日本人をやめる方法

著者 :
  • ほんの木
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784938568146

作品紹介・あらすじ

日本からオーストラリアに帰化した筆者の見た、非民主主義国家日本への警告の書。人権、差別、アンフェアーな日本・・・なぜ? 日本を世直ししたいあなたに贈る一冊です。

簡潔な論理で綴る日本社会改革論。早稲田大学の入試問題にも採用されました。

感想・レビュー・書評

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  • 本書の著者は,1939年生まれ。京都大学を卒業して毎日新聞の記者を3年間勤め,米国へ渡り,社会学で博士号を取得する。その後,オーストラリアで大学教員となり,日本人と結婚してオーストラリア在住という人物。
    日本論・日本人論・日本文化論など,日本を論じる書物には,著者が日本人か外国人かという違いと,日本を絶賛するものと日本を否定するものとがある。本書は日本人が外部的な視野を手に入れた上で日本を批判する本。
    まあ,社会学者だけあって,目次をみる限りでは,それなりに客観的に日本社会を分析し,本書自体が有り体の日本人論にならないように目配せしてある。しかし,正直読後の印象は他の日本論とほとんど変わりがない。

    プロローグ 戦略としての相対化
    第一部 日本社会の深層を縛るもの
     第一章 障害としての「班」の思想
     第二章 「籍」の思想との対峙
     第三章 「ものいえば唇寒し」からの自由
    第二部 「脱日本」への道標
     第四章 「日本からの難民」という範疇
     第五章 越境主義への招待
     第六章 移民一世の楽しみ
    第三部 日本人論からの解放
     第七章 日本礼賛論のからくり
     第八章 あべこべ日本人論
     第九章 「日本人勤勉論」を再考する
    第四部 概念構築の根底
     第十章 「考える」ことを考える
     第十一章 英語習得の落し穴
    第五部 個人の国際化への関門
     第十二章 テクノクラートの国際化
     第十三章 ビザ制度の背後にあるもの
     第十四章 レイシズムとの戦い
    エピローグ 新世紀の冒険者たちへ

    本書のなかで一番面白かったのが「記者クラブ」の話。ちょうど最近公開された日本映画『64』では,記者クラブが主要な舞台となっている。表現の自由を主張する新聞記者側と,自らに都合の悪いことは隠蔽しようとする警察側とを対立的に描いている。
    しかし,新聞記者だった著者による告発によれば,各警察署内に設置された記者クラブは,その部屋の賃料を新聞社が払っているわけではなく,その光熱費も含め,各警察署もちだという。私もそもそもこの記者クラブという存在は疑問だった。自分の足で取材もせずに警察が発表することだけを情報源として記事を書くのはどうなのかと。まあ,実態はそんな単純ではないんだろうけど,映画『64』でもその辺の新聞記者の怠惰についてはまったく描かれていなかった。それはともかく,著者がいいたいのは,理想的には反政府的な勢力となるべくジャーナリズムが,ある意味日本に独自の「記者クラブ」という制度によって,最も国家に忠実な組織である警察の情報を横流しするだけというのはジャーナリズムが保守的な立場にならざるをえない,というのはごもっとも。
    それ以外は典型的な批判的な日本論。まあ,日本人に本質的な性格があるという主張をするわけではありませんが,日本文化論というより日本組織論的な論調です。いわれればそうかもしれないなあとは思う主張だが,全てがそういいきれるかな,という疑問は常につきまとうし,やはり日本を一つの社会であるとか,組織であるとかという想定自体が間違っていると思う。

  • 冒頭から著者は、こう“宣戦布告”する。
    「私は日本の定住者ではない。日本を離れて、オーストラリアを生活の根拠地として暮らしているからである。私は『日本国』に所属することをやめた人間である。」強い語感の著書名と並べれば、著者の日本からの脱却願望が強く印象づけられる。

    でも、それを著者が“日本を否定”とか“日本に住む私たちを否定”していると結びつけるのは早合点だと、賢明な読者は気づくだろう。著者は、決して日本を「捨てて」はいない。

    また、この本は、著者の元新聞記者としての文章力(わかりやすさ、簡潔さ)に加えて、大学教授としての論理構成力(いろんな仮説から考証して、自分の主張を押し付けるのではなく、読者に判断する材料を与える)が最大限に発揮されていて、この手の本によくある、自己主張と他者否定に凝り固った記述は、まったくないと言ってもいい。むしろ著者が関西出身だからなのか(?)軽快な文章の調子は「おお、そう来たか」といった関西弁でいうところのツッコミを入れながら楽しんでも読める、とまで勝手に思っている。
    つまり「日本人をやめるだと?何考えてるんだ?」と半ば喧嘩腰で読み始めた読者であっても、著者の巧みな文章力に乗せられ、読了後には「今までと違った視点で日本人を見てみよう」という気になるに違いない。

    最後に、私は著者が2011年現在どういう活動をしているのかに興味がわき、Wikipediaを見てみた。主として日本の社会科学の業績を英語出版することを目標とした出版に携わっているという。そのウエブサイトを見ると、著者が今までに精力的に日本の良さを世界に広めてきたのがわかり、この本の評価を最高点とするとともに、改めて拍手喝采を送りたいと思った。
    (2011/4/18)

  • 著者は、京大を出て新聞記者になったものの、日本社会が嫌になってアメリカの大学院へ行き、いまはオーストラリアの大学で社会学を教えている方です。

    タイトルは過激ですが、中身は極めて冷静で、世の中のあらゆる価値観を相対的に見ましょうということが書いてあります。この方の価値観は私に近いです。

    海外で長く暮らすための秘訣や語学のきちんとした学習法などが書かれており、とても中身のある本でした。

  • まずこの本が20年前に書かれていることに驚く。と同時に日本人が20年前からほとんど進歩していないことに驚く。
    著者の言うことに全て同意するわけではないが、自分がかねてから抱いていた社会への違和感がどういったところに起因するのか分かった気がする。
    これからも在郷越境人間として自信をもって歩もうと思う。

    社会学の本なのにニーチェの思想と重なる部分が多いのが面白い。所属する社会の道徳•規範を越えるというところはかなり近い。

    図書館にて。

  • 日本で新聞記者やってアメリカで社会学の博士号とって,オーストラリアの大学で教鞭をとる。いや,いいっすね。憧れます。人生としてはそれくらい大らかなのがいいです。エッセイかと思いきや結構堅い内容でした。雑誌連載ベースなのでやや一貫性に欠ける印象はあるけれど。やっぱりいきなり世界市民とかにはなれないわけで,バイカルチャーから徐々にマルチ化していって,とかいう発想自体が極めてモノカルチュラルなのでしょうが。日本に日本人として生まれ,そのように育ってきた以上,常にそこからしかこの問題を考えることはできないわけだけれど,だからこそ,そのことを意識的に自覚しなければならないのです。

  • 興味深い内容だった。
    うんうん。とうなずけるとこ結構あった。

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