日の名残り (ハヤカワepi文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • うまい文章を書く人だなあという印象。英国映画を見ているような感じだった。話しとしては全く違うけれど、「眺めのいい部屋」を思い出した。

  • 最初の数十ページを読んでしばらく放置していたので最初から読み直しました。何で中断したかの記憶がないけど、ダウントンアビーとダブったせいか、大好きなバーティとジーヴズの連続ものと趣がだいぶ違うせいかだけど、今回読んでみてそれは全く誤ってたというか、比較しちゃいけない一癖も二癖もある複雑な小説でした。
    物語は執事の独り語りで過去の栄光や矜持や意地を回顧する形と現在の戦後時間軸が交錯して進むスタイル。兎に角、執事の性格が感情移入できず、言ってることは独善的、誤魔化しが多く、真実が何処にあるのかわからない。そして、仕えるダーリントン卿の屋敷で行われる政治ショーはイギリスの第二次大戦前夜の宥和政策が繰り広げられ、卿はその主導者チェンバレン首相がモデルで、そこで働く執事は行われた秘密を何でも知っているという体です。そのため小説での独り語りは騙られているような雰囲気で、なにか裏に隠されたイギリスの負の歴史の名残りが浮かびあがると言う、隠喩に満ち満ちた一筋縄ではいかない思いが残った読後感でした。作者は意地悪というか、おセンチな恋愛小説のエピソードが突然に挿入されるのは、この小説の読み方への仕掛け。少し期待してたそっち方面に冷水を浴びさせられた感じでした。
    クララとお日さまも積読してるけど、こっちも読まないとなあ。

  • イギリスの屋敷で執事として使える男が、その人生を振り返るお話。
    執事として自分を強く律してきた、しかしそれでも内にある人間として彼自身の言葉で語られる回想は、とても上質な語りとして心地よく読める。働きぶりに対する誇り、主人への忠誠、生き方の迷い、終末期の虚しさ。様々な想いを胸の内で転がしてきた旅の最後に、夕暮れの美しさを見る。物語のすべてをあらわす見事なタイトルだ。

  • ここまでしっかり「英国の執事」という登場人物がしっかり想像できるように、そのキャラクターの性格や考え方、細かい口癖などが書かれているのは、さすがだなと思った。

    また、時代背景やイギリスという国の栄枯盛衰がタイトルにもかかっていてよく書かれているなと思った。

  • 行きつ戻りつする日常の描写が最後には大きな時代の総括につながり、著者の巧みな「時間」の使い方に驚いた。

  • 今はアメリカ人の富豪の元で執事をしているスティーブンスが、主人がアメリカに帰っている間に主人のフォードを借りて、イギリスを旅する。
    途中、ガス欠のトラブルや女中頭だったミスケントン(今はミセスなのだけど)に再会する。しかし大半はスティーブンスの独白で、前に仕えていたダーリントン卿との思い出や執事の品格を伝える事で物語が構成される。

    私はドラマのダウントンアビーを観ていてイギリスのお屋敷の執事のイメージがあり、すんなりスティーブンスの言う事が入ってきていたのだが、進んで行くとアレ?と思った。偉大なダーリントン卿も品格ある執事もあくまでもスティーブンス側からの言葉なのだ。

    以前テレビドラマの『わたしを話さないで』をこわごわ観たので、彼の作品は手に取る気にならなかったので、私はカズオ、イシグロの作品は初めて読んだ。
    この作品は静かなクラッシックが後ろに終始流れているようだった。美しくて悲哀があってでも前向きで。
    丸谷才一の解説が良かった。別の読み方を教えてくれた。

  • 【要約】
    名家に従事する老執事の半生

    【骨格】
    場所:イギリス・ダーリントンホール
    時代:戦前〜1950年代
    中心人物:執事(スティーブンス)
    仕掛人:女中頭(ミス・ケントン)、館の主人(ダーリントン卿)
    物語進行:現在⇄過去
    目的:旅すがらヒロインに会いに行く
    結末:追憶の果てに、新しい時代に順応する決意をして前を向く

