佐藤泰志作品集

著者 :
  • クレイン
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本棚登録 : 162
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (686ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784906681280

感想・レビュー・書評

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  • 著者は1949年函館に生まれ新潮小説新人賞・芥川賞・三島賞の候補に何度も挙がりながら無冠のままで作家生涯を1990年41歳で自殺し閉じた。

     本書は作家の死後にクレインから出版された作品集ですが、現在文庫化されている小説や短編集と未収録の数点が綴られた物で著者の作品に頻繁に登場する海の色をモチーフにした様なブルーの装丁で項数も多く読み応えのある1冊です。

     作品に共通しているのは地味で陰鬱で舞台が沿岸のうらぶれた田舎街である事が多く青春時代の主人公と男友達や女性達との僅かな時間を通して大層な意味も無い日常を綴っているのだが、ただ性別問わず親や友人に対しての思い入れは強く変わった形で表現される愛や性を通して濃密な関係を創るかと思うとそうでもない様なクールな書き方が味わい深く著者の作風に引き込まれる所以です。

     地味で陰鬱だけど何かが輝いて生きることの意味、皆小さな存在で小さな世界で一生懸命に何かしら輝いているのだと感じさせられる作品です。

  • 名作揃いでほんと贅沢ですばらしい作品集なんだけど、
    それとは別で親しかった先生方が佐藤泰志さんについて書いた「佐藤泰志作品集に寄せて」という付録もよかった。みなさんやや距離感をもって語っているけれど植木畑で首を吊って亡くなったという事実があるのでとても心に重くくる。41歳で亡くなったのはやはり残念だ。
    この作品集はやや入手難になってるようだけど、たくさんのひとの手に届いてほしい。

  • 酒とタバコと男と女。
    希望が全く無いような状況だからこそ希望が見える。

  • この作品集を読んだ後で函館に行った。夕方、五稜郭タワーに登ったとき、雪に覆われた街に夕日が差し込み、あたたかな陽の光に数十分包まれた。しばらくすると闇が広がり、街の灯りがぽつぽつと灯り、寒さのせいか遠くにかすみ、揺らめいて見える。その情景を目にした時に、この小説に描かれた人々はこの地で懸命に生きていると感じられた。普段は日常に溶け込んでいて見えないが、毎日をもがきながらもなんとか生きる、隣にいる人について書いた作品の数々が胸に残る。一生抱えて生きるだろう作品集。

  • 小説(大きなハードルと小さなハードル、納屋のように広い心、虹、移動動物園、鬼ガ島)及び、エッセイ、詩、を読了。/「移動動物園」の役に立たなくなった動物を殺すシーンの生々しさと凶暴さと、園長とはなれられない道子への主人公の思い。「鬼が島」の、主人公の父の「どこにでも行け、ゴミみたいなことをいっぱい知って、ゴミみたいな男になれ」という怒声、文子の少女期の経験からどの男の子供も堕す、養護学校の職を選ぶ、誰にも文句など言わせないという力強さ。「大きなハードルと小さなハードル」「納屋のように広い心」でのアルコールにおぼれる秀雄のどうしようもなさと差し伸べられた手を素直にとれない意固地さと、後悔しているかという問いへの、妻の「誰にいっているの。馬鹿にしないでほいしわ」という毅然さ。遺作となった「虹」が、父母も職場の資料館も村も顧みず、田舎の村を捨てる決意を固めた主人公が、友人を追いかけて都会からきた女性と対話を重ねるうちに、決心を改め、急いで出ていくことはないと残ることに決めたところに感じた救い。

  • この本自体取り寄せてビックリ。700頁弱、小さい字、見開きで上下に分かれて記載。こんな本最近ないよね。
    昨年が没後20年ということでさここにきて盛り上がってます?調べてみると、海炭市叙景、そこのみにて光輝く、オーバーフェンス、きみの歌はうたえる、草の響きと5本も映画化。凄い。生存中は多分コアなファンだけに読まれてたのだろうと思うのに。
    どの作品にも、世の中の底辺でのたうつやり切れない若者の姿があると思う。汗、タバコ、酒、セックス。でも皆そこでしっかり生きてるんだよね。本の中にエネルギーが膨らんでる。
    読み応え十分。エッセイは著者の内側が透けており、彼の体験した出来事がそこかしこに著作にみられること発見。映画化中3本は収載。

