- Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
- / ISBN・EAN: 9784863324688
感想・レビュー・書評
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見捨てられた村に最後に残った男が語る、終焉とそれまでの記憶。
辛いばかりの話になりそうなのに、何故こんなにも面白いのか。
ページをめくる手を止められなかった。
美しい文章に胸が震える。
「黄色い雨」にはぞくりとした。
読み返していきたい作品。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
死が私の記憶と目を奪い取っても、何一つ変わりはしないだろう。
そうなっても私の記憶と目は夜と肉体を越えて、過去を思い出し、ものを見つづけるだろう。
いつか誰かがここへやってきて、私の記憶と目を死の呪縛から永遠に解き放ってくれるまで、この二つのものはいつまでも死につづけるだろう。-----本文より。
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自分以外、誰もいなくなってしまった村のなかで時間が刻々と過ぎていくさまを一人称で綴ってゆくとても静かな物語。
冒頭から“〜だろう”という未来を予想した口ぶりに終始していて慣れるのに時間が少し掛かったけれど、読んでいく内にその未来を想像する口ぶりが次第に馴染んでくる。なにかの神秘にでも触れたかのように。
小説、とは複数の人数がいてそこに人間関係のドラマがあり、いろいろな感情の葛藤があり、それによって物語りは進んでいく。しかしこの本のなかには、村に残されたたった一人の老人と、傍にいる名前のない犬。出てくる人物は妻のサビーナや自分を残して村を出て行った息子のアンドレス、戦争から帰ってこなかったカミーロなど、登場してはくるけれど、すべてそれは一人称で語られ、彼、老人の記憶だけが読者の時間軸を設定していると言って良い。生きていること、死んでいること、この両極端なものが同じように語られ、そして消えそうで消えないものとして綴られている。
緩やかに忘却を目指して廃退していく村。
現実なのか、幻想なのか、生きているのか、死んでいるのか、記憶の残骸によって生きながらえているのか、区別の付かない村のなかで降る黄色い雨。
消えて行く美しさ、がここにありました。
(2009.03.06)
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・文体の美しさ。
・簡素な舞台と、奥深さ。
・不吉さ。
・幽霊。
・雌犬の存在。
・悲しくも優しいまなざし。
・異文化。
出会えてよかった本。 -
黄色い雨・・・幸せな印象を与えるタイトルだけれど、なかはとても暗い。
廃村になった村でたったひとりとりのこされて死を待つ一人の男。一人称でたんたんと語られる村の行く末。
おとこが死んでるのか生きてるのかわからないさま。
どこをとっても明るい要素はないけれど、悲しくはなくて、むしろ読んだあとにすーっと目のまえが晴れていくような気持ちになりました。
あとがきがまたよい。
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腐敗していく美しさの中
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あとがき読んで目の前が霞んできた。あれ?
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『狼たちの月』が気に入ったので読んでみました。これはさらにいい小説です。
スペインの寒村、アイニェーリェ村に残った老人とその妻、雌犬。妻は孤独に耐え切れず、自ら死を選ぶ。老人と雌犬はとうに喪われた場所で日々を淡々と過ごす。やがて死者と過去が生活を侵食していき、老人は死を迎える準備を始める。雌犬が孤独に侵されないよう撃ち殺し、自らを墓穴に入れてくれる人を待ち続ける。
読むうちに時間の感覚がなくなり、老人が生きているのか、死んでいるのかすら曖昧になっていく。衰退と死を象徴するポプラの枯葉、黄色い雨に晒され、崩壊した村は一つの世界の終焉のように、ゆっくりと消えてなくなっていきます。詩的なのですが簡潔でわかりやすく、言葉を非常に大切にされている作家さんなのだと思いました。満足。
あと訳者の木村榮一氏の後書きも面白かったです。スペインの書店の主人からお薦め本について話されています。やはり国に関わらず読書家の人の話は興味深いなー、と思いました。