- Amazon.co.jp ・電子書籍 (344ページ)
感想・レビュー・書評
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ディックの作品は何作か読んだことがあり、こちらの作品も評価が高いようなので読んでみた。
個人的には他の作品に比べると読みやすかった
これは期待できると思っていたが最後のほうは失速
よく分からないままに終わってしまった
読了後様々なサイトで解説を読み、自分の解釈と大きな違いが無いことがわかった。
んー私にはハマらなかったな。
もう一度読んだら印象変わるのかな?と気になるけどもう一度読むのは腰が重い。
まあでも何も考えずにスラスラと楽しく読めたので評価は3で。
ハヤカワの装丁カッコいいから揃えようと思ってたけど、今後もディックの作品を読み続けられるか怪しくなってきたな詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?の執筆をした小説家である。アンドロイド・・・はかなり話題となって、コンピュータの世界でも引用されることが多いが、この小説はほとんど引用されなかった。
SFとあるが、推理小説でもなくて薬物が重要なキーとなっているので、一般の読書では敬遠されているのかもしれない。しかし、アンドロイド…よりもはるかに面白い。 -
3.1
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自分だけが存在しない世界に異世界転生!
書類上は存在しないが肉体と能力・魅力は存在する。皆んなの頭の中にはいないのに出会う人を魅了してしまう。じゃあ自分がいるってどう言う事?
存在するや生きる事を考える良い思考実験を小説にした感じ。
そして、生きてる時にどんな事をしても最終的に名声は残らない、作った物や文化は残る。スキャンダラスな本も名声みたいな物で、一過性のブームの後は殺意しか残さなかったね。息子の頭の中にもほとんど残れなかったね。 -
無数の可能性を可視的なものにし、かつ周囲を引き込む薬という薬の設定と、涙をキーファクターに人間とスイックスの悲喜交々が良かった
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引き続き、オーディブルでフィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』を聴き始める。
エンターテイナーであるジェイスン・タヴァナーとヘザー・ハートの2人はスイックスだというが、スイックスとは何か。年を取らない(ただし、髪の毛と声は別)。ブラックジャックでいつでも勝てる。ディーラーよりもピットボスよりも有利な立場で。めざましい回復力がある。ほかにも多くの能力があるが、42歳になったジェイスンもその全貌は知らない。
歌手志望のマリリン・メイスンはジェイスンに取り入ってオーディションを2回受けるが、どちらも失敗。そのことを根に持って、ジェイスンにゼラチン状のカリストの海綿動物をけしかける。食餌管が体内に入り込み、もう少しで食い破られるところだった。
オーディブルはフィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』の続き。
「おれは存在してないんだ」「ジェイスン・タヴァナーなどいないんだ。過去にもいなかったし、これからだって」
見知らぬホテルで目覚めたジェイスン・タヴァナー。しかし彼のIDと過去はすべて失われていた。毎週火曜日に放映されていたTVショーも、出生記録も、知人たちの記憶も、なにもかも。二重人格なのはジェイソンなのか、それとも。
偽造ID作成業者のキャシイは筋金入りのメンヘラ女で、自分の妄想恋愛ファンタジーにどっぷり浸っている(ように見える)。警察への密告をほのめかすキャシイに首根っこを押さえられて、ジェイスンは身動きとれない。
「スイックスね」「その人たちのことは〈タイム〉で読んだわ。もう死んでしまったんじゃないの? 政府が全員検挙して銃殺したのじゃなかった? あの人たちの指導者のーーなんと言ったっけ?ーーティーガーデン。そう、そういう名前よ。ウィラード・ティーガーデン。彼がーーなんと言うのかな?ーー連邦国家警備隊に対してクーデターを決行しようとしたあとじゃなかったかしら? 彼は警備隊を解散させようとしたのね。非合法のパリミューチュアルだじゃらって」
「パラミリタリー(正規軍補助隊)だ」
「私は」「セヴンたちがクーデターを未遂に終わらせたのだって思ってるの」
セヴン、だって。これまでセヴンなどジェイスンは耳にしたことがなかった。これ以上のショックはなかった。さっきの失言はあれでよかったのだ、と思った。そのおかげで実際に学ぶところがあったのだから。ようやくに。この混み入った迷路と半現実の中で学んだことだ」
オーディブルはフィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』の続き。
マクナルティ警部の語るキャシィの実像。
「ジャックはいない。彼女はジャックがいると思っているがね、それは精神異常からくる妄想だ。この女の亭主は飛行艇の事故で3年前に死んでいる。彼は強制労働収容所になど入ったことはない」
