図書館は、国境をこえる: 国際協力NGO30年の軌跡

制作 : シャンティ国際ボランティア会 
  • 教育史料出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784876525133

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  • 難民キャンプやスラムなどへ(主に)図書館をつくる支援をしているボランティア団体(SVA)の30年の軌跡。
    内容は執筆者により様々。活動報告だったり体験記だったり図書館論だったり教育や社会についてだったりする。
    全員に共通しているのは「サポートに徹する」「主役は自分たちではない」という意識。

    祖国から逃れ、難民キャンプという一応の安全と衣食住は得たものの、すること(できること)がない、自由がない、未来がみえない状態の難民。
    衣食住もおぼつかないスラムや紛争地域の人たち。
    そういう人たちに「図書館」なんていう無くても死にやしない代物で支援するのは、それが「希望」や「誇り」をつくるから。

    子供への教育だけではない。
    日本や欧米の本をただ与えるのではなく、その人たちの物語をその人たちが語り伝えられるように手伝う。
    図書館を作りましたいらっしゃいではなく、その人たちがその人たちの図書館を作る。

    30年という歴史は半端だ。
    確固たる伝統ができるには短すぎるし、新しいことをやるには経験が重くなってくる。
    なのにこの団体は変化を恐れない。
    信念は揺らがず、原則は変わらない。しかし方法は変えていく。
    テレビやパソコンが普及して子供が来なくなったら「近頃の子供は」と嘆くのではなく、そんな時代に必要な支援を考える。
    そのためには大成功した過去をさっさと塗り替える。
    少なくともこの本から見える限りでは「今目の前にいる子供のために必要なことを考える」という姿勢が徹底している。

    もちろん個人差はある。
    被災した場所に津波のごとくおしよせる「善意」の無神経に憤る繊細さを持った人もいれば、危険な紛争地域だとわかっているのに自分が避難した時のことを考えずにペットを飼っちゃったり、当地の人にとっては当然のデモをマイナスのこととしかとらえない人もいる。
    でも、団体としての方針は、相手のすべきことを乗っ取らない、立場をわきまえた支援を行っている。

    むかし、先生に聞いた「良いカウンセラーの条件は上手に振られること」という言葉を思い出した。
    自分はもっと関わりたいけど、「ありがとうもうひとりで大丈夫」と旅立たれるのが良い別れ。
    この人たちの仕事は図書館(コミュニティ)の形を作り、運営を教え、本がなければ自ら出版し、人を育て、その場所の人たちだけで運営できるようにして手を引くこと。
    だから始める時点から、どう終わらせるかを視野に入れている。

    この本は2011年3月31日発行。
    くしくもスマトラ沖大地震と津波にあった地域のレポートがでてくる。
    書いた時は、日本がそうなるなんて思っていなかったはずなのに、きちんと見てるから日本とも同じ景色が見える。
    それはダニー・ラフェリエールのみたハイチhttp://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4894348225とも同じ景色だ。
    たとえば直接被災者に手渡すってことをしたい、「何かしてあげる」ことが大事で被災者を見ていないエゴイスティックな善意。
    「かわいそうな人」認定されると何かしてあげ隊がむらがってくる、というのは『海のいる風景』http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4903690970にも通じる。

    「してあげる」ことで自分がいい気分になるだけの善意としては、SVAの「絵本を届ける運動」にもそういうものがある。
    日本で買った絵本に現地の言葉を訳したシールを貼って贈る。
    絵本とシールのセットを申し込んで、工作をしてSVAに返却する。
    どこに何を何冊送るかは事前に決めてあるから、返却されないと困る。
    説明書をつけてあるのにシールが歪んでいるものもたくさんあって、直すのに余計な手間がかかる。
    被災地にいらない衣服を送りたがる「善意」を思い出した。

    それでも手間を承知でこの運動を続けているのは、日本人に世界を知ってほしいという気持ちがあるからなんだと思う。
    私はこの「参加者」の善意に、svaがもっとも遠ざけたがっているであろう傲慢を見る。
    でも、ここの人たちは否定の言葉をまったく吐かない。
    こういうのは困っちゃうけど参加してくれる皆さんに支えられて活動できています、という風に書いている。

    そう書かざるをえないところもあるのかもしれないけれど、それよりは「他人を思い通りに動かせない」ということをわきまえているんだろうと思う。
    これはすごい。

    あいだにはさまれるコラムは、自身もそこの住民である図書館員ら関係者が書いたもの。
    この人たちをもっと知りたい。シャンティの出した、それぞれの民族に伝わるお話の絵本も読んでみたい。

  •  日本のNGOが取り組んでいる「図書館」を中心とする国際協力活動の話で、難民の子どもたちが本・絵本を手に入れることで何が変わるのかなど、現実世界の感動の記録が書かれており、実に詳しく経緯などが紹介されています。
    (教育学部・国語専修/匿名希望)

著者プロフィール

 私たちは、アジアの人びとのために教育・文化の支援活動を行うNGO(公益市民団体)です。
「シャンティ」とは、サンスクリット語(古代インド語)で、「平和、心の静寂」を意味する言葉。世界のあらゆる人々がお互いの違いを尊重し合い、「共に生き、共に学ぶ」平和な社会となりますように――。私たちの願いと志をその言葉に込めています。
設立は1981年、「曹洞宗ボランティア会」として発足。その後、「曹洞宗国際ボランティア会」と改称し、2011年、現在の「公益社団法人シャンティ国際ボランティア会」として新たにスタートしました。
 そもそも、カンボジア難民キャンプにおいて人々の精神的な支えとなるように図書館活動を行うところから活動を開始。以来、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー(ビルマ)難民キャンプ、アフガニスタン、ミャンマー、ネパールにおいて、「本を読む機会の提供」「安心できる場所づくり」「人を育てる」ことを柱とした活動を展開しています。
 その一方、阪神・淡路大震災以降、国内外で30を超える災害救援に取り組み、東日本大震災では、宮城県気仙沼市と岩手県遠野市、宮城県亘理郡山元町に現地事務所を開設して、長期的な活動を行いました。
 主な受賞歴は次の通りです。
正力松太郎賞(1984年)、ソロプチミスト日本財団賞(1985年)、外務大臣賞(1988年)、毎日国際交流賞(1994年)、東京都豊島区感謝状(1995年)、防災担当大臣賞(2004年)、兵庫県知事感謝状(2005年)、第7回井植記念「アジア太平洋文化賞」(2008年)、宮城県社会福祉協議会感謝状(2011年)、ESD岡山アワードグローバル賞(2015年)。

「2017年 『試練と希望 東日本大震災・被災地支援の二〇〇〇日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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