雪割草

著者 :
  • 戎光祥出版
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本棚登録 : 151
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784864032810

感想・レビュー・書評

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  • とにかくこれでもかこれでもかと言うほど次から次へと有為子に襲いかかる不幸アンド不幸、読んでいて昔やってたドラマの真珠夫人を思い出した。ああいうドラマ枠でやれば面白いんじゃないだろうか?
    そんな不幸の中でも有為子を助け手を差し伸べてくれる人々の存在が、有為子だけでなく読んでいるこちらの心も救ってくれる。最後まで読むと、この「雪割草」というタイトルが心にしみるような気がする。
    ただ書かれた時代のため戦争を賛美する言葉が出てきて、後半とくに多くなってきて、そこは読んでいてつらかった。
    巻末には横溝正史の次女野本瑠美さんが父との思い出の話を特別寄稿されているのだけど、これがまあほんと横溝正史のことますます好きになるエピソードだったので見逃さずに読んで欲しいです

  • 時を経てようやく発見された幻の新聞連載小説。家庭小説、ってことなので、さほど山も谷もない穏やかな物語なのかな、と思いましたが。いやいや、かなり波乱万丈な物語でぐいぐい引き込まれました。
    幸福の絶頂からいきなり不幸のどん底に叩き込まれたヒロイン・有爲子。しかし運命に翻弄されるばかりでもなく、自分で何とかしようという気概が感じられるので、なおさら応援したくなります。それでも次から次へと降りかかる苦難の数々……どこまでいじめれば気が済むんだ、と思うけれど。タイトルが「雪割草」だものね、いつかは日の目を見るんだよね、と希望をもって読めました。そして悪意を持つ人も多いけれど、それ以上に善意の人も多くてほっこりします。
    当時の時代背景なども知ることができて、非常に興味深い一作です。

  • 何故、今、横溝正史?
    この本を手にした最初の感想。

    歴史に埋もれていた作品が、時を経て日の当たる場所へ・・・

    有爲子という一人の女性が、戦争の泥沼へと突き進む時代の奔流の中、まさに激動の人生を歩む。
    父の死と共に、平穏な生活はおろか自身のアイデンティティさえ崩壊し故郷を追われる有爲子。
    自分の出生の秘密を知る賀川という人物を訪ね東京へ向かうが既にかえらぬ人に。だが、上京の列車の中で偶然にも同席していた若者達は、かの賀川の息子・仁吾と、後に抗い難い縁で繋がる娘・五味美奈子だった。

    美奈子の父は、仁吾の絵の師で画壇の重鎮・五味楓香。
    妻・梨江との間に横たわる溟い過去と、そこから延々と続く深い怨念が、有爲子と仁吾に否応無く注がれ、二人の人生を弄ぶ。

    登場人物の出会いや、バックボーンになっている過去のストーリーは、今でこそありがちなというか教科書通りの印象を受けるが、当時は相当にドラマティックなものだったろう。

    梨江という女性の「執念」とも言うべき強烈な情念・・・
    そんな鬼畜の様な女性が、ホンマかいな?と思わず言ってしまうほど「善人」へと変貌する終盤は、もう「これでもか!」というほど次から次へと主人公を痛めつけるサディスティックな近代小説を読み慣れてる身には、呆気なさを通り越して、もはや清々しさを感じてしまった。

    でも、この物語の先に待つのは・・・
    なんて事は考えず、この安堵感に浸ろうか。



  • ミステリーじゃないけど、意外に楽しめた。昼ドラみたいで、ヒロインに次々と苦難が。

  • 横溝先生の通俗小説。
    探偵小説のざわざわ、ドキドキを期待して読み始めたけれど叶わず。
    それでも、その量、本の厚さに比例した重みを感じて昭和の遠さを思わずにはいられなかった。
    メロドラマの原作か。挿絵もまあよかった。

    横溝先生の次女の巻末エッセイ、沁みた。

  • 横溝正史といえば、殺人事件である。
    菊人形の上に生首だったり、湖に脚が突き出ていたり、振袖の娘の口にろうとが突っ込まれていたり、びっくりな状況で人が殺されているのだ。
    これはいったいどういうこと?
    戸惑い、怯える皆――警察、読者を前にして、名探偵が、
    「あなたが犯人です」

    ところがこの『雪割草』である。
    殺人なし、犯人なし、よって探偵なし。
    横溝正史なのに!

