全訳 男色大鑑〈武士編〉

  • 文学通信
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784909658036

作品紹介・あらすじ

井原西鶴が1687年に描き出した、詩情あふれる華麗・勇武な男色物語が、遂に現代に甦る!
若衆と念者の「死をも辞さない強い絆」は、作品中、常に焦点となっている三角関係の緊張感とともに、長い間、誠の愛を渇望して止まぬ人々の心を密かに潤し続けてきた。
世界の奇書として名高い『男色大鑑』であるが、現代語訳の単行本としては戦後初。全集でしか読めなかった作品群が、分かりやすい現代語と流麗なイラストによって鮮やかに息を吹き返す。
本書は『男色大鑑』八巻中、前半の武家社会の衆道に取材した作品四巻までを収録(後半の四巻は2019年6月に刊行予定)。
イラストに、あんどうれい、大竹直子、九州男児、こふで、紗久楽さわ、といった豪華な漫画家陣が参加。現代語訳は、若手中心の気鋭の研究者、佐藤智子、杉本紀子、染谷智幸、畑中千晶、濱口順一、浜田泰彦、早川由美、松村美奈。

感想・レビュー・書評

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  • 井原西鶴の「問題作」の現代語訳。
    古典文学に明るくなくても、拾い読みでも構わないから気軽に読んでくれとばかりに、各章ごとに挿絵やあらすじをつけ、また注釈は必要最低限に抑えつつも図を付して江戸期の風俗を簡単に見て取れるようにしてくれているという、とにかく親切設計な一冊。個人的には巻末の解説を読んでから本文に触れると良いと思います。

    作品の中身はというと、さすが流行作家の手によるものでエンタメ精神に溢れ、時には日本書紀や伊勢物語を引用して「衆道(要は少年愛)は気高いものだ」と持ち上げ、自身が「好色一代男」など著している癖に女色をあの手この手でディスる。

    肝心の?「直接的なシーン」はほぼない(「枕を並べた」くらいで、拍子抜けするくらいさっと流す)ものの、一方でそこに至るまでには男たちな一途な変態ぶりを垣間見、武士の性なのか美徳なのかはわからないがいわゆる「メリーバッドエンド」的オチに向かう。
    まさかここまで楽しめるとは、と驚きの読書体験でした。

  •  井原西鶴翁の男色大鑑(なんしょくおおかがみ)、こちらは武士編。
     浪人となったものや、相手が町人であったりするものもあるが、原則的には武家社会を舞台とする、逸話集である。  タイトルから引く向きもあろうが、本作は所謂「こういうカップルや人気の美少年がおりまして、かくかくの所以があった、逸話があった」という逸話集である。
     短編かれこれ40篇ほどなので、一話ずつ読むもよし。各話の冒頭に、あらすじ解説があるので、西鶴翁のノリが分からない現代の初見読者にも、とっつきやすい優しい設計。
     ただし、恋のもどかしさや胸を焦がすようなドキドキ、性愛描写を期待する向きは、現代のBL小説をお読みになるほうがよい。

     つまり『そういうの』は載ってない(のでご安心)……である。

     武家社会の話中心なので、必定『契り』の大切さ、それに準じる意気地といったものが前面に出てくる。
     巻末の染谷智幸による『男色の楽しみと衆道の歴史』は、こうした逸話の背後にある精神史を、短くも解り易くまとめている。この小論だけでも、星5つをつけたい。
     俳諧のひとであり、古今の詩歌に通じた西鶴翁であるから、書きだしの一つ一つにも、言葉のセンスが良い。季節の描写や風景に重ねて描かれる少年の美、あるいは登場人物の風体が、すぐれた訳によって現代の読者の前にもありありと立ち現れてくるのである。
     セットになった《歌舞伎若衆編》とどちらから先に読むかは、読者次第であるが。
     本作から当時の男色を取り巻くバックボーンを知り、武家社会の中に息づく峻烈にして純情を楽しんだら、町民社会のなかで花開いた若衆たちの姿を知ると良いだろう。

  • 現代語訳の宿命なのか

    西鶴らしい臨場感やリズム感やらなんやらがないのは仕方ないかなあと。

    でもこれで古典への興味が湧く人が出ればオールオッケーということで。

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著者プロフィール

茨城キリスト教大学文学部教授(日本近世文学、日韓比較文学・文化)
著書に『冒険・淫風・怪異―東アジア古典小説の世界』(笠間書院、2012年)、『西鶴小説論』(翰林書房、2005年)、『はじめに交流ありき』(編著、東アジア文化講座第1巻、文学通信、2021年)、『全訳 男色大鑑・武士編/歌舞伎若衆編』(編著、文学通信、2018・2019年)、『韓国の古典小説』(共編、ぺりかん社、2008年)、『日本近世文学と朝鮮』(共編、勉誠出版、2013年)、論文に「日朝文士の齟齬はいかに起こり得たか」(『文学』岩波書店、2015年)、「十六・七世紀の東アジア海域と男色ネットワーク」(『文学』岩波書店、2012年)など。

「2023年 『東アジアの都市とジェンダー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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