ココの詩

著者 :
  • リブリオ出版
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本棚登録 : 140
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784897841571

感想・レビュー・書評

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  •  本書は、高楼方子さん初の長篇となり(1987年)、その姉にあたる千葉史子さんの、きっちりとした中にも愛嬌のある美しい絵で描かれた、可愛らしい女の子の人形「ココ」が、まるで生命を得たように持ち主の家を抜け出して街へと向かう展開には、児童書ならではのワクワク感があったものの、それだけでは終わらないところに、方子さんらしさを感じられた。

     最初は喜びに胸弾ませていたココであったが、やがて訪れる、数々の言葉にし尽くせない思いの数々には、現実の人生特有の、人生とは、こうもままならないものなのかといった、きれい事だけで生きていくことの難しさを実感させられたと思ったら、意外なところに着地させる終わり方に不思議な感覚を抱かせた、そんな奇妙な後味を残しつつも最後に残ったのは、人生の素晴らしさであった。

     それは本編に於いて、感情を激しく動かされるような魂の叫びにも近い思いを抱いた時、ココの身にある変化が訪れることからも分かるように、人生は楽しいことばかりではなく、時には自分を惨めなほどに曝け出しながら社会の波に埋もれてしまうことだってあるけれども、そんな非情さの中でこそ垣間見える、悲しくも愚直なまでにもがき続ける様に美学を感じさせるような、そんな魂の叫びに胸を打たれたからこそ、『ココの詩』というタイトルにも、身に染みるものがあるのだと思う。

     ただ、終盤の意外性に絡んだ内容が専門的過ぎたことが、物語の興を削いだこともあって、作品としての完成度は高いけれども、感情移入の度合いは薄まってしまったのが気にはなったものの、冷静に考えると、これはある意味、とても非情な内容だと感じ、元がそうだから、こうしてもいいでしょうといった点には、後々の方子さんの作品にも見られる、人生の分かれ道には紙一重な一面もあって、そこに人間の繊細で不完全な部分が如実に表れるけれども、それが人間なんだと言われているようで、そこに方子さんならではのエールはあるのだろうなと感じられた、ファンタジー要素でオブラートに包んでいるものの、とても現実的な作品でした。


     本書は、akikobbさんのレビューがきっかけで読むことができました。
    ありがとうございます。

    • akikobbさん
      たださん、読まれたのですね!私にとっては去年一番の衝撃作、だったかもしれません。
      「非情」なんだけれども「エール」もある、まさにそうだなあと...
      たださん、読まれたのですね!私にとっては去年一番の衝撃作、だったかもしれません。
      「非情」なんだけれども「エール」もある、まさにそうだなあと思いました。かなりタフなエールですよね^^; 
      2024/05/13
    • たださん
      akikobbさん
      コメントありがとうございます(^^)

      おそらく若い頃に読んでいたら、面白かったなと感じてしまうのではないかと思ったのは...
      akikobbさん
      コメントありがとうございます(^^)

      おそらく若い頃に読んでいたら、面白かったなと感じてしまうのではないかと思ったのは、まだ失うことの怖さや戻れないところまで来てしまったことの怖さを知らないからだと実感しまして、人生にはこういうこともあるというのは、自ら体験するのはとても辛い、しかし物語として捉えると、これはこれで素晴らしい生き様だと思えるような、そんな人間の中にある美意識を表現したかったのではないかと私は感じましたが、もう一度読みたいかというと、そうは思えなくて。
      ただ、それは作品の良し悪しや好き嫌いの問題ではなくて、あまりに現実的過ぎることに対して、それが正解だときっと認めたくないのでしょうね。改めて、これがデビュー作ということに、底知れない方だと感じました。

      でも、他の作品もまた読みますよ(^^)
      2024/05/13
  • 児童書だけどココには狂おしいまでの切ない恋があるのです。きっと何度同じ場面があってもココは同じ選択をする。何度生まれ変わっても。人形とネズミと猫が出てきます。悪役でさえも憎めなくて楽しい。でも切ない物語。

