人喰いの村

  • 藤原書店
3.89
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784894340695

作品紹介・あらすじ

時は1870年8月16日午後2時、舞台は第三共和政前夜のフランスの片田舎。定期市が今やたけなわである。…普仏戦争における最初の敗北の報せが届くと、噂の交錯、政治に関する表象の単純さ、昔の秩序と過去の災厄がよみがえるのではないかという強迫観念、そして君主ナポレオン三世に対する愛情などの諸要因があいまって、農民たちは奇妙で名状しがたく耐えがたい残虐行為にはしることになる。突然、群衆によって捕らえられた一人の青年貴族アラン・ド・モネイス。弱々しくて若禿げの、いかにも見栄えのしない32歳になるこの独身男は、「共和国万歳!」と叫んだという嫌疑をかけられて、二時間にわたる拷問を受けた挙げ句、村の広場で火あぶりにされた。農民の怒りが引き起こした虐殺事件としては、フランス最後のものとなったこの事件とは一体何であったのか?著者は「人喰いの村」の事件に、「群衆の暴力と虐殺の論理」「集合的感性の変遷」という主題を立てて精密な解読を施してゆく。

感想・レビュー・書評

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  • 1870年8月16日に田舎村で一貴族が虐殺された事件の背景を詳細に追う…というミクロヒストリー。

    アナール学派の真髄と言えばそうなんだろうけど、本書の性質上、微に入り際に入りの表現が続くのは必然なんだけど。う~む。

    せめて第2共和政、ルイ・ナポレオン、普仏戦争くらいは事前にさらっておけば良かった。近代フランスの一地方の地味な話が延々と続き、『マルタン・ゲールの帰還』を読んだときを思い出す。

    なお、原註の次頁に関連年表(1789-1899)があり。

  • 1970年8月16日、普仏戦争の戦況悪化が伝えられるなか、フランス中部ペリゴールの農村のはずれで開催された定期市。その会場で起きた青年貴族の虐殺事件についてさまざまな角度からの分析を試みる書。

    不謹慎にも「共和国万歳!」と叫んだかどで有罪宣告を受け、「プロシア人」の「豚野郎」にふさわしい方法で殺された彼の死はわれわれに何を語っているのか。前半では事件の原因となった歴史的・社会的情勢が示され、しかるのちに事件の推移、そして最後にその事件に対する人びとの受容の仕方について分析がなされている。

    虐殺、拷問、身体損壊。16世紀以来後退のはじまった供儀のシステムの諸要素は、宗教戦争のなかで頂点に達して、18世紀末の大革命において再演されたが、すでに衰退のただ中にあった。事件は、何事かを表明しまた遂行するための“感性”とそれにもとづく“行動”の相異なる組み合わせどうしを邂逅させ、それによってまた非常な恐怖と憤慨、茫然自失、失望といった人びとの反応を引き起こす。

    アラン・コルバンの記述スタイルと、本書でとくに頻出する文化人類学的・社会学的なキーワードのために、若干読みづらいものになっているかも知れない。

  • 19世紀フランスの片田舎で農民集団が「プロシア人」(とみなされた地元の青年貴族)を虐殺した。
    この事件自体というよりは、この事件をキーワードにして虐殺や集団心理やこのころの世界を考察する形。

    この事件の発生に向かって当時の社会背景を説いていく。
    丁寧に言葉を積んでいく。
    が、これについては後で書くねという順序を守った書き方は、「続きはCMの後で!」を延々とやられている気分になる。

    そもそも私はこの事件はもとよりフランス史をまったくといっていいほど知らないので、なにについて話しているのかを(ほのめかしではなく)書いておいてくれないと、どこへ行こうとしているのかがわからない。

    どう読めばいいのか迷子。
    注釈を見てもあの本を参照、みたいなのが多くて今この場での参考にはならない。
    ちゃんと調べてから読めばよかった。

    それでも、群集心理だとか、不安をどうにかするために英雄と仮想敵をつくるとか、その装置を壊さないための妄信だとかってのはおぼろげにわかった。
    いうなれば「飢餓浄土」の悪いパターン。
    集団内を安定させるための「虚構」が悪いほうにはたらくと恐ろしい暴虐になってしまう。

    農民のナポレオン崇拝と正義感と、祖国のため君のためと思い込んでの暴走、そしてその皇帝から突きつけられる拒絶は2.26事件を思い起こさせる。


    いかにもな翻訳調の文章が読みにくい。

  • 『ブロデックの報告書』の出版社紹介を見た時、てっきりこの事件の小説化かと思った。早とちり。

    1870年夏、定期市のたったフランスの片田舎・オートフェイ村で起こった拷問・虐殺事件。地元の青年貴族はなぜ殺されなければならなかったのか。
    当時の農民層の間に流布していた、貴族・司教・共和政に対する憎悪をかきたてるような噂、ナポレオン三世に向けられた素朴な愛着心、普仏戦争によって引き起こされたプロシア人に対する恐怖の念、といった“歴史的・社会的文脈”の説明、そして定期市(殊に家畜市)のもつ空間的特殊性にも言及しつつ、この事件の経緯が解きおこされていく。
    個人的には、この事件が当時の人々にどう捉えられたか―実際には行われていなかったのにもかかわらず、「人喰い」という言葉を使って激しく糾弾されたのはなぜか―、事件の被告たちの裁判の様子を含めて解説されている第4章が特に興味深かった。
       
        Le Village des Cannibales by Alain Corbin

  • 2009.6.20 読了

  • 19世紀のフランスで実際に起きた虐殺事件について、当時の歴史的背景や心理的背景を辿り、どのような過程を経て事件へと発展したのかを考察する本。
    関連する出来事の年号や固有名詞などが頻出するので、それに慣れるまでは頭がごちゃごちゃするかも。

  • 1870年フランスの片田舎で起こった残酷な事件はなぜ起こったのか?単に群集心理の暴走の結果や貴族への反発が表出しただけなのか?
    地方ブルジョワジーによる風説やナポレオン神話などにより、農民の間に芽生えていた集合的感性を分析した本。

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著者プロフィール

●アラン・コルバン(Alain Corbin)
1936年フランス・オルヌ県生。カーン大学卒業後、歴史の教授資格取得(1959年)。リモージュのリセで教えた後、トゥールのフランソワ・ラブレー大学教授として現代史を担当(1972-1986)。1987年よりパリ第1(パンテオン=ソルボンヌ)大学教授として、モーリス・アギュロンの跡を継いで19世紀史の講座を担当。著書に『娼婦』『においの歴史』『浜辺の誕生』『時間・欲望・恐怖』『人喰いの村』『感性の歴史』(フェーヴル、デュビイ共著)『音の風景』『記録を残さなかった男の歴史』『感性の歴史家 アラン・コルバン』『風景と人間』『空と海』『快楽の歴史』(いずれも藤原書店刊)。叢書『身体の歴史』(全3巻)のうち第2巻『Ⅱ――19世紀 フランス革命から第1次世界大戦まで』を編集(藤原書店刊)。本叢書『男らしさの歴史』(全3巻)のうち第2巻『男らしさの勝利――19世紀』(2011年)を編集。


「2017年 『男らしさの歴史 Ⅱ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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