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感想・レビュー・書評
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最終巻の奥付を見ると、2007年1月初版となっている。もう14年も前だ。ずっと読み返せずにいるうちに、そんなに月日がたっていたのか。あの衝撃を消化できたわけではないと思うが、どういうわけか、ふっと読む気になったのだった。
いやもう、思っていた以上に圧倒された。凄いの一言。最初に読んだ時は、とにかく千花ちゃんの運命があまりにつらくて、他のことをみな吹き飛ばしてしまっていたように思う。今読み返してみて、ここまで重層的な作品だったのかと初めて気づくことがたくさんあった。
とにかく(言うまでもないことだが)「バレエマンガ」として他の追随を許さないリアリティがある。バレエの基本的なポーズ、様々なテクニック、有名な作品などについてはもちろん、バレエの歴史や現状まで、門外漢にもわかりやすく描かれ、さらに、バレエ教室の実態や公演の舞台裏など、お金の絡んだオトナの事情もしっかり描き込まれる。どんな表現にもバックステージとの落差はあるだろうけど、バレエは舞台の上があまりにも夢の世界だから、キラキラとドロドロの振幅が大きく、そこに物語が生まれるのだろう。
ヒロインの六花ちゃんは、自分に自信がない弱気な女の子として描かれていて、読む側は共感しやすい。今回第2部も読み返したのだけど、この第1部から、六花ちゃんの才能や、それを開花させていくに至る努力や周囲の環境などが、周到に描き込まれていることに気がついて感嘆した。ローザンヌでの受賞はこの延長線上にあったのだなあとしみじみ…。六花ちゃんがいやされることのない痛みを抱えながらも、持ち前の素直さを失わずに成長する姿は本当にすばらしい。しかもそれは”ミロノフ先生なしで”なのだ。「アラベスク」から時代は進んだのだという山岸先生のメッセージを感じる。
(ミロノフ先生といえば、ここで登場してくるバレエの先生方は、男女老若とりまぜ、みな個性的で良い。それぞれに人間らしく悩みや迷い、欠点を抱えていて、スーパーではないところが魅力的だ。先生たちの群像劇としても読める。)
裏のヒロイン(?)空美ちゃんの登場シーンが、記憶よりかなり多くて、ずっと壮絶だったことに驚いた。こういう経験をしてきて、あのローラ・チャンが生まれたのか…。第1部が終わったときに、空美ちゃんはどうなったのか、違和感があったことを思いだした。空美ちゃんがどうやってローラ・チャンになったのかは語られない。それでも、第2部と通して読んでみれば、やはり空美ちゃんはもう一人のヒロインとしか言いようがなく、彼女の存在が、このお話をストレートな「成長物語」にしていない大きな要因なのだろうと思う。
この作品では、バレエのために苦しむ人が何人も出てくる(と言うより楽しんでいる人はあまりいない)。才能、容姿、怪我、経済力などなど、壁として立ちはだかるものは色々。嫉妬や負の感情が渦巻く世界が容赦なく描かれ、背筋が寒くなる。あんなに努力していた千花ちゃんが、怪我やいじめによって追い詰められていくのを見るのは、本当につらい。たくさん愛情を受けて育ち、強くまっすぐな心を持つ千花ちゃんも、バレエで挫折することは受け入れられなかった。才能とは一面とても残酷なものだ。そのギリギリの姿を描きつつ、それでもこの作品は、エンタメとしてしっかり着地する。なんという力業。
山岸先生は、最初から千花ちゃんの運命を決めていたのだろうか。途中からあの展開を考えたのだろうか。どちらにしろ、並大抵の覚悟ではなかっただろう。第2部終盤、写真の中の千花ちゃんのまなざしが、心に残って離れない。
オマケ
バレエって、身も蓋もなく、美しい容姿の人たちのものですね。それが「テレプシコーラ」にずっと流れる通奏低音のような気がします。「美しい」の基準は変わっていくものだろうし、ルッキズムは悪だとは思うけど、それでも。
空美ちゃんは整形してローラ・チャンになり(はっきり描いてないけどそうだよね)、ひとみちゃんは東大理Ⅲを目指すことでやっとバレエをあきらめた。ああ…。 -
バレエのリアルな世界を描いている。
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2018.2/11
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バレリーナを目指す姉妹の話。山岸氏特有の人間関係だけではなく、バレエについて詳しく描かれている。
主人公が小学生中学生であるけれど、残酷過ぎる。人間の陰の部分を抉り出すというか…。「頑張ったから、我慢したから報われる」なんてさせない。非条理に突き落とす。かと思えば、いつの間にか報われている者もいる。
一気に読んでしまった。主人公より空美ちゃんの行く末が気になる。 -
ただのバレエ漫画だと高をくくっていたら泣きを見る名作です。そして本当に涙なしには読めません…。特に後半…。千花ちゃん…(泣)。
個人的には、山岸涼子さんの漫画にときたま現れる何だか悪意(?)が満ちているようなきわどい表現は苦手なのですが、例えば五嶋先生と金子先生の違いに代表されるような、教授法のことなど、学ぶものも多いです(僕は断然金子先生派ですが)。 -
ダ・ヴィンチ連載中、いの一番に読んでました。
24年組読み直し中とのこと、まったく尽きることのない泉のような作品群ですよね。私はやはりモト様が...
24年組読み直し中とのこと、まったく尽きることのない泉のような作品群ですよね。私はやはりモト様が一番で、実は竹宮恵子先生のはあまり読んでいないのですが。
山岸涼子先生のホラーはどれも心底恐ろしいけれど、私は「わたしの人形は良い人形」がダントツで怖かったです。あまりにも恐ろしくて、段ボールに入れて封印してしまっていて、二度と開けられないと思います…。
24年組で一番凄い作家となると...
24年組で一番凄い作家となると私も萩尾さんですが、好きな作家となると竹宮さん山岸さんそして樹村みのりさんです。『薔薇はシュラバで生まれる』も読んで面白かったんですけど、樹村さん今忘れられがちな気がするので、もっと再評価されてほしいですね。「病気の日」「翼のない
鳥」「悪い子」など、感動しました。
うーん、なんだか色々読み返したくなってきましたよ~。