虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

著者 :
  • 早川書房
4.01
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感想 : 130
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感想・レビュー・書評

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  • 「地獄はここにあります。頭のなか。脳みそのなかに。」
    アレックスはそう言って、自分の頭を指差した。



    資本主義の未来、今と変わらずテロや戦争が止まらない。

    切なすぎて余韻がすごい。

    社会派近未来SF。


    ーーーーーーーーー

    9・11以降の、“テロとの戦い"は転機を迎えていた。
先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。
米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう……
彼の目的とはいったいなにか? 大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官"とは?
    (Amazon 作品紹介より)

    ーーーーーーーーーー


    すごく面白い。天才!!⁝(ᵒ̴̶̷᷄⌑ ᵒ̴̶̷᷅ )⁝



    どう感想を書けば伝わるのか…。


    主人公クラヴィスの一人称視点で話が進んでいくのですが、彼の思想や言葉がとても痛いんです。

    読んでてずっと暗い気分に。(´-` )
    日記を読んでいるような感覚。


    クラヴィス大尉は情報軍特殊検索群i分遣隊。
    言語愛者で、言葉が人を規制し、人を拘束する実態に見える。


    彼ら特殊部隊は仕事と割り切り、痛覚にマスキングをして人を殺す。
    体の痛みもだが、心の痛みも麻痺する。


    戦場に赴いて、人殺しを心安らかに行う。そのためのカウンセリングならば許されるのだろうか。そうした「意図」ならば許されるのだろうか。(本文より)


    ずっと彼は罪悪感を感じない自分に悩むのだが、そんな時任務でルツィアに出会う。


    『攻殻機動隊』に世界観が似てます。
    タチコマのような、ザ・機械!がウヨウヨ…という感じではなく、特殊な筋肉の素材でできたウエイトレスや戦闘機の内装。
    個人の指紋や網膜で認証の世界。
    隣国では内戦が起こり、常にテロの脅威に晒されている。


    資本主義の世界は、今より便利になっても戦争はなくならなくて、それは格差が齎す影響と、生物の本能は領土を広げて行くことだからかな。世界へ、ネットへ、宇宙へ、次元へ。


    この世界では、彼ら軍人達は上層部の命令に従い虐殺していく。
    クラヴィスには自身で決断していない「仕事だから」という世の中に疑問を抱く。
    過去のジェノサイドやテロも、皆が正義を掲げて仕事をした結果なのです。( ・_・̥̥̥ )


    宇宙SFもメタバース系のSFも大好きですが、この作品はSF要素が一切入らなくても完璧に仕上がった作品だと思います。


    読んでてずっと切なかったですが、ラストまで完璧な内容でめちゃめちゃ良かったです!!



    なので続けてアニメも観ました。

    世界観はイメージ通りで良かったのですが、やはりクラヴィスの心情を表現するには物足りないかと…。
    虐殺の器官とは…も重要だが、同じくらい大事な所だと思うのです。

    戦闘シーン、かっこよかったです^ ^

  • まずは状況を説明してほしい

    評価2.3

    audible 11時間43分
    kindle 365ページ

     殺し屋だか特殊工作員だか分かりにくい主人公の語りで始まる。語り手というか独白にも近い。どうやら特殊任務で紛争地域に至っているようだが話は見えない。丁寧な説明はなく、いずれわかるでしょといった感じで始まる。よくありがちではあるが、この手のものはいつも面白くなったことはなく、非常に心配な立ち上がり。何で読者を置き去りにしようとするのかこういうのは常に腹が立つ。少なくとも僕にはついていけないし、状況もわからない。
     いつまで経っても話は見えず、非常に苦痛な読書になる。ようやく分かったことはジョンポールという男を探しているらしい。各地で紛争を引き起こすとされている。
     ジョンポールはもともとは言語学者のようである。ちょっと現実味は欠けるが、言葉が紛争を引き起こすというのは興味深い。ちょくちょく挟まれる近未来的なデバイスに関しては十分に現実的でもあり、SFと評されるほどでもなく受け入れやすい。ただ、その後も必然性があるのかないのかわからないストーリーは継続し、結局みんな死んでいく。最後まで、一人称で進められる話の展開がどうしても合わず、ただの独り言を永遠と聞かされた気分であった。
     本作のテーマ自体は個人的には好きなものであり、前述したSFとも評される近未来的な設定も同様である。本作の評価が高いのも分からないではない。上からの目線で申し訳ないが作者が年を取り、より熟成したときにお気に入りの一人になった可能性も高いと思われる。それがかなわないのは残念極まりない。ご冥福をお祈りしたい。

  • 時代や技術そのものは未来のもの、架空のものでありながら、現代社会と地続きだと感じられる重いリアリティを伴った物語でした。

    自国に不利益を生じなければ、見て見ぬふりをされる内戦というのは、今も存在しています。国力の駆け引きが、多くの人を死や苦しみに追いやっているのは、間違いなくリアルです。その視座でもって描かれているから、遠いどこかかなたの異世界SFではなく、近未来のこの世界の姿として描かれているようで、積み重ねられる死体の描写に、次第に罪悪感を抱いていく感覚すら覚えました。

    戦う兵隊たちに施される「罪悪感」のシャットアウトというカウンセリングを羨ましいとすら正直思いましたし、その罪悪感から目をそらして、わたしたちは世界を傍観して生きているな、とも実感させられました。