    2017年に発見された、横溝正史の小説である。  
    1941年6月から12月まで、新潟の新聞に連載されていた。
    1941年と聞いて、ピンときた方も多いだろう。
    開戦の年である。
    統制が厳しく、書けないことが多かった。
    エロはだめ、グロもだめ、殺人事件だなんてもってのほかである。

    よって、横溝正史は「家族小説」を書く。

    主人公は有爲子。
    幸せなのはほんの冒頭だけで、あとは不幸に継ぐ不幸なのだ。
    別離、病気、貧困、いびり、・・・・・・
    なぜにこんなに次から次へと疑問に思うほど起こるのだが、それを、自身の力や、周囲の助けでもって乗り越えていくのである。

    「家族小説というのが、よくわかりませんが、それは朝ドラか、昼メロではないですか?」
    そう。つまりそれである。
    横溝正史の書く、朝か昼のドラマなのだ。
    面白いではないか。

    「いや、でも横溝正史でしょう? 首だけだったり、首がなかったりする死体がないと・・・・・・」
    そこは申し訳ない。
    死体はない。殺人もない。
    しかし、こういう人物は出てくる。
    お釜帽、蓬髪、釣鐘マント、よれよれの袴、加えていくらか吃音・・・・・・
    「き、金田一さん?」
    そう。名探偵金田一耕助の姿形をした人物は出てくるのだ。
    原型といおうか。
    彼が犯人を指摘したり、事件の経緯を説明してくれたりはまったくないのだが、彼が出てくるのはファンとしてはちょっと嬉しいのだ。

    ミステリを読み続けていると疲れることがある。
    読んでいる間に、頭の中に死体が積み上がっていくせいか、さすがに殺人事件がしんどくなることがある。
    それがないのはいい。

    そして、書かれた時期が時期だけに、戦地のひどさも描かれない。
    戦火のむごさも書かれない。
    といって、戦争礼賛も書かれない。
    書きたくても書けないことがたくさんあったんだろうなあと、先生を慮りつつ、横溝正史の筆に酔いしれる読者である。

    巻末に次女による横溝正史のエピソードが書かれている。
    探偵小説一代男の家での様子が窺えて、興味深い。
    そしてこの『雪割草』発見の経緯がある。
    これまた読みどころである。

  • 横溝正史にこんな作品があったとは。探偵小説ではないが、戦時下で力強く生き抜く女性を描いた佳作。読み始めると、次々と気になる展開で、どんどん読める。

  • ミステリではない。戦時下の表現が統制されていた時代に、探偵小説作家が書いた新聞連載小説だ。人は生まれなどに左右されず何を全うし、どうあるべきか、真摯に生きる主人公の姿。文体や道具立てを現代向きに変え、漫画などで発行したら、誰も思想統制があった頃の作品と思わず受け入れてしまうのではないか。もしかしたら失われた倫理観とか日本人の根底に流れる精神なぞと受け止めて、涙を流す人もいるのではないか。文字の力は恐ろしいのだと今更に思った。だからこそ統制下に置かれたのだ。だからこそ、横溝氏はこの作品の中に、主人公の夫の姿を通して、芸術は死なないとメッセージを残したのだと思う。

  • 横溝正史の本は推理小説しか読んだ事がなかったので、最後まで読めるかどうか不安だったが、主人公が波乱万丈の人生を送っているのでどんどん読めた。最後がハッピーエンドで良かった。持ち歩くのが重かった。

  • ビブリア古書堂の事件手帖から流れて読んだ。

    新聞に連載されていたのが戦時中ということで、時勢に合わせて段々と物語を修正していったようだが、かなりの長編なのに、きちんと物語がまとまっていて、感動できる作品なのがすごい。

    金田一の元になったらしい登場人物は、挿絵の雰囲気もその通りで、読みながら頭に浮かぶ人物は途中から石坂版金田一になってしまった。

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著者プロフィール

1902 年5 月25 日、兵庫県生まれ。本名・正史(まさし)。
1921 年に「恐ろしき四月馬鹿」でデビュー。大阪薬学専門学
校卒業後は実家で薬剤師として働いていたが、江戸川乱歩の
呼びかけに応じて上京、博文館へ入社して編集者となる。32
年より専業作家となり、一時的な休筆期間はあるものの、晩
年まで旺盛な執筆活動を展開した。48 年、金田一耕助探偵譚
の第一作「本陣殺人事件」(46)で第1 回探偵作家クラブ賞長
編賞を受賞。1981 年12 月28 日、結腸ガンのため国立病院医
療センターで死去。

「2022年 『赤屋敷殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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