  • 衝撃的な最後。たかどのほうこさんの文いいなあ。途中の詩の部分、読みにくいけどいい。

  • 表紙画像がないのが残念。高楼方子さん。人形ココが生命を得て経験するいろいろの、かなり厚くて長いお話。
    挿絵がかわいらしくて、使われていることばもたしか易しいものが多かった気がするのだけど、それとは対照的な怖さをどことなく感じた。「人形」というもののもつ性質なんだろうか。タイトルにも詩ということばが使われているけれど、長い長い詩を読んでいるような印象の物語。
    読んだ直後は好きになれなかったのだけど、いま思い返してみるともう一度読んでみたくなる。もしかしたら、高楼さんの本のなかでいっとうのお気に入りになるかもしれない。

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00502066

    有名な美術館の絵がすり替えられる!人形のココとネズミ達は、ネコの一味と対決します。ところが、―物語は500年前の幻想的ともいえる戦いへと思わぬ展開に!大型新人520枚の意欲作。(書店HPより)

  • 「人形のココは、ある日子ども部屋で金色の鍵を拾い、小さな女の子のすがたになります。春風に誘われ、初めてフィレンツェの街にでたココは、そこで出会ったやくざなネズミ「ヤス」に恋をするのでした。しかし無垢なココはヤスにだまされ、借金のカタにネコに売られて、召使いとして暮らすことになります。どうしようもなく恋い焦がれる気持ちと正義感とのあいだで揺れながら、ココは名画の贋作をめぐってネコ一味との攻防に巻き込まれていくのでした。

    読んであげるなら ―
    自分で読むなら 小学高学年から」
    (福音館HP紹介より)

  •  はるな檸檬「れもん、読むもん!」つながりで。すさまじかった。人形からねずみくらいの女の子となって何も知らぬまま、自由な外の世界に出て、ネズミのヤスに恋して舟にのせられるも、知らぬ間に借金のかたに猫のボスに売られ。召使いとしてのんきに暮らしつつ、ヤスのむかえを信じつつ、いつのまにか真面目なネズミモロに協力して、猫のボスの名画窃盗を暴くことに。絶対そうなるとわかりつつ、ヤスの縄をほどいてあげるシーンなど、苦しくなってくる。そして決戦の場から、ファンタジーな展開をたどって、何もかも吹き飛ばしてしまうような結末へ。苦い、本当に児童文学なのだろうという舌の上に残る苦さ。はるなさんのマンガでの解説が、ものすごい説得力とともにせまってきた。

  • 少女漫画喫茶で紹介されていたので読んでみたが、この歳になって不条理ファンタジーは無理だった。

  • かなり読み応えがありました。
    恋するときめき、ネズミの友人との愉快なやりとり、手痛い裏切り…そして衝撃の結末に胸が苦しくなりました。終盤のサン・ロマーノの戦いの章がとても印象深いです。

  • これは本当に児童書の区分でよいのか…?
    絵のふんわり感からも、メルヘンなお人形の冒険物語かと思っていたら、とんでもない。
    ネズミや猫や人形少女に置き換えてあるだけで、結構どろどろしてますね。
    ヤスとココなんて、DV男とダメ女の関係にしか見えんー。
    クライマックスの展開も切ないし、終わり方がまた恐ろしい…ココはまた同じことを繰り返すつもりかしらー!
    悲しくて重い話はわたしダメなんだよね…><

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著者プロフィール

高楼方子 函館市生まれ。絵本に『まあちゃんのながいかみ』(福音館書店)「つんつくせんせい」シリーズ(フレーベル館)など。幼年童話に『みどりいろのたね』(福音館書店)、低・中学年向きの作品に、『ねこが見た話』『おーばあちゃんはきらきら』(以上福音館書店)『紳士とオバケ氏』(フレーベル館)『ルゥルゥおはなしして』(岩波書店)「へんてこもり」シリーズ(偕成社)など。高学年向きの作品に『時計坂の家』『十一月の扉』『ココの詩』『緑の模様画』(以上福音館書店)『リリコは眠れない』(あかね書房)『街角には物語が.....』(偕成社)など。翻訳に『小公女』(福音館書店)、エッセイに『記憶の小瓶』(クレヨンハウス)『老嬢物語』(偕成社)がある。『いたずらおばあさん』(フレーベル館)で路傍の石幼少年文学賞、『キロコちゃんとみどりのくつ』(あかね書房)で児童福祉文化賞、『十一月の扉』『おともださにナリマ小』(フレーベル館)で産経児童出版文化賞、『わたしたちの帽子』(フレーベル館)で赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞を受賞。札幌市在住。

「2021年 『黄色い夏の日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高楼方子の作品

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