旅の断片

著者 :
  • アノニマ・スタジオ
4.21
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本棚登録 : 785
感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784877588038

作品紹介・あらすじ

登山の専門出版社の編集者を経て、文筆家として活躍する著者による、待望の随筆集第2弾。さまざまな国の風景や人との交流、旅を通じて広がってゆく思考を、静謐な文章でまっすぐに綴ります。個人的な旅の記憶が濃やかに表現され、読者も体感できる情緒豊かな一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 世界19カ国での旅のエッセイを集めた一冊。全11章、317ページ。メキシコ、インド、サハリンなど地域ごとの章と、海、街角、土産などトピックごとに収録した章が約半数ずつ。

    山と渓谷社に勤めた著者だが、プライベートの旅では山を離れたいと、基本的に山岳関連の話題は少ない。同著者の『街と山のあいだ』とは違い、純粋に旅のエッセイとして楽しむことができた。

    主観的な印象に従って旅の瞬間をそれぞれ短く切り取る、詩的な紀行文になっていることが持ち味で、読んでいて収録の順序や時間を意識させない。雄大な自然が見せる厳かな静寂や、素朴に暮らす人々の飾らない姿が清涼で心地よく旅情を誘う。心休まる旅のエッセイ。

    全篇を通して世界の広さと、人との比較ではなく、ただ自らの生を全うすべしというメッセージが伝わる。著者が仕事へのわだかまりから解き放たれる「コルテス海にて」は後日、改めて再読したい一篇。

    「そもそも自分などいてもいなくても大勢に影響はないのだから。自分にできることなんて、たかが知れているのだ。とどのつまり、だからこそ、自分のために生きればいいのだ。自分は自分自身の納得のために生きる。否、自ら死ぬことはできないから、そうやって生きるしかないのだ」

  • コロナ禍のため、遠出を控える日々が続いているせいか、無性に旅エッセイを読みたくなるときがあります。

    本書の著者は、以前山と渓谷社で編集者をされていた方です。
    彼女が旅先で出会った人や風景、そのときに思ったことなどが短い文章で綴られています。
    旅の行き先はメキシコやキプロス、インド、サハリンなど。
    メジャーな都市や観光地ではなく、小さな町。
    そこに滞在して、その街の日常に入りこむような旅…憧れます。

    各国で出会った人々とのささやかな交流を描いたエッセイが、特に好きでした。
    甘味食堂で隣り合ったおばさんたち、拾った琥珀をくれた女の子、熱気球大会のオフィスの女性…そのときその場所であった何気ないやり取りを読んでいると、自分の海外を旅したときの思い出が呼び起こされました。
    国もシチュエーションも違うけど、たどたどしい言葉や身振りでやり取りをしたときのこと、結構しっかり覚えているんだな…と自身の旅の断片を思い返しながら、あたたかい気持ちで読了。

  • この本とても良かったんだけど、良さを伝える言葉がうまく出てこない。

    旅で現地の人と良いコミュニケーションがとれた時の話が印象に残る。何でもないことに心が動いたときのこと、というか。
    人じゃなかったりもする。

    以下引用

    インドネシアで、夜、宿に帰るのに馬車を利用した。
    「降りてお金を払ってから馬をなでてといいかと聞いて、なでさせてもらう。」
    「なでる手を止めるとら馬はもうおしまい?というふうに顔を向けてこちらを見た。」

    引用終わり

    メキシコでサボテンを見て、人の生き方に深い啓示を得たり。

    海に潜っては、今生きている世界の小ささ、知らないだけで別の世界が大きく広がっているのだ、と思ったり。

    旅を通して感じる部分というか、心が動くレイヤが似ていて、あれ?こんなとこ私は行ったことないけど私の旅行記?と思ってしまう。

    旅のエッセイって好きでまぁまぁ読むけど、未知の世界を知らない人が旅してそれを新鮮に読む、ということが多い。

    小説だとうまくフィットすると「これは私に向けて書かれたものなのでは」と思うこともあるけど、旅のエッセイでそんなことはない。作家の主観を横から見てるから。

    なのでこんな不思議な旅のエッセイは初めてだなー、と誰彼構わずお勧めしたくなった。

    装丁も本当に素晴らしい。この小ささ(文庫に横幅与えたようなサイズ)で、この分厚い持ち心地、表紙の布目もだけど、中の紙もざらっとして暖かい…なんか手みたいなんだよな。本なのに。こういう、分厚くて丸っこい手の人いるよねー。という。