    【特徴】
    ・執事
    ・品格
    ・大きな館
    ・イギリス
    ・車旅
    ・1920年代〜1950年代
    ・古き良き日々の消失
    ・女中との恋愛
    ・名家
    ・上流階級
    ・人生の休息
    ・追憶叙述
    ・疎外性
    ・柔軟性
    ・母親は登場しない

    【好点】
    ・中心から一歩引いた立場にいる主人公が見せる使命感と矜持がかっこいい
    ・スティーブンスは、仕事と人生と人格が一緒くたになっている。芸術家のそれに近い強烈な個がある

  • 読み進めにくかった。そしてこの執事の思い込みの強さとか考え方は共感できなかった。イギリスにはこういう暮らしがあったんだな、という感想。

  • 正直内容は完全に忘れてしまったのですが、読んだ後に一番いい余韻が残った小説がこれ。

  • 日の名残り

    著者:カズオ・イシグロ
    訳者:土屋政雄
    発行:2001年5月31日
    早川書房
    *中公文庫版は1994年1月発行
    *作品発表は1989年、日本語翻訳出版1990年

    カズオ・イシグロの代表作の一つ、長編3作目、1989年ブッカー賞受賞作品。
    主人公は、イギリスの大きな屋敷の執事。戦前は、力のある貴族が主人で、執事の下に17人が雇われていたこともあった。その前には28人もいたとの話も聞いている。それほどの大屋敷。当然、主人には政治力もあり、国際政治の裏舞台がそこで展開されたが、チャーチルとドイツ大使を屋敷で引き合わせ、首相のドイツ訪問を画策するなど、ドイツ宥和主義者だったという設定。しかし、それが暴露されてマスコミで叩かれ、失意の内に死んで行く。屋敷を買ったのはアメリカ人。もちろん、実業家ということになる。貴族(周辺の広大な土地所有者)ではなく、いわば成金がとってかわる時代となった。

    アメリカ人のもとでは、わずか4人ですべての仕事をこなしていた。もっと雇ってもいいとは言われているが、他の召使いたちはみんな離れていった。そんな中、以前に女中頭をしていた女性から手紙が執事のところに来た。結婚して辞めていったのだが、どうも主人との仲が悪く家を出ているらしい。もしかしたら戻ってきてくれるかもしれないと考えた。折から、主人が5週間アメリカに行くとのこと、たまには休んで旅行でもするがいい、車(豪華なフォード車)も使っていい、ガソリン代も出してやると提案してきた。時代設定は1956年。彼は数日をかけて彼女に会いに行くことに。その中で、昔のこと(貴族が主人時代)を語っていく。政治の裏部隊、女中頭とのロマンス(彼女の方が執事に恋心を抱いていた)、そして、なにより執事としての品格について。

    彼は品格という名の魔物に取り憑かれ、人生を台無しにしたようにも読める。女中頭とのロマンスも、それがなければ成立していたことだろう。
    旅の途中、ガス欠で小さな村に一泊することになる場面がある。親切な村人が泊めてくれたのだが、そこに次から次へと噂を聞きつけた村人たちがやってくる。高級な自動車や彼の紳士然たる態度に、きっと身分の高い人だと思い込み、こんな村にようこそという意味で近づいてくる。彼も従者であることをいいそびれ、ついチャーチルと会ったことがある、彼に意見を述べて国際政治のためになったことがある、などと言ってしまう。品格を保つが故に、自らが品格を放棄してしまったような顛末でもある。なにかの拍子に総理大臣になってしまって、1年間、勘違いしつづけた人を彷彿とする。
    また、いまでは大きな屋敷はアメリカ人しか買えない、というような誰かの意見が出るが、これもなにか現代を予感していたような書きぶりである。元々土地を所有していた貴族はそれを維持できなくなり、成金であるアメリカ人のものになっていく。21世紀を支配する新自由主義の台頭を、1989年(世界的にバブルを迎えていた時代)に言い当てているかのような。

    カズオ・イシグロはすごすぎる。この小説は、最新作「クララとお日さま」の原点になった作品かもしれない。

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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