若者が社会的弱者に転落する (新書y 74)

著者 :
  • 洋泉社
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784896916782

感想・レビュー・書評

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  • 埋もれた名著である。
     
    フリーターと呼ばれる若者達がなぜこれほど増えたのか? 
    パラサイトシングルと呼ばれる人達がなぜこれほど一般化してきたのか?
    なぜ、我々はなかなか結婚出来ないのか? 
    そして
    (私自身が若年層への取材を通して感じてきた疑問なのだが)
    「やりがい」や 「OnlyOneな職業・生き方」を過剰に、時に分不相応なまでに追求し続ける若者達が目立つのはなぜなのか?
    さらに、
    若者達の「生き辛さ」や「心の漂流」の背景に何があるのか? 

     …これらの疑問への答えを、本書は明らかにしてくれる。
     その回答の一つが、“標準的なライフコースの崩壊“なのであるが、日本社会が我々が気づかないうちに構造的に変化して来てしまっていることが明らかにされる。
     “最近の若い者は…”という表層的な世代論の一方で、真に構造的な変化が進行している。本書は、その構造的な変化を、社会学的なデータに基づいて詳らかにしてくれる。

     最近の若い者は…と感じているオヤジ世代諸兄、 「若者問題」に関心のある取材者、教育関係者、 そして、全ての親に、 本書の一読をお薦めしたい。
    “目からウロコ”の本である。

     十分に注目されることなく埋もれてきた感があるが、もっと評価されてよい重要な本である。

  • 2002年出版で、1990年代のデータが使われているので、1970年代から2000年前後の若者の状況がよく理解できる。

    そこから、日本の経済的な背景から心理面、仕事感、結婚観まで書かれ、若者の根っこを作れ!と警告を鳴らす。

    しかし、その点は改善されず、2011年現在、その根っこを作れなかった若者が社会的弱者として、社会問題となってきている。

    1990年からの若者の問題の発端を知るのはこの本から。
    そして、その問題をどう対応すれば良いかは、宮台教授の就活原論を読むとよいと思います。

    ーーーーー
    豊かさを実現した社会ではややもすると、親世代も子世代も手に入れた豊かさを失うまいとして保守化し、活力を失っていく。とりわけ学歴や偏差値だけがよりよい生活実現の条件ととらえられている社会では、子どもたちは勉強をする機械となり、そこから落ちこぼれる大量の子どもたちは、生きる場がない。落ちこぼれない子どもたちも、親にとっての「いい子」を守ろうとして、限られた生き方しかできない。

    子育ては、転換すべき段階にある。厳しい労働の世界から子どもを遠ざけ、もっぱら教育の場に隔離した時代は、終わっている。共働き家庭があたりまえ、母子家庭や父子家庭の増加もみこまれるなかで、家庭の一員として子どもに役割や責任を与えるとともに、生きた社会にかかわることを積極的に進める方向へ転換がのぞまれている。

    自分の頭で考え、回答をみつけ、自分の道を選択しながら進んでいく時代がすでに始まっている。だから大人は、子どもの生活に根っこを生やすさまざまな試みをしなければ、次世代の大人たちは生きる力を見につけることができないのだ。

  • 本書の著者である宮本みち子さんの講義を奥さんと一緒に放送大学で見た。

    人生について夫婦話し合ってきたことを再認識し、奥さんに改めて感謝した。

    気づけばアラフォー、子供たちが人生について考える時に夢が膨らむような社会であるようにしたいなぁと思う。

    今、アー坊(5歳)がなりたいのはパン屋さん!

  •  「パラサイト・シングル」は単に根性や、やる気が無いから親に依存しているのではなく、産業構造の変化(製造業の衰退、学生アルバイトの増加、産業の空洞化)に伴う労働市場の悪化、家庭環境の変容による離婚・再婚の増加、職業に必要とされる教育水準の上昇、政府の若者への自立支援削減、世代間の所得格差の増大などといった諸要因からやむを得なく依存している。

     親は子どもの唯一の責任者として、子どもの出来、不出来が世間に評価される一方、子どもの意思を尊重しなければならないという矛盾が親の子育てへの不安や恐怖を強めている。しかも、そういった悩みを社会問題として共有しようとするのではなく、個人や家庭の問題として押し込める傾向も強まっている。

     上記の「パラサイト・シングル」の問題と併せて考えると、あらゆることは「自己選択」、「自己責任」となり、社会が責任を負わない仕組みが形成されていると言える。

     「子どもがおかしい」、「若者が変わった」とも言われますが、それは家庭・学校・地域などの環境変化の累積が生んだものだそうです。今から4~50年以上前は今よりも若者による犯罪が多かったのは犯罪白書を見れば明白である。

     後半では「教育のコストは本人負担」、「学生の仕事を将来の職業につなげる」、「社会に若者を託し、若者が自分を試す期間を用意する」といった提言をしている。

     ここまで根深いのに、気付く人や知ろうとする人が少ない「若者」に迫る危機を浮き彫りにした本はなかなか無い。しかも、この本は「ニート」という概念が日本に輸入される前に書かれた本である。著者は先見の明があると思う。

  • すばらしい。多角的にフリーターの若者を分析。どれも説得力があり、とっても勉強になります。コストパフォーマンスの高い一冊です。

  • 今、日本の若者たちは崖っぷちに立っている。―「パラサイト・シングル」論、フリーター、未婚化、少子化、モラトリアム……。

    これらを「彼ら(=若者たち)」だけの問題にするのではなく、当事者は社会だと訴える筆者の姿勢に共感しました。
    数多くの資料を使いながら論理が展開されていて、非常に分かりやすいです。が、何だか胸を締め付けられたような気がするのも確か。

    ま、私も『社会的弱者』の一人になるのかな…。

著者プロフィール

放送大学名誉教授・千葉大学名誉教授。専門は生活保障論、若者政策論、家族社会学。東京教育大学文学部卒業(経済学専攻、社会学専攻)。お茶の水女子大学家政学研究科修士課程修了。社会学博士。こども政策の推進に係る有識者会議構成員、社会保障審議会委員、中央教育審議会委員、労働政策審議会委員等を歴任。著作に『ポスト青年期の親子戦略――大人になる意味と形の変容』(勁草書房、2004年)、『若者が無縁化する』(筑摩書房、2012年)、『すべての若者が生きられる未来を』(編著、岩波書店、2015年)、『下層化する女性たち』(編著、勁草書房、2015年)、『アンダークラス化する若者たち――生活保障をどう立て直すか』(編著、明石書店、2021年)など。

「2023年 『若者の権利と若者政策』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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