放浪の画家 ニコ・ピロスマニ: 永遠への憧憬、そして帰還

  • 冨山房インターナショナル
3.56
  • (1)
  • (4)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 21
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784905194149

作品紹介・あらすじ

日々の糧とひきかえに店の看板や壁に飾る絵を描き続けたグルジアの伝説の画家。孤独とさすらいの人生を語る初めての評伝。『百万本のバラ』で歌われた貧しい絵描きの生涯。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ニコ・ピロスマニという名を耳にして、
    すぐにピンとこない人でも、
    〝百万本のバラ〟に歌われているあの画家と言われれば、
    あぁ、あの・・・となる人がたくさんいるはずです。

    ニコ・ピロスマニは、
    19世紀末から20世紀初めにかけて活動したジョージアの画家で、
    〝放浪の画家〟〝孤高の画家〟ともいわれ、
    ジョージア国民ならだれもが知っている存在なのだそうです。

    彼は美術教育を受けたことがなく、
    独学で絵を描き続けました。
    ですからその画風はアンリ・ルソーと同じ、
    ナイーブ・アート(素朴派)に分類されますが、
    実はその作品は
    独自の技法を駆使したものであるということを
    本書を読んで知りました。

    ルソーはピカソやその仲間たちに認められ、
    少々勘違いしてしまったきらいがありますが、
    同じようにピカソや
    ソビエト美術界に認められたニコ・ピロスマニには
    驕り高ぶったところは見受けられません。
    彼にはもちろん
    美術史に名を刻んでやろうなどという野望はなく。
    ただ単に絵を描くことが好きだった、
    絵を描けるなら他に欲しいものはない
    という人だったのではないでしょうか。

    家を持たず、放浪しながら絵や看板を描いて、
    それを一杯のワインやひとかけらのパン、
    あるいは干し草の寝床と交換し、
    生涯その日暮らしを続けた人でした。
    あちこちで描いて回ったものですから、
    いつしか町中に彼の絵があふれ、
    町全体が彼の作品を展示する
    ギャラリーになったようなものです。
    最期は狭い倉庫のような場所で、
    ひとり寂しく息を引きとったそうですが、
    絵描きとしては
    幸せな生涯だったのではないでしょうか。

    彼がジョージアの国民的画家となったのは、
    亡くなった後のことです。
    1969年にはパリで大規模な回顧展も開催されました。
    その会場にマルガリータと名乗る女性が3日続けて訪れ、
    ある絵を眺めながら涙をながしていたと言われています。
    それ作品こそ『女優マルガリータ』というタイトルの絵で、
    〝百万本のバラ〟の伝説のもとになったものです。

    ピロスマニは、1894年に町を訪れた
    フランスの女優マルガリータに一目惚れ。
    その想いのあかしとして全財産をはたいて町中のバラを買い占め、
    彼女の泊まるホテル前の広場を花で埋め尽くしたといわれています。
    このエピソードは、
    アンドレイ・ヴォズネセンスキーの詩によって有名になり、
    後に〝百万本のバラ〟として歌われるようになりました。
    でも、この美しいエピソードの信憑性は定かではないそうです。
    生涯清貧を貫いた画家にそんなことができたでしょうか?
    はなはだ疑問です。

    生前のニコ・ピロスマニを知っている人たちは、
    「彼の胸には天使がいる」
    「彼の手からは善が表れる」
    と言っていたそうです。
    彼の絵は人々をいつくしむ愛の象徴といわれるほどです。

    彼の絵の多くは、
    食卓を囲むジョージアの人々や
    農村風景、家畜や野生の動物たちです。
    ジョージアの人たちにとって彼の絵は、
    誇りであり、郷愁であり、
    ジョージアの魂そのものといっても良いのではないでしょうか。

    本書ではジョージアの歴史や、
    ジョージアの人たちの国民性も知ることができました。






    べそかきアルルカンの詩的日常
    http://blog.goo.ne.jp/b-arlequin/
    べそかきアルルカンの“スケッチブックを小脇に抱え”
    http://blog.goo.ne.jp/besokaki-a
    べそかきアルルカンの“銀幕の向こうがわ”
    http://booklog.jp/users/besokaki-arlequin2

  • ピロスマニの全体像を知るための最適の本でしょう。

    いつの日か、グルジアに行って、ピロスマニの絵を存分に見てきたい!

  • 放浪の画家といわれるように、1862年に生まれながらその詳細はあまり分かっていないようだ。
    しかし、画家として故郷ジョージア(グルジア)では、英雄である。
    「ピロスマニは、グルジア人にとって魂の大切な一部です」(p59)と日本在住のグルジア人は言う。
    ピロスマニの書く絵は、独特の可愛らしさ(特に動物)がある一方、どことなく物悲しさも感じる。
    本書は、そんなピロスマニについて書かれている。
    また、彼の書いた作品についての解説もある。

  • 挿絵もきれいで、文章も読みやすかった。絵の温かみが伝わってくるようだった。
    素朴で単純な絵に見えるのに、計算されつくしている画家の絵。下書きもせず、黒いキャンバスに色を塗っていって、黒い部分は残すという手法に感嘆した。パノラマ画のポスターを部屋に貼りたい。『カヘティの叙事詩』、どこかに売ってないかな……
    この本をきっかけにグルジアの音楽が好きになった。グルジアン・ポリフォニー。グルジアの映画を見てみたい。グルジアに直接行ってみたい。
    グルジアだけではなく、世界にはたくさんの国があって、私の知らない生活がいたるところで、たしかに送られている。そういうことを考えていたら海外に行きたくなった。もっと諸外国のことを知りたくなった。
    この本を読んでそんなことを考えた。

  • また一人
    すてきな「絵描き」を知ることができた

    人は「絵」を描く存在である
    どんな時代でも
    どんな国でも
    「絵」を描く人は
    いた

    ニコ・ピロスマニ
    1862~1918
    グルジア生まれ


    人はいなくなっても
    「絵」はちゃんと
    残っていく

    人がその絵描きのことを
    思い出すたびに
    「絵」は
    今を生きていく

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

はらだたけひで
1954年、東京都に生まれる。1974年から2019年まで、東京・岩波ホール(2022年に閉館)で世界の名作映画の上映に携わる。1978年公開の「ピロスマニ」以降、ジョージア文化、特に同国の映画の紹介に努め、現在は「ジョージア映画祭」を主宰する。創作絵本に『パシュラル先生』(産経児童出版文化賞入賞)のシリーズ、『フランチェスコ』(ユニセフ= エズラ・ジャック・キーツ国際絵本画家最優秀賞)、『しろいおひげの人』など多数。挿画も多く『ダギーへの手紙』(E・キューブラー・ロス)、『十歳のきみへ』(日野原重明)、『森のお店やさん』(林原玉枝)など。ジョージア関係の著作に『グルジア映画への旅』、『放浪の画家ニコ・ピロスマニ』、『放浪の聖画家ピロスマニ』などがある。2022年にジョージア政府から文化功労賞が授与される。

「2023年 『子どもの十字軍』 で使われていた紹介文から引用しています。」

はらだたけひでの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×