで良かったと思わせてくれる。世銀は悪評もあるけれど、きちんと仕事をしている人もいるということなのだろう。

     著者は元世界銀行の南アジア地域副総裁であり、在職中に出会った数々のリーダーたちとの思い出の断片が綴られている。元々連載されていたものなので、1編1編は比較的短い。インドのマンホハン・シン氏とパキスタンのパルヴェーズ・ムシャラフ氏に始まって、ブータンのジグメ・シンゲ・ワンチュク雷竜王四世に終わる。
     こう書くと、世界銀行副総裁という肩書きもあり、各国の元首級の人々しか登場しないように思われるかも知れない。しかし、本書の真骨頂はそこにはない。本当の主役は、世界銀行の株主たる各国の国民一人一人だし、そこから生まれいずる地域のリーダーたちである。

     本書のキーワードは「草の根」だろう。著者は在任中、初訪問国では貧しい村に寄宿し、労働して、現場で何が求められているのかを肌で体感してきたという。世界銀行には、現地で求められているものを探らず中央が机上で考えたものを押し付ける、という様な批判もあったかと思う。著者はその事実を受け止め、援助を、いかに現地の人が求めるものに留めるか、に腐心していたようだ。その悩みも正直に書かれていて好感が持てる。
     援助を現地の人が求めるものに留めると書いたが、これはかなり重要なことの様だ。援助が行き過ぎれば自助努力の精神が薄れ、本当の発展のためにならない。不正もはびこる。だが、往々にして援助をする側は、援助をすることによる政治的効果を考慮して、必要とされない、しかしマスコミ的に目立つ援助に余分な力を注ぎ込んでしまうものらしい。援助とは誰のためのものなのか、ということは肝に銘じておくべきことだろう。

     貧困から抜け出すためのリーダーシップとは、誰かから与えられるものではなく、貧困グループ全体において貧困から抜け出すための意識の底上げがなされたときに、湧き上がるようにして生まれてくるものなのだと知った。何かを求めるのではなく、自分たちが何をするのか。皆がそう考えるようになって初めて、貧困から抜け出すことができる。
     しかし一方で、その様な希望の光が生まれ様もない、漆黒の闇が存在することも知った。それがスラムだ。自分が生まれ育った場所から抜け出すことが、貧困から抜け出す唯一の方法。そんな悲しい場所はこれ以上作りたくないと思う。

  • 第4代先代ブータン国王とのエピソード等が書かれていたため購入。
    ブータンのみならず、ネパールやバングラディッシュなどのアジアの国を中心に各国のリーダーについて書かれていた。

  • 草の根を自分の足で歩き、権力者を恐れる人々の心を開き、
    自分の目と耳と肌で彼らの夢と苦しみを学ぶ

    千人の頭となる人物は、
    千人に頭を垂れる人物である

  • 本物が書く、本物の話。

    世界銀行のアジア地区副総裁を務めた筆者の世銀での出来事を綴ったエッセイ集。
    一つ一つの物語の密度がすごい。

    それぞれの国に行き、そこの貧困に苦しむ人たちとのホームステイを欠かさない。
    そこで、その国の痛みを共有する。
    優秀だけではなし得ない、その行動力と実直さ。

    考え方のスケールが違う。
    本書の中では触れられていないが、
    貧困国の政治主導者に向かって「あなたは間違っている」と諭し続けることがどれだけのリスクか。
    そこをできるからこそ、副総裁なのだろうけど。

    ただ、筆者個人の好き嫌いは分かれると思う。
    キャリアの問題もあるのだろうが
    独善的な論調が強いなあと思うところもあり
    まあでもエッセイだしなあと思いながら。

    一読の価値はあるかと思います。

  • 著者の世界銀行での経験や当時の思いが綴られている。今後の世界を考える同世代には是非とも一読を勧めたい。世界のあるべき姿とは一体なんなのか。

  • 最初、筆者は正義感は極めて強いが、独善的な思考の人だなという印象で読み始めたが、確固たるひとつの信念・基軸を持つが故の強さだということがわかった。
    リーダー・リーダーシップの書であるとともに、リーダーの品格が国家の品活となり、品格の高い国が大国であると理解させる書、また共感し勇気付けられる書。

    「援助はありがたいが、自立精神を傷つける危険をはらむ。開発戦略は援助からの速やかな卒業を一つの目標としている。」
    「人の世に不変なものは変化のみ。」
    「組織はその文化が企業の生死を左右する。」
    「戦線が多すぎる。勝ち戦に変えるために戦線を絞って勝利の連鎖反応を狙い、改革の痛みに挑戦する勇気を育む。」
    「リスク管理の姿勢とは、力のあるうちに自分の力で先取りすること。」
    「伝統文化を捨て誇りや自己認識を失えば国家の土台は危うくなる」
    「コスト・ベネフィット分析は数値数式では成り立たない。分析の要は社会が事業の費用と効果に対して抱く価値観だ。」
    「戦略とはたたかいをはぶくこと。戦略思考とはいかに戦うかの思考ではなく、いかに戦わないかの思考。」

  • 世銀副総裁を務めた西水美恵子さんの半生記的な著書。アジア・アフリカの途上国の発展のために、各国の政治の中枢に切り込んでいく、希代の日本人女性。勇猛さがすばらしい。そして、途上国であればあるほど、国のトップの資質と能力が国民の幸せに直結していることを改めて思う。日本の状況とは明らかに異なる。もちろんそれだからと言って政治家が無能でいいわけではないが。

  • 政治家の皆さんにぜひ読んで頂きたいと思ったし、ざんねんながら我が国の政治は先進国でありながら劣り過ぎているな感じざるを得ない。政治は手段であって目的ではないというのは、本当にいまの連日ニュースで流れる政治家たちの足の引っ張り合いを観ていて思う、それでいいのかと。危機意識と先見性の欠如が凄まじ過ぎる。と、同時に国をつくる仕事というのは様々な人たちの意見を聞かないといけないし、強い信念とスピーチの力が要求されるかなりハードな仕事だと感じた。

  • アジアには、そして世界には素晴らしいリーダーたちがいることを認識できる本。
    著者の西水氏(前世界銀行副総裁)も素晴らしい。
    日本にも立派な人がいることが分かります。

    【長崎大学】ペンネーム:コモンルーン

  • 「貧困のない世界をつくる」というミッションをもった世界銀行で日本人女性として初めて副総裁を務めた著者の苦労と人柄がにじみ出る一冊。

    普通の生活の中ではうかがい知ることのできない、アジアの発展途上諸国の様子を知ることができるだけでなく、貧困に苦しむ民衆とそれを支える人々、権威に固執する為政者の人間模様がよく描かれている。社会の上層部と下層部にいる人々の間に存在するギャップを憂い、嘆き、憤る著者の心が伝わり、涙を誘う場面が幾度と無くでてくるのが印象的であり読む者の涙を誘う。

    特に社会起業や世界を舞台に活躍をしたいという夢をもつ若い人々に必ず読んでもらいたい一冊。

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著者プロフィール

1975年、米ジョンズ・ホプキンズ大学博士課程終了後、米プリンストン大学助教授(経済学)。80年世界銀行入行、生産性調査局開発リサーチ課開発政策担当スタッフ、産業戦略・政策局上級エコノミストなどを経て97年より南アジア地域担当副総裁。日本人女性として初の世銀副総裁に。南アジア担当として、アフガニスタンやスリランカの復興支援なども手がけた。2003年12月に世銀を退職。

「2003年 『貧困に立ち向かう仕事』 で使われていた紹介文から引用しています。」

西水美恵子の作品

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