猫路地

著者 :
制作 : 東 雅夫 
  • 日本出版社
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本棚登録 : 101
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784890489558

感想・レビュー・書評

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  • 猫みたいな人もいれば、人みたいな猫もいるけれど、
    一見普通の人と一見普通の猫が出てきて、
    不思議な世界に大真面目に住んでいる。

    あまりに普通に大真面目に住んでいるものだから、
    こっちのいる世界の方が変なのかもしれないと思ってしまうくらい。

    行ってみたいのは、「猫書店」。

    詩歌と幻想的な文学作品ばかり置いているらしいから、
    障害当事者の自伝ばかり私の本棚の中身とは明らかに違う世界だけど。

    もしかすると、紋切り型ではないこだわりを持った選書をしている書店も
    何回か行っているうちに気に入りそうな本を見繕ってくれ、
    なじみのお客にはそっと開店の由来を話してしまう店主も
    昔は不思議でもなんでもなかったのかもしれないけど。

    今は、不思議の世界の住民として
    あまりにぴったりなキャラクターになってしまったのだ。

    もう一箇所行ってみたいのは、「猫波の島」。

    カレンダーには載っていない1日多い日を私もふっと見つけて、
    出かけてみたい。

    魂を半分だけ外に飛ばして遊んでいる猫たちや
    波になっている猫たちもいる。

    たくさんの猫たちが幸せに暮らす島。

    「一緒にいた猫のことを忘れる人間はいないよ。
    どんなに忙しくたって、
    いつかは区切りがついたり疲れた立ち止まる時がくる。
    その時に昔一緒に暮らした猫のことを思い出して、
    みんな必ずここへやって来る」。(p.144.)

    やっとチューニングの合ったピンポイントを
    追いかけすぎてしまう性格の私には、
    「僕」と「セイさん」の距離感は、切ない。

    でも、お互いを静かに思いやる2人の関係はすごくステキだ。

    感情移入をしてしまったのは、「猫魂」。

    家族とも親戚ともどことなくなじめない「自分」。

    魂の何処かが壊れているから、
    泣くことも笑うこともひどく下手だと感じている。

    昔から人交わりが下手で友達ができなかった。

    「君は不自然な人だね。まるで喜んでいる人の真似をしているみたいだ」。
    (p.174.)

    私自身にも聞き覚えのある言葉だ。

    「自分」は、この世界に強い違和感を覚えつつも誰にも馴染めぬまま育つ。

    この「自分」という一人称自体が、性を感じさせない。

    「自分」が人から言われたセリフから
    なんとなく女性なのかなと思わせるのだけれど、
    でも、それはたぶんどちらでもいいのだ。

    伯父が口にした「ねこだま」という言葉がキーワードなり、
    「自分」は秘密を知ることになる。

    「最初の驚きが去った後、自分は意外に平静だった。
    それどころか、どこか安堵さえしていた。」(p.180.)

    これはどこか、大人になってから自分の診断名を
    受け入れるときの心境に似ていると思った。

    自分はどこか変だと思いながらずっと答えが見つからなかったけれど、
    そうだったのかと腑に落ちるのだ。

    これからも自分はここで生きていかねばならない。

    ここは自分にとっての「異界」で、
    あちらこそ本当の居場所なのだと思っていても。

    鈴の音に呼ばれているような気がしても、
    山の中に誘われているような気がしても、
    きっとそこには行けない。

    行ったとしても、そこでもまた、
    姿が違うばかりに完全になじむことはできないであろう。

    狭間の者として生きるのは大変だけれど、
    それでも、ここで生きていかなくてはならない。

    「自分のような者でも心安らかに上手く生きていける場所」に、
    そっと思いをはせながら、
    今日も、リアルで生きていくしかないんだ。

    私は、ファンタジーを読むときでさえ、
    自分を完全には捨てられない大人になってしまった。

    「猫路地を散歩した私」は、「ファンタージエンを旅した私」とは、
    もう違う。

    でも、「ファンタージエン」や「猫路地」は、
    どこかにあると思い続けていたい。

  • 絶対欲しい1冊。面白そう!!

  •  猫と異界をめぐる二十篇の物語。猫好きな人に、ぜひともおススメしたい1冊ですね。 猫好き作家20人による、猫ファンタジー競作集。 それだけでも嬉しいのに、全編、この作品集でしか読めない書き下ろしの作品ばかり!!必ず「猫」の文字が入る猫熟語だったりするタイトルも、たまりません!! 猫に誘われて、異界に遊ぶ不思議体験する作品や、コミカルなもの、切ない話、鼻の奥がツーンとする話、ぞっとする話など、テイストもさまざま。 読み終えた方にはどの作品が好みだったのか、ぜひお聞きしてみたいです。 私が印象深かった作品は、加門七海「猫花火」(猫の鳴き声にノックアウト。ウNr.んNGiぎYAaアおぅuuuッ,fu!)、谷山浩子「猫眼鏡」(心身みっしりと充実させたい!こんな不思議な体験を味わってみたい)、秋里光彦「猫書店」(あの有名な作品の楽屋落ちですか!こんな素敵な書店なら、お願いしても常連になりたいもんだ)、寮美千子「花喰い猫」(幻想譚。黒猫には真紅の薔薇がよく似合う!?うっとり)、佐藤弓生「猫寺物語」(澁澤龍彦の13回忌の法要での不思議な体験。ヒコって!いかにもありえそう。)、井辻朱美「魔女猫」(魔女に黒猫はつきもの。そんな黒猫がしたいたずらとは。語り口がユーモラスで絵が浮んじゃう、可愛いお話)、片岡まみこ「失猫症候群」(ペットロスってこんな風なのかなと思いつつ読書。エッセイ風なので、つい勘ぐっちゃいます。版画で描かれる猫のしぐさがすんごく可愛いの!)、霜島ケイ「猫波」(するっと日常のすきまの時間に入り込んで、「猫波の島」を訪れる物語。こんなひと時が持てたら!心が奥底からじんわり温かくなる1篇)、梶尾真治「猫視」(猫は、人間の目に見えないものまで見てしまうというけど。家族一致団結して悪霊退散した、その顛末。笑った笑った!で、悪びれないのよね!/笑。実話かな)って、ほとんど全部、ですな(笑)。(2006.9.30読了)

  • 夏の夜に、夜更かししてしまいながら 没頭するのにぴったりな、和製ファンタジー。大好き。

  • 猫好き、ファンタジー好きなら絶対に読んで損はない本。題名に全て猫がつくのでそれだけでも面白い。「猫ノ湯」「猫書店」「魔女猫」「猫波」は個人的にオススメ。特に「猫波」はいい。

著者プロフィール

加門七海
<プロフィール>
東京都生まれ。美術館学芸員を経て、1992年『人丸調伏令』でデビュー。伝奇小説・ホラー小説を執筆するかたわら、オカルト・風水・民俗学などへの造詣を生かしたノンフィクションも発表。自身の心霊体験をもとにした怪談実話でも人気を博す。小説に『203号室』『祝山』など、ノンフィクション・エッセイに『大江戸魔方陣』『お咒い日和』『墨東地霊散歩』『加門七海の鬼神伝説』など、怪談実話に『怪談徒然草』『怪のはなし』など多数。

「2023年 『神を創った男 大江匡房』 で使われていた紹介文から引用しています。」

加門七海の作品

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