    作者は山と渓谷社で編集をしていた方、布好きで旅先の布の話も出てくる。「大量に買ってしまった」と静かな文なのにそこだけ熱量の大きさが漏れてきててクスッとなる。

  • 独特な雰囲気のある旅の記録。
    著者の人間性がとてもよく現れているんだろうなと思わせるような文体や内容。
    タイトルの通り、旅の断片。
    旅行記のような詳細な描写こそないけれど、その瞬間の著者の気持ちがよく伝わってくる。
    ちょっとポエティックな雰囲気なので、好みが分かれるかと思う。
    「Tさんのサンゴ」が特に印象的だった。
    ある時、彼女は旅の土産に現地で拾った貝をある人にあげた。相手は困惑したような笑みを浮かべた。
    拾った貝を土産にするなど少し感傷的過ぎたかと恥ずかしく思う著者。
    自分の気持ちとそれを解ってくれるであろうと思っていた相手との気持ちの齟齬を感じることはよくある。
    貝のお土産を素敵だなと思えるような人には、本書を是非お勧めする。

  • 第5回「斎藤茂太賞」授賞式のお知らせ - 一般社団法人 日本旅行作家協会のプレスリリース
    https://www.value-press.com/pressrelease/256058

    murren vol.26 2020 July
    http://www.murren612.com/index.html

    旅の断片│アノニマ・スタジオ|中央出版株式会社
    https://www.anonima-studio.com/books/essay/a-piece-of-journey/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      ここは名も知らぬ街。“旅そのもの”に包まれる至福のとき | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
      https://www.asahi.com...
      ここは名も知らぬ街。“旅そのもの”に包まれる至福のとき | 朝日新聞デジタルマガジン&[and]
      https://www.asahi.com/and/article/20211227/412804117/
      2021/12/27
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      あたたかい言葉に癒される、リラックス出来る本3選
      | FASHIONSNAP.COM [ファッションスナップ・ドットコム]
      https://...
      あたたかい言葉に癒される、リラックス出来る本3選
      | FASHIONSNAP.COM [ファッションスナップ・ドットコム]
      https://www.fashionsnap.com/article/2022-04-22/book-relax/
      2022/04/23
  • タイトル通り、いろんな旅の断片が集められた本。現地の人とのささやかなやりとり、ふと目に留まったものが丁寧に書かれていてよかった。植物写真家の夫さんと旅するの、いいなあ。最初は少しずつ、一章ずつ読んでいくんだけど、だんだんこの文章の中にいるのが心地よくなって、後半は読み続けてしまった。

  • 銀座の教文館・ナルニアで見つけて購入。前作「山と街のあいだ」が内容はもちろん、装幀も含めて秀悦だったので。
    今回のエッセイも珠玉のものばかりで、正直言ってびっくりする。第二弾も出るということで大変楽しみである。

  • 旅行に行きたくなる一冊。夜の散歩は非日常で私も好きなので、とても共感できた。
    著者は、本書ではあまり知られていない外国の地に行ってるが、日本版もあったら読んでみたい。

  • 旅に行きたくなった。
    とても素敵な年の重ねかたをしている気がした。
    とても優しくて軸が真っ直ぐ通った感じの筆者の様子が感じ取れた。

  • 生活の中に馴染む旅。わたしがいましてみたい旅。それがこの本のなかにたくさんつまっているように感じた。
    物見遊山な旅ではなく、その土地で暮らしている人たちと同じように、生活するみたいに旅がしたい。
    海外ってほぼ行ったことがないんだけど、日本とは全然違う文化にふれてみたいな。
    刺繍の入ったきれいなハンカチがほしい。

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著者プロフィール

1968年兵庫県神戸市生まれ。編集者、文筆家。学習院大学文学部国文学科卒業後、山と溪谷社入社。『wandel』編集長、『山と溪谷』副編集長を経て独立。山や自然、旅に関する雑誌、書籍を編集、執筆。著書に『東京近郊ミニハイク』(小学館)、『東京周辺ヒルトップ散歩』(河出書房新社)、『徒歩旅行』(暮しの手帖社)、『地元菓子』、『石井桃子のことば』(新潮社)、『東京甘味食堂』(講談社文庫)、『岩波少年文庫のあゆみ』など多数。「街と山のあいだ」をテーマにした小冊子『murren』編集・発行人。随筆集『街と山のあいだ』は増刷を重ね、旅の随筆集第一集『旅の断片』は2020年に第5回斎藤茂太賞を受賞した。

「2021年 『途上の旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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