感性の限界 不合理性・不自由性・不条理性 限界シリーズ (講談社現代新書) [Kindle]

著者 :
  • 講談社
3.85
  • (2)
  • (7)
  • (4)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 84
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (212ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 大変面白かった。つまるところ人とは何なのか。古来より現在まで、様々な知の巨人たちが考えてきたことを軽妙なタッチで理解できる。

  • 「感性の限界」高橋昌一郎

    知覚の過程でバラの花を認知した瞬間、その情報は感情や情動を司る脳辺縁系に送られ、そこで美しいとか触ってみたいという欲求を抱く。

    進化論的に考えると、視覚と聴覚は一定の距離を置いて対象を認知するので、自己の安全を即座に脅かすものではなかった。そこでこれらの情報は最初に脳の新皮質に伝わって客観的に捉える事ができた為、ここから飛躍的に高度な知性が生じた。一方、嗅覚、味覚、触覚は古い脳辺縁系に直接入力される。刺激臭を嗅いで顔を背ける、腐った食べ物を口に入れて吐き出す、熱いものに触れて手を引っ込めるといった操作は瞬間的な無条件反射として生じる。これらは新皮質よりも先に主観的な感情を呼び覚ます運動で他の動物にも共通している。

    「恋をしている」を医学生理学に言うと、脳内のドーパミンとノルアドレナリンの分泌量が増加し、セロトニンの分泌量が低下した状態にある。

    脳内ドーパミン濃度が上昇すると、集中力が高まり、思い入れが深くなり、胸が高鳴ってたまらない状態になる。執拗に相手を求める一方で要求が満たされないと不安になり、さらにドーパミンが分泌される。ドーパミンはテストステロン値も上昇させるので性的欲求の度合いも強くなる。

    脳内ノルアドレナリン濃度が上昇すると、躁状態になり、居ても立っても居られない状態になる。エネルギーに満ち溢れて活動的になる一方で食欲は減退し、夜も眠れなくなる。新皮質の記憶を刺激する作用があるので相手の行動を細かく思い出したり一緒に過ごした時間を反芻して、その気持ちが寝ても覚めてもずっと継続する心理状態が生じる。

    セロトニンは脳内でドーパミンとノルアドレナリンの分泌量に反比例する。セロトニン濃度が下がると高揚感が高まり強迫概念を抱いたり白昼夢に浸る傾向が生じる。起きている時間の殆どを相手の事を考えている状態は、セロトニン濃度の低下に起因している。

    一般的に強い恋愛感情が継続する期間は最長でも一年から一年半。

    認知科学的には脳内には二つの心が共存している。一般的に「自己」という言葉で指すのは「分析的システム」で言語や規則に基づく処理を行い、意識的に刺激を系統立てて制御している。これに対して「自律的システム」はヒューリスティックなモジュール型のシステムで、刺激を自動的かつ迅速に処理し、意識的に制御できない反応を引き起こす。

    自律的システムは遺伝子の利益を優先し、分析的システムは個体の利益を優先している。

    周期的に世代交代が生じなければ進化しないので、繁殖期を過ぎた人間の細胞は徐々に機能しなくなり、老化するように遺伝子に組み込まれている。

    成人発達段階が上がると遺伝子の利益から個体の利益にシフトしていく。

    人間は得をするフレームではリスクを避け、損をするフレームではリスクを冒そうとする「フレーミング効果」がある。

    生活環境において個人の欲求が満たされている状態を「適応」と呼ぶが、所属、承認のような高度な社会的欲求については必ずしも常に適応状態にあるとは限らない。そのような場合、自己の欲求が社会的に満たされない場合に必要になるのが「自制」でこれこそが意志的行動を導く。自制できなかった時、爆発性の衝動的行動を取る。

    人は赤ちゃんとして誕生してくる時点で約3兆個の細胞から構成されている。

    地球上の生命を構成するタンパク質は全て左型アミノ酸。これまでに隕石から発見されたアミノ酸も左型。

    遺伝子の唯一の目的はより安定的に遺伝子を残す事であり、それこそが自然淘汰の真の意味。

    味覚の8種
    ・ブドウ糖に代表されるエネルギー源としての甘味
    ・ナトリウムイオンに代表されるミネラル源としての塩味
    ・クエン酸に代表される新陳代謝促進源としての酸味
    ・カフェインに代表される苦味
    ・グルタミン酸ナトリウムに代表される旨味
    ・カプサイシン等の辛味
    ・タンニン等の渋味
    ・ホモゲンチジン酸等のエグ味

    両親から得られるDNAの組み合わせの可能性は10の600乗以上。

    地球に生命が誕生してから36億年は無性生殖を行う単細胞生物のみ。8億年前から有性生殖が始まった。これにより、様々な環境に適応した多種多様な生命が誕生し飛躍的な進化が可能になった。つまり、有性生殖の最大の理由は多様性にある。

