- Amazon.co.jp ・電子書籍 (385ページ)
感想・レビュー・書評
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小説内で描こうとしている建築やインテリア関係の細かいところまで熱心に勉強されているのは間違いないのだが、取って付けたようなモチーフが度々登場する。
ルモグラフだとか、アスプルンドだとか、レ・クリントのフロアランプだとか、マーク・ロスコだとか、スタインウェイだとか、モノそのものの描写を省き松家さんの好きなものを強引にねじ込むことで、かえって小説世界のまとまりを欠いている。小物や脇役はたいてい話の大筋を補完しより大きな枝葉をつくりあげていくものだが、この場合は登場する度にいちいち気になって仕方がない。
しょせん小説なんてフィクションなんだから、時代検証やチグハグな世界観は百歩譲って良しとしても、せめて上質な万年筆のことを書きたいのならモンブランとか言わないで、読者に上質な万年筆を想像させる書き方をしてほしいなあ。
小説家ってホント大変…と感じる一方、そこ絶対ありえないよと突っ込みたくなる箇所も多い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
浅間山の麓に建つ山荘から物語は始まる。建物を巡るのは森や動物だけではない。人々の生き様が「先生」を中心に、幾重にも取り囲む。最初のうちこそ地味な展開だが、読み進めるに従ってその地味さがじわじわと効いてくる。本作品は建築用語にあふれた世界だが、奇妙なことに豊かなイメージを喚起する。ちなみに登場する建物や人物はすべて虚構だが、いずれも実際の建築物へのオマージュとして登場する。それらのひとつひとつが、読者への反応を見透かすように、深い味わいへと導いていく。また人物キャラクターが「立っている」のも物語の奥行を深くする。ストーリーには触れないが、登場人物ひとりひとりへの予感のようなものが伝わってくる。この作品にカタルシスがあるかと言えば「ない」と答えるしかないが、ただひたすらこの世界を縦断して流れる「時」があるのだということを改めて知らされる。本を閉じる際、しばしの恍惚感さえ感じさせる佳作だと言える。
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これあまりにも枯れ過ぎでしょう、という若者の一人称で進む物語は、終章、あるべきところに収まっていくようで、見事。筆者くらいの世代になって書ける話であって、「仕舞い方」を意識しながらスタートするっていうのは若い人には不幸なような気もします。図書館の話がモチーフなので、読書家としても興味深い内容。図書館を教会と比する下り、実に深い!「建築は現実」、建物に関わらずデザインを生業とする全ての人が胆に銘じたいですね(内田Tシャツの背中の惹句と好対照!)。あと船山圭一さんには読者のみなさん逢いたかったろう・・・!
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本棚の更新を1.5年分程ため込んでしまった。コロナ禍から在宅勤務が始まった為に、いつでも本棚を更新できると思ったのがまずかったです・・。結果、この「いつでもできる」というのが先延ばしにつながって気づいたら大変な事に。
折角読んだ本について忘れ去ってしまうのは勿体ないので、頑張って思い出しながら更新するわー。
さて、この本はそれでも良く覚えている。
とても良い本だった。前にこの作者の本が☆5にしたとても良いもので、違う作品も読んでみたいと思って読んだ。
読んでいると静謐な、清廉な空気に纏われる。主人公の性格がそうなのだろうが、性格から滲み出るものが小説の世界をそのまま形成する。読後しばらく経って、細かい内容は記憶から薄れてしまっても、読んでいる最中の感覚は思い出せる、稀有な本だと思う。
内容は、切なかったり不思議だったり、驚いたり。建築についても興味を持たせてくれるような内容だった。教会の描写とか、あの独特の教会の雰囲気が良く伝わってきた印象。図書館も同様。
登場人物の描写も丁寧で、感情移入できる。ただ確か、なぜ主人公と女性が恋愛感情を抱くようになったのか、の納得感が欠落していたという印象を抱いた気もする。
やはり、とても良い作家だと改めて感じた。 -
人生は思うようにいかない。そして、人間の作った建築物もいつかは朽ち果てていく。しかし浅間山はずっとそこにあり、噴火したりしなかったりである。誤解を恐れず言えばただそれだけの物語である。それなのに、いやだからこそ、くッ! せつなすぎるぜ…。