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感想・レビュー・書評
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正津勉氏の詩を知るきつかけとなつたのは、以前もちらりと触れた雑誌「翻訳の世界」であります。
英語を母語とする人たちがチームを成して、日本現代詩のこまわり君といはれた正津勉の詩を英訳するといふ連載企画がありました。
座長のロバート・ワーゴ氏(本書で解説を書いてゐます)と男女ひとりづつの米国人、それに正津勉さん本人を含む4人の座談(でもないか)形式で英訳がずんずん進むのであります。
連載1回分につき1篇の詩が原則で、詩集『おやすみスプーン』及び『青空』を中心に選んでゐました。
翻訳に行き詰まると、詩人本人に「ここはどういふ意味か」などと尋ねたりして、リアル感があります。
「おやすみスプーン」には「わたしはおまえをひゃと舌にのせて」といふ一行があり、この「ひゃと」といふのはどんな副詞なのか、とか。あるいは「暑熱」での「わたしは視る」なるフレイズでは、「見る」とどう違ふのか、なんて問合せがあつたり。ちなみに詩人は「強いていへば意思がこもつてゐる」などと答へてゐました。
性と暴力を真つ向から扱ふ彼の詩に、拒否反応を示す人がゐるといふことは後で知りましたが、私は前記の連載を読んでゐて、全く気にならず、むしろ奥底にあるはにかみ、優しさに共感した覚えがあります。確かにまあ「蛆」なんて詩は、内容だけ追ふと「うげッ」となるかも知れませんが、同時に心地良さも感じるのであります。何度も繰り返し読んでしまふ。不思議と申せませう。
正津勉への質問「QUESTION35」がまた面白い。
「わたしにとって「抒情」とは、抒情を笑殺する非情ともいうべきものである」
「(詩は)前衛? ノン! 詩は絶対に後衛にこそ拠って起つべきである」
「生涯に一度でいい。受付嬢がいて、ガードマンがいて、茶道部がある会社に通勤する自分を夢みなかった詩人がいるだろうか」
児童記録やエッセイみたいなものも併録されてゐて、総合的に正津勉の世界が味はへます。イイよ。
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