「彼女はかなりうまく世間に順応しているが、この固定観念だけは別だ。これは消えないんだな。生活のバランスを保つためにずっと手放さないだろう」「害になる考えじゃないし、そのおかげで彼女は生きていられる。だから、われわれとしても精神病の治療を受けさせないのだ」
ジェイスン・タヴァナーの記録はきれいさっぱり消え去っていた。
「IDカードによれば彼はジェイスン・タヴァナーだが、該当ファイルなし」「身なり良し、富裕と思われる。おそらくデータバンクから自分のファイルを引き出すことのできる有力者と思われる」
ひそかに衣服につけられていた超小型発信機を発見、身軽になったジェイスン。警察本部長フェリックス・バックマンとマクナルティ警部による捜査が続く。
オーディブルはフィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』の続き。
ジェイスン・タヴァナーが二重人格者か、パラレルワールドを移動したと仮定しないかぎり、ジェイスンの記録がすべて消えたことと、彼の記憶があらゆる人たちから消えたことは両立しない。記録が消えただけなら何らかの陰謀に巻き込まれたとも考えられるが、それでは記憶が消えたことの説明にならない。人びとの記憶がないのは、もともと彼が(少なくともジェイスン・タヴァナーという名前では)存在しなかったからだと考えられるが、そうなると、ジェイスンのレコードがその世界に存在したことをどう説明すればいいのか。バックマン本部長の双生児にして近親相姦相手の妻アリスがほのめかしたように、すべてがジェイスンの妄想(薬物による幻覚)だとしても、彼の預かり知らぬところでバックマン本部長やマクナルティ警部が彼のことを調べているシーンは、どう解釈すればいい? ドラッグによって妄想のスイッチが入り、妄想が覚めてしまったのは(何らかの理由で)ドラッグが切れたから、というだけで、全部説明つくのだろうか?
スイックスというのはSIXのことだった。ディル・テムコを共通の親とする優生思想に基づくエリート集団。おそらく何らかの遺伝子操作の結果、生み出された新人類。バックマン本部長はセヴンと偽ることで、シックスに対して心理的な優位性を保とうとする。
「ちくしょう、信じるともさ!」「それは連中のひそかに抱く不安なんだ。すごく恐れてること(bête noire: a person or thing that you dislike very much or that annoys you)なんだよ。連中はDNA遺伝子組み替え系統の六番めの系統だ。自分たちに対してそれができたのなら、もっと進んだことがほかの人間を対象にしても実施できるだろうと、連中は知ってるんだ」
「おまえたちスイックスはおたがいの献身的な愛情なんてほとんど持ってないんだな、とバックマンは思った。それはもう彼も知っていることだったが、それでもそういうことに会うたびにびっくりするのだった。社会の慣習を定め、維持するために貴族的な先代グループから生み出されたエリート集団。しかしおたがいに耐えることができなかったがために、実際にはしだいに無価値な存在になっていった」
アリスはジェイスンが元いた世界に行ったことがあるらしい。そして、バックマンとアリスの家に、「覚えてるはずよ。あなた、前に来たことがあるもの」という。アリスはジェイスンにメスカリン(サボテンから作る幻覚剤)のカプセルを飲ませ、幻惑させる。
「アリス、きみはわたしのことを知っている。わたしが何者かを知っている。なぜほかの連中は知らないんだ?」
「みんなそこへ行ったことがないからよ」
「どこだって?」
「まったくねえ、あなた、そこに42年暮らしてたんでしょう。あなたがよく知っている場所について、わたしがなにを話せばいいのよ?」
「わたしはどうやってここに来たんだ」
「あなたはねーー」「あなたに話したものかどうか、わたしにはわからない」
「なぜだ?」
「そのうちにってことにしましょう」「そのうち、そのうちに。ねえ、あなたはもう運命に一撃見舞われたのよ、もう少しで強制労働収容所に送りこまれるところだったの。そこがどんなところかは知ってるわね。あのマクナルティのばかとわたしの兄のおかげよ。警察本部長の兄よ」
はぐらかしたまま、アリスは死んでしまった(???)
「すぐ戻るわ。二階に行ってくる」少し離れたところにあるドアのほうに大股で歩いていった。長い、長いあいだ、彼はアリスの姿が小さくなっていくのをじっと見ていたーーどうして彼女、あんなことがやれるんだ? ほとんど姿がなくなるまで縮んでいけるなんて考えられないことだったーーそうして彼女は消えてしまった。ジェイスンはそれを見てぞっとした。助けてくれる者もいない、ひとりぼっちになったのがわかった。だれがおれを助けてくれるんだ?」
「床の上に見えたのは、骸骨だった。
骸骨は黒い艶のあるズボンをはき、革シャツを着て、鉄のバックルのついたくさりのベルトをしめていた。脚の骨からはハイヒールが脱ぎ捨てられている。髪の毛がいくつかの房になって頭蓋骨にくっついていたが、そのほかにはなにも残っていない。眼もなく、肉もすっかりなくなっている。骸骨そのものも黄ばんでいた」
「ジェイスンは目をつぶり、壁にしっかりとしがみついた。しばらくして、もう一度それに目をやった。
彼女は死んだのだ。しかし、いつ? 十万年前にか? 数分前か?
なぜ死んだのだろう?
メスカリンのせいだろうか? おれも飲んだメスカリンの? これは現実だろうか?
現実だった。」
ドラッグによる幻覚とも考えられるが、アリスは本当に死んだことになってストーリーは続いていく。頭がこんがらがってきたよ。
「ひょっとするとあの薬を飲んでいるあいだだけ、おれは存在しているのかもしれない。あの麻薬、なんだかわからないが、アリスがくれたやつだ。
となると、おれの芸歴、まるまる20年はあの薬によって創り出された訴求的な幻覚にほかならない、とジェイスンは思った」
「おれの身に起こったあの事件というのは、その薬が切れたということだ、とジェイスン・タヴァナーは思った。彼女がーーだれかがーー薬をおれにくれるのをやめた。そしておれは現実の世界、ひびの入った鏡やナンキンムシの巣くうマットレスのある、あのみすぼらしい、おんぼろなホテルの部屋で目を覚ましたのだ。あのあとずっといままで、アリスがもう一服をくれるまでは、そのままでいたのだ」
「あの邸に彼が行ったことがあるって、アリスは言ってたな。
どうやら、そいつもほんとうらしい。薬を取りにいったんだ。
ひょっとするとおれは麻薬のカプセルの力をかりて、人気と、金と、権力の、作りものの生活を送っているおおぜいの人間のひとりに過ぎないのかもしれない。一方、現実にはナンキンムシの巣くう、不潔で古ぼけたホテルの部屋で暮らしているんだ。零落した階層の人間。浮浪者。名もない人間。取るにたらない人間。だが、それでも、夢を見ているんだ」
オーディブルはフィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』が今朝でおしまい。
バックマン本部長に、アリス殺人事件の犯人へと仕立てられそうになったジェイスン・タヴァナーとヘザー・ハートは警察に出頭した。身の潔白を証明するために。
アリスが死んだのは、まだ実用化されていない警察アカデミーが開発した新薬を盗んで飲んだからだった。
「時間保存(タイム・バインディング)は脳の働きのひとつで、脳がインプットを受け入れているかぎりはつづきます。で、同様に脳が空間を保存できなければ脳は機能しないというのはわかっています。しかし、なぜかということになると、まだわかっていないのです。おそらく、順序が前後関係でーー時間ということになるんでしょうがーー整えられるような形で現実を固定させようという本能と関連があると思われます。またもっと重要なのは、その物体の図面とちがって、立体のように、空間を占有するということです」
「さて、空間についての概念はこうです。ある一定の単位の空間はその他のすべての一定単位の空間を排除する。ひとつのものがそこに存在していれば、それはここには存在しないのです。ちょうど時間の場合に、ある出来事が前に起これば、それがまたあとで起こるということはありえないのと同じです」
「空間の排他性は脳が知覚を司るときの脳の働きに過ぎません。脳は相互に排除しあう空間単位ごとにデータを規制します。無数の空間単位です。理論的には数兆ですが。しかし、本来、空間は排他的なものではないのです。事実、本来、空間はまったく存在しないのです」
「KR-3のような薬物は、ひとつの空間単位を別の空間単位から排除する脳の能力を失わせるのです。そこで脳が知覚を司ろうとすると、遠近感が失われます。対象がもうなくなってしまったか、それともまだそこにあるのか見分けられなくなります。こういうことが起こると、脳はもはや代わるべき空間ヴェクトルを排除できません。脳はあらゆる範囲の空間に向かって開放されるのです。脳はもうどの対象が存在するものであり、どの対象が単に潜在するだけで空間的広がりを持たない可能性であるかの見分けがつかけられなくなります。その結果として、競合する空間回廊が開かれ、その中に混同した知覚系統が入りこんで、その脳には新しい宇宙全体が想像されるさなかにあるように見えてくるのです」
「KR-3は飛躍的な発明です。その作用を受けた人間には、だれしもいやおうなく非現実の世界が見えてくるのです。さっき申しましたように理論的には何兆もの可能性がたちまちにして現実になります。ただそこに偶然性が入りこんできて、その人の知覚系統は目の前に提示されたすべての可能性から、ひとつの可能性を選択するのです。選択せざるをえないのです。なぜなら、選択しなければ、競合する世界が重なりあって、空間認識そのものが消滅するからです。わたしの言っていることがわかりますか?」
「脳はいちばん手近な空間領域に飛びつく、そう言ってるんですよ」
「そうです」「KR-3に関する機密報告書を読んだんですね、ミスター・メイム?」
「1時間前にあちこち拾い読みしたんです。ほとんど専門的でわたしにはわからないことなんですが、その作用が一時的なものであるということはわかりました。脳は、最終的には以前知覚していた現実の時空物体との接触をふたたび確立するのですね」
「そのとおりです」「しかし薬物が作用しているあいだは服用した本人は存在するというか、存在すると思っているわけでーー」
「どっちでもちがいはありませんよ。この薬物はどういうふうに作用するんです。その区別をなくしてしまうんです」
「専門的にはそうですが」「本人にとってみれば、現実のものとなった環境に包みこまれているわけです。彼がずっと体験していた、以前の環境とは無縁の環境ですからね。新しい世界に入りこんだような行動をとるわけです。様相のすっかり変わった世界……どれだけ変わったかは、当人が以前知覚していた時空世界と、彼がいまその中で生きることをしいられている新しい世界とのあいだの、言うなれば”距離”がどれだけあるかによって決まるのですが」
「これでタヴァナーになにが起こったかがわかりましたか?」
「彼は自分の存在していない世界に移ったのですよ。そしてわれわれも彼とともにそこに移ったんです。われわれは彼の知覚の対象ですからね。そのあとで薬が切れると彼はもとに戻ったのです。じっさいに彼をここにもう一度押し戻したのは、彼が飲んだものなんかではなく、アリスが死んだことです。当然彼のファイルがデータ・センターから届いたわけです」
「わたしの言ったことでひとつ説明したいんですが。われわれが彼の知覚の対象であるということについてです」
「彼の知覚対象でもあるし、またそうでもないんですよ。KR-3を服用したのは他ヴァナーじゃありません。アリスなんです。タヴァナーは、われわれ、ほかの人間と同じように、あなたの妹さんの知覚系統の中でひとつの基準点になったのです。そして彼女が別の座標系に移ったとき、彼も引きずられたのです。どうやら彼女は願望充足の具現者としてのタヴァナーに傾倒していたようで、生身の人間としての彼を知ることを頭の中で幻想的なショーとしてしばしば夢に見ていたのですよ。しかし、彼女が薬を飲んでその願望を充足していたといっても、彼もわれわれも同時に自分たちの世界に留まっていました。われわれは同時に、現実と非現実のふたつの空間回廊を占めているのです。ひとつは現実です。もうひとつはKR-3によって一時的に出現した、多くの可能性の中のひとつの潜在的可能性です。しかしほんの一時的なものです。およそ二日です」
「それだけの時間があれば」「脳にとてつもない肉体的損傷を与えるには充分ですよ。妹さんの脳はですね、ミスター・バックマン、おそらく毒性による損傷というよりも、むしろ、高い持続的な過重負担によって破壊されたのでしょうね。決定的な死因は大脳皮質組織の回復不能な損傷、通常の神経組織の崩壊が早められたということかもしれません……彼女の脳は二日のあいだにいわば老衰死したわけです」
なぜ知覚の問題が、現実世界に作用を及ぼす? 薬を飲んだのがアリスで、ジェイスンもバックマンもハーブ・メイブもアリスの知覚対象だったとしても、なぜ現実のジェイスンやバックマンやハーブ・メイブまで、別の時空世界へ移動する? そのジェイスンやバックマンやハーブ・メイブは、アリスの知覚世界の住人でしかないはずなのに? 全然わからないよ。
スイックスの説明も、あれ以来ない。宙ぶらりんのまま放り出されてしまった。 -
インパクトがあるが中身を全く想像できないタイトル。
それゆえ昔から知ってはいたが、私は特にSF好きというわけではないので、いや読むのは好きなのだが、周辺知識がないので、この本がどういう話なのか、全く知らないまま読み始めた。
そしてのけぞった。すんげえ、この小説。
フィリップ・K・ディックはもちろん知っているし、何冊か読んだことがありどれもすごい面白かったが、こんなすごい本だったとは。
舞台も物語も面白い。人物描写も引き込まれる。
一番良かったのは、やはりラストシーンだ。最後にタイトルを回収するのか。バックマンがモンゴメリーを包容するシーンは泣いた。読み終わったあとにもう一度そこを読み返してまた泣いてしまった。
世の中に、こんな物語があるのか! なんてすごいんだ。 -
久しぶりにPKディックを読みたくなってkindleでダウンロードした。読みたいときにすぐ読めるのがいいところ。でも、実際には少し読み始めて途中で中断。むかし文庫で読んだ気もするが、思い出せない。原書が発表されたのは1974年。小説の舞台は1988年という設定。科学技術的にはいろいろ凹