    確かにSFを読んでいるのに、まったく絵空事とは感じられない。ことごとく現代を、SFというフィクションの騙りでもって見せつけられている、そんな風に感じた作品でした。

    • eng.123さん
      [その罪悪感から目をそらして、わたしたちは世界を傍観して生きているな、とも実感させられました。
      →共感しました。
      ジョンポールが語っていた、...
      [その罪悪感から目をそらして、わたしたちは世界を傍観して生きているな、とも実感させられました。
      →共感しました。
      ジョンポールが語っていた、[仕事とは良心を麻痺させるものだ。]
      というのは罪悪感のシャットアウトですね。
      仕事だから、仕事だから、低賃金の仕事でも適応できてしまう。
      2022/07/23
    • pepeさん
      はじめまして、コメントありがとうございました。

      罪悪感のシャットアウト、社会や自分たちが無意識に行っていることを作中で鋭く触れていて、...
      はじめまして、コメントありがとうございました。

      罪悪感のシャットアウト、社会や自分たちが無意識に行っていることを作中で鋭く触れていて、とても印象的でした。
      2022/07/26
  • やっぱり伊藤計劃は面白いなぁ。

    久しぶりに、『ハーモニー』と合わせて読み返してみたけれど、
    けっこう2作に共通したテーマがあるように感じた。
    死について。
    親しい人の死に対して、罪の意識を感じる主人公。人間を物的に見ながら、しかし、死ねば物に過ぎないとは割り切れないところもある。
    社会について。
    テクノロジーや制度によって、より良い社会が実現されているように見えるのに、そこにあるどうしようもない矛盾。
    意識について。
    「わたし」という存在を認めたいのにも関わらず、意識はモジュール的、あるいは、会議的で、そこに「わたし」という個は必要ないように思える。しかし、「わたし」の存在を感情的に否定したくないところ。
    進化論について。
    人間のあり方について、進化論的な見方をしていながら、どこかそれを心から肯定できない、むしろ、反発もしているところ。

  • 実は7〜8年前に3分の1ほど読んでそのままになっていたのを、その続きから読んだ。ほとんど忘れてはいたけれど、まるで映画を観ているようで、内容的にも深く、様々な知識が散りばめられていて、今度はすんなりと最後まで読み通すことができた。こんなディストピアは本当に訪れそうな気がする。攻殻機動隊と1984の世界観も感じられると思っていたら、最新の攻殻機動隊も1984をモチーフに展開していたっけ。

  • 夭折の作家が描く地域紛争が多発する近未来の世界。そこに広がるのは夥しい数の破壊と殺戮。目の前で展開する光景は惨たらしさの極致である筈なのに一才の感情を排した語りがそれらを変成し気分はまるで無声映画を観ているかのよう。ただ一言、すごい作品に出会ってしまった。

  • Audibleにて。とにかく表現がくどい。特に母親の死について、もういいでしょというぐらい繰り返します。しかも同じ表現で。そのため話が一向に進みません。
    さらに、近未来の技術が沢山出てくるのに監視対象の目の前のアパートで監視を行う(カメラとか使えばいいのでは?)、怪しいバーに行きまんまと毒を盛られるなど、最先端部隊の歴戦の兵士とは思えない行動の数々。
    設定も、作者がノベライズも務めたメタルギアシリーズに類似したものが多く、アイディアのもとが見え隠れ・・・。
    期待していた分、少々残念でした。

  • ※作品のネタバレを含みます。各自で自衛願います※


    ただひとつだけ引っかかる箇所がなければ最高だった…っ!

    近未来の暗殺部隊の話。独自用語が出てくるが説明はくどくなく、すんなり読める。文体も登場するキャラクターも魅力的。
    ただ一点、主人公がとある女性に惚れた理由がよくわからない。これが魚の小骨のように引っかかって素直に楽しめなかった。
    メンタル病んでる上に希死念慮抱えてそうな人間が恋をするにはそれなりの理由やきっかけが必要だと思うのだが、なぜかいきなりコロッと堕ちる。話を盛り上げるためにねじ込んだと思われる恋愛要素が、厭世的でプロフェッショナルな主人公というキャラクターを台無しにしている。
    これさえなければと何回読んでも小骨が刺さる。

  • 再読。 やっぱりあんまり楽しめなかった。 合間合間に挟まれるMGSよろしくの戦争描写に全然興味が持てないのが原因か。進化と自由といったテーマもよくわからなかった。 ジョン・ポールの動機や最後の主人公の行動については完全に忘れていたのでかなり新鮮な驚きとともに受け止められた。

  • 9.11後に先進国では徹底した個人の管理、監視体制を敷き国内でのテロを一掃した。
    一方後進諸国では内戦や虐殺行為が頻発しており、その影には必ず一人の男の存在があった。

    アメリカの軍人クラヴィス・シェパード大尉は虐殺を引き起こす男、ジョン・ポールの暗殺を命じられる。


    ジョンによる虐殺の手法に驚きだけど(SFの世界にあってとてもアナログ!)その動機はすごく切ない。
    世界平和は永遠の目標だけど、実際は自分の手の届く範囲の平和が大事で、そのために手を汚すんだなぁ…

    人を殺す事に葛藤を抱え始めながらも冷静に任務をこなしていたクラヴィスのエピローグが壮絶。まさに坂を転がり落ちる石のように…

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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