    映画の暗さから興味を持って

  • 2021/6/28
    出会うべき時に出会ったのだ、と、思いたい。

  • 佐藤泰志全集を読んだ。
    村上春樹と同年代で、41歳で自宅近くの木で首つり自殺をした男性というのに惹かれ、借りてみた。
    北海道出身で、雪国の短い夏をテーマにした作品が多い。彼の自殺によって未完の作品となった「海炭市叙景」は函館を思わせる炭坑近くに済む人々の群像劇で、希望に満ちた少年や、その日を生きる小銭もなくて半ば自殺に近い形で死んでしまう青年、先のない不倫に見切りを付ける女性等の日常が淡々とした口調で語られ心にしみ込んでくる。
    日常におこる事をテーマにした作品は好きです。ひとつの文が短いのも好き。人物の描き方もリアルで、親しい友達が書いた日記を読むような気分になってしまいました。心に染み渡るような文章。
    作中に「炭坑」がよく出てくるのもイイ。炭坑ってなぜかものすごく郷愁を誘われます。私自身は炭坑となんの関係もありませんが。昼間ドロだらけになって働いて、夜は飲んで、賭け事して、色事をして、泥水みたいに寝るのです。人生を感じますよね。閉鎖された炭坑とか...見に行ってみたい...。

  • 映画『書くことの重さ』タキオンジャパン版サイト | 9月28日(土)~ シネマアイリス(函館)にて先行上映!
    http://kakukotonoomosa.com/

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    「その清冽な文体が織りなす佐藤泰志(さとう・やすし)の作品世界に触れた熱心な読者から、久しく刊行が待ち望まれていた作品集です。十八の物語で綴られる「海炭市叙景」での、街に生きる人々の日常にある生の重み、「きみの鳥はうたえる」での、青春の激しさと混沌、「そこのみにて光輝く」での、男と女の出会いが生む愛と性など、まさに人が今ここにあることで輝く物語を描き尽くしています。その作品は、いまなお読み手の心を揺さぶり続けるはずです。また、これまであまり目に触れることのなかった詩作・エッセイも収録しており、この一冊で作家・佐藤泰志の全体像を感じ取っていただけると思います。 」

  • 染みてゆくような文章を読む。何とか崩れないようにとそっと手のひらで受け止めようとするのだが、それは手に触れた瞬間にやはりを形を失い、さらさらと砂のように指の間をこぼれてゆく。後には何も残らない、とその時には思うのだが、皮膚を通して身体の中に入り込んだものが不治の病の病原のように静かにゆっくりと体中をめぐって感染を広げてゆき、気付くと身動きができなくなっている。地面が急に柔らかくなりその場に静かに深く沈んでゆくような、あるいは徐々に身体がこわばり石になってしまうのを体験しているような、何ともやりきれない重苦しさが身を包みこんでゆく。だがそれは何かに魅せられたような感覚でもあって、抗いようのない麻酔のように脳にも染み込んでくるのだ。どこまでも感覚が痺れて意識が沈み込んでゆくような恐ろしさを覚えつつも、うっとりとした眠気に襲われる。それを振り払うことは返って気分の悪い結果を招くことは解っている。だが、この悲観した人物たちの群れに取り込まれてゆくことは、あちら側へ漂っていくことを意味しないだろうか、とそんな恐れも同時に覚える。緊張感を強いる本。

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著者プロフィール

1949-1990。北海道・函館生まれ。高校時代より小説を書き始める。81年、「きみの鳥はうたえる」で芥川賞候補になり、以降三回、同賞候補に。89年、『そこのみにて光輝く』で三島賞候補になる。90年、自死。

「2011年 『大きなハードルと小さなハードル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤泰志の作品

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