Never Let Me Go: 20th anniversary edition (English Edition) [Kindle]
- Faber & Faber (2009年1月8日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (275ページ)
感想・レビュー・書評
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カズオイシグロの作品の中でも、映画化されたりドラマ化されたりと高く評価されている本作、追憶と後悔と、一縷の望みが彼らに占める存在の重さと、現実の残酷さの予感に取り憑かれながら(hauntingという言葉がピッタリくる感触)、最後まで、すべては薄明の中で語られる名作。世界は不条理と矛盾をたたえながら、しかし、確かに存在しているということを実感できる一冊でした。感動。
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クローン人間、臓器移植をテーマにしたSF小説。
SF小説といっても、極めて現代社会のオーバーラップできる作りになっており、その違和感、不思議感が独自性を際立たせている。
クローン人間なので、生殖機能がないと思うのだが、この小説の中で展開される男女の愛は、極めて中性的に描かれ、現実との遊離感を出している。
つまり、男女の愛を超えた人間の関係性を描くことに成功した、ということだろう。
クローン人間の命の有限性、それは人間に比べて、短く、自由がない死なのだが、人間であっても、その死を意味することは違いがないといえる。
「死」、「生」を見つめ直すきっかけを与えてくれる。
最後に、この小説のテーマに「記憶」がある。
クローン人間である主人公が「記憶」をベースにこの小説が展開されている。
福岡伸一先生が、この小説を語る際に、「記憶」をテーマに以下のように語っており、大いに腹落ちするところあり。
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「記憶は死に対する部分的な勝利である」
記憶は細胞の外にある。
細胞と細胞の間の関係に記憶が保持されている。
記憶はモノではなく、モノとモノとの関係。
自分にとって大切なものは思い返している記憶。
インパクトがあるというよりも、絶えず呼び戻しているもの。