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感想・レビュー・書評
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80分しか覚えてられない記憶障害の博士
家政婦さんと1日のはじまりは毎回リセットされて靴のサイズをリピートされるところから始まります。
私の母も認知症なので実感伝わってきました。施設に会いに行くと恒例なんですが「どちら様ですか」から始まる挨拶、身内だと解ってくれるまで丁寧に話す必要があるけど、すぐに忘れて振り出しに戻る状態。最近は全然だめで終始他人扱いです。悲しいけどあわせて会話するしかないんですよね。
さておき、博士は数字については細かく分解して素数を見つけ出すことが大好きみたいでいろんな関係性見つけてはときめいてる子供みたいなところがいいです。
私もドライブしてるとき、車の4桁ナンバーに山の標高みつけるとうれしくなることがあります。「3776」は富士山だ「2999」は剱岳「8848」おっエベレストだとか、その数字をみると関連付られた山の記憶が溢れてきたりして1人ニヤニヤしたりです。
80分の記憶容量でも博士がルートと呼んでいる家政婦さんの子供といる時は楽しそう、1975年以降の記憶は更新されず忘れさられるのに80分を大切に共有する3人の姿と全盛期の江夏の背番号28番がとても輝いて見えました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
観てはいないのだが2005年に映画化されたことが記憶にあり、興味本位で原作を読み始めた。
事故により記憶が80分しか持たなくなった数学者の老博士と、世話をするために派遣されだ家政婦とその息子の物語。
その設定の奇抜さに反して物語は淡々と進行してゆく。途中で博士から数学的な謎が投げ掛けられ、3人の人間関係に関わってくるのだが、何を示唆しているのか理解が追いつかず戸惑ってしまった。
全体としては心がほっこりする作品だった。 -
小川洋子のとんでもない意欲作!
数学の神秘×野球(阪神タイガース)愛という突飛な掛け算。数学には自然の摂理が、野球には人生の記憶が詰まっている。どちらもロマンチックな題材だ。それでいてシングルマザー、母子家庭育ちの男の子、アルツハイマーを思わせる記憶の続かない年老いた男性。社会的なテーマが登場人物たちそれぞれに盛り込められている。この社会的に弱い立場の人物たちが何を手にしていくのかと設定を決めたあとの作者もワクワクして執筆したと思う。
こんなにも奇抜で収拾のつかなそうな設定から優しい気持ちを読感したのはなんなんだろう?
しかもテーマがいろいろ浮かんでつかめない。
無いことを0(ゼロ)と表現する数字、数学の妙。存在するものと無いこと(ゼロ)が等しくなる数式を博士は好きだった。矛盾と奇跡を表現したその数式がやっぱりテーマだったのかな...
あらためていい小説 -
小学生の息子と母子二人で暮らす私が、家政婦紹介組合から新たに派遣された先は、過去の交通事故による後遺症で前向性健忘となり80分しか記憶がもたない、数学専門の元大学教師である64歳の博士の住む家でした。新たな派遣先をこれまでに九人の家政婦たちが辞めていた事実を知ったうえ、博士の保護者である義姉からは母屋である義姉宅との行き来を禁じられます。普段の派遣先との違いから戸惑う私が、衣服のいたるところにメモを貼り付けた異様な風体の博士から初対面で問われたのは、名前ではなく靴のサイズでした。
博士によって「ルート」と名づけられた私の息子が、子どもの存在を慈しむ博士の勧めによって学校帰りに博士宅を訪れるようになり、物語は三人の交流を主軸としつつ展開します。そして本作を彩る重要な素材として、博士によって母子に伝えられ次第に私を惹きつけるに至る「数学の世界の不思議な魅力」と、熱心な阪神ファンであるルートが作品内において進行形で応援する、亀山・新庄フィーバーの熱気にも押されて優勝争いを演じた「1992年の阪神タイガースのペナントレース」の二つが挙げられます。小説作品でありながらも巻末には数学と、博士にとっては事故前の記憶として常に現役である江夏豊に関する参考文献が並んでいます。作品内に流れる時間についても、基本的には1992年の野球シーズンの開幕から終了までを区切りとしています。
読書の動機として、一度は試してみたかった著者の作品のなかから、代表作のひとつでベストセラー作品でもあり、SNS上でも常に多くの読了コメントを目にした本作を選びました。読後感としては事前の情報にたがわぬ優しい味付けであり、作中に散りばめられたいくつかの謎についても抑制的に語られています。過度に感動を煽るような描写は控えられた作風は静謐な印象を残すとともに、いくつかの要素を無理なく織り上げた均整の取れた佳作です。読書に穏やかなひとときを求める読み手に訴求する本作は、未読の方であれば、ミニシアター系映画館で定期的に上映される波乱の少ない静かな感動作と同軸上にあるとイメージして頂いて差し支えないかと思います。
読書中、久々に球場へ足を運びたくなりました。 -
80分しか記憶を保てない博士と家政婦とその息子が数学や阪神タイガースを介して紡ぐ温かいけど切ない物語。
数学の公式や定理は人間の生まれるずっと前からこの世界に毅然としてあって、自分は良い意味で味気のない無機質な印象を持っていた。けれど小川洋子さんの手に掛かるとこんなにも言葉で文学的に鮮やかな表現が可能なんだということに非常に驚いた。
「オイラーの公式は暗闇に光る一筋の流星だった。」
自分の世界に舞い降りたその新しい数式の捉え方に心踊らされた。
作品を通して一貫している博士の子供へ向ける態度が微笑ましくて、もし自分に子供が出来たら同じような接し方してあげれたらいいなと強く思う。子供のことを素数のように扱う接し方、つまり子供を自分たちのいる世界をはっきりと見えなくてもしっかりと支えている存在として見なす接し方は自分の理想として心の片隅に置いておきたい。
この作品は数学だけではなく阪神タイガースの江夏選手が完全数の28を背番号にしているという事実を用いることでより重層的に感じられるようになっている。この関係性を閃いた時の作者の喜びはどんなものだったのだろうか、もしかすると静謐な数の理を新しく見つけた数学者の喜びのようなものだったのかもしれない。
博士が子供に対する過剰なまでの接し方に至る経緯と言うのは最後まで直接的には書かれなかったが、もしかしたら子供を強く望んでいたけど、出来ない身体的な問題を抱えていたのかもしれないなと自分なりに考えた。
悲しいけど温かくて幸せな気持ちになれる作品だった。
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解説見て気づいたまさかの純文学
通りで読みにくいわけだww -
映画を先に見てました。80分しか記憶が持たない博士は数字を美しいと思う人、完全数、友愛数など知らない名前それが何かとも思うけれど、私の好きな数独なども特に役に立つ訳ではない!寂しい親子に不思議な博士が優しく関わる