    無性生殖の生存戦略は質より量。有性生殖は個体の成長にも時間がかかるが、環境に適応する柔軟性が非常に高く質より量の戦略だと言える。

    最初に誕生した生命の複製子が無数の生物を乗り物にしながら進化を続け、結果的に44億年も生き延びている。これは宇宙年齢の三分の一近く。

    「ミーム」とは非遺伝的な複製子であり、脳から脳へ伝達される最小単位の情報。

    人間の遺伝子は子供には50%しか伝わらない。世代が進むごとにその寄与率が無視しうる値になる。エリザベス二世はウィリアム一世の直系子孫だが、彼女がウィリアム一世の遺伝子を一つも持ち合わせていない可能性は大いにある。

    カルト教団でもテロ集団でも彼らを直接的に結びつけているのは信仰や信条ではなく、小集団内の共感や排他といった感情的な結合にある。これらの集団にはメンバーになる為に高いハードルがあり、仲間入りした後に集団だけ通用する特殊な論理に無抵抗に従うようになる。

  •  理性の限界、知性の限界に続く限界三部作の最終巻。しかし今回は哲学的な空論ではなく、私たち人間自身の脳や心という実体あるものを対象にしている。そのため前二作とはだいぶ異なる印象を受けた。

     哲学的な意味でも物理的な意味でもなく、生物学的な構造として人間が内包している限界。空を飛べないといった意味ではなく、「こうするべきと理解しているのに、その行動が取れない」という限界が存在する。それは経験的に知っていることだが、その理由を(ある程度)きちんと説明されるとすがすがしい。そして、その理由がわかったとしても結局その限界から逃れることはできないというのもまた面白い。

     アンカリングなどの解説は実生活でも役に立ちそうだが、そういうのを役に立てる人生はあまり送りたくないものだ。

  • 「理性の限界」「知性の限界」に続く第3弾。今回は、「感性」ということもあってか、比較的ロジックに頼らない内容が多く、よりわかりやすかった。さまざまな内容が語られているので、全体像を把握するには、もう一度読み直す必要がありそうです。ただ、各項目で扱われる内容はどれも興味深く、知的好奇心を激しく刺激してくれました。特に遺伝子と進化論の話には目から鱗でした。

  • やはりシンポジウム形式は面白い。
    一気に読めました。

    感性は幅広く、曖昧な感じもあって、もっともっと話題はつきない感じもしました。この形式、もっと広がれるし、まだまだ見たいと思いました。
    ちなみに、宗教ってあまり出てきませんが、やはり哲学と宗教ってやはり本質的に違うものなんでしょうか、と気になりました。

  • ★★★★☆

    感性に限界などあるのかと思ったが、どうも人間というのは知らず知らずに窮屈な服を着ているらしい。

    アンカリングはなんとなく知ってはいたけど、改めてちゃんと読むと自分がいかにその影響を受けた行動をしていたかに愕然となる。

    全ての感情を化学物質や脳内の電気信号に置き換えるという考え方に関してはちょっと首をひねった。

    まるで「キーボードのAのキーを押したら電気信号が流れてAと認識される」という話と同じような考え方で脳を扱っているように思ったのだが、ちょっと単純すぎやしないか。

    実際には同じAのキーを押した場合でも使っているソフトウェアによって意味が異なるわけで、同じように脳の内部を流れている電気信号だってそこにどういう意味があるのかによってパターンは無数にあるような気がする。

    それとも全ての人に共通したソフトウェアなんてものでもあるのか。うーん、わからん。


    「自律的システム」と「分析的システム」の章を読んでいて良寛の逸話を思い出した。

    確かこんな話だ。

    若い僧が尊敬する良寛に近づきたい一心で彼と行動を共にするようになった。

    しばらくたったあるとき、乞食が行き倒れていた。

    良寛は遺体を丁寧に葬ってやったあと、その椀に残っていた食べ残しを美味そうに食べた。

    若い僧も同じようにしようとしたが、口をつけようとしてウッとなってしまい、食べられなかった。

    それを見た良寛は「お前には無理だから共に行くのはやめよう」といったという。

    仏教における悟りというものには、自律的システムから自由になることを含むのか。


    世界が不条理だという点には大いに賛同する。

    本当に世界はランダム関数で満ちてるな、ということは漠然とではあるが、いままでずっと思ってきたからだ。

    ただ、その中にあっても極端に振れることなく、「やわらかい決定論」の綱の上をバランスを取りながら歩くのが大事。

    なにごとも中庸が肝要。

  • 高橋昌一郎さんシリーズ最終巻かな? 日頃の感じる感覚がいかにあてにならないかを教えてくれる。認知バイアスや二重過程理論が興味深く、もっと知りたいと思う。そしてヒトの意思や自由がますますわからなくなるなぁ。この本に紹介された本を読んでみたい。

  • うーーーむ。なんで、行動学の話になったんだ??

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

國學院大學教授。1959年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修了。専門は論理学、科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。

「2022年 『実践・哲学ディベート』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高橋昌一郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×