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- / ISBN・EAN: 4933364310439
感想・レビュー・書評
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ちょっとした衝撃でいつ爆発するかわからないニトログリセリンを輸送させられる男たちの話。
という筋書だけは前から聞いていたのだけど、実際に観てみると、手に汗握るサスペンスに重点を置くような映画とはまったく違ってた。これはむしろ、地獄から脱出しようとして互いを喰いあうルンペン・プロレタリアートの絶望を描く、映画版『夜の果てへの旅』だったんだな。
映画の舞台は中米のどこかの植民地。最初に簒奪の犠牲になった現地の原住民とメスティーソたち、フランスやイタリアなどヨーロッパ各地から喰いつめて流れ出てきたまま囚われて出ていくこともできない貧窮白人たち、そしてその上に、石油資源を独占開発するアメリカ人という新しい植民者たちが君臨しているという構造が示されているのが、まず、ものすごく面白い。主人公マリオはフランスの中でも植民地みたいなコルシカ島の出身でありながらパリの地下鉄の切符を宝物にしているあたりが、またなんとも。その彼がパリから来たジョーを兄貴分と慕い、イタリア人の親友やメスティーソの恋人を邪険に扱うようになるのも、屈折した意識が感じられます。暴力的な石油採掘の現場では、固有の名前さえあたえられてはいても、すでにアメリカ人労働者の生命も消費されている現状も、この映画は意識的に映し出している。
世界資本主義の周辺における地獄から抜け出すために命がけの仕事に応じる男たちは、男らしさや勇気といった価値の勝利を示すように見えるかもしれない。マリオが勇気と技で断崖絶壁を切り抜け、兄貴分だったジョーの上位に立つシーンや、彼らが力をあわせて巨岩を吹き飛ばす場面は、まさにそのように見える。だがその直後に友情はもろくも一瞬の風に吹き飛んでしまう。この冒険は出発の晩に首をくくる青年と同様の形を変えた自殺、でなければ自暴自棄の賭けに過ぎない。2000ドルという報酬が、彼らの命がけの労働というよりも恐怖に対する報酬なのだというジョーの言葉は的を得ている。この仕事で彼らが払う代償は、死の恐怖という以上に、仲間の死さえ呑み込んでしまえるような人間性の終わりを目にすることなのだ。
世界のありようと人間性をめぐる絶望的な問いとサスペンスが見事に一体化し、緊張感みなぎる演出。希有な傑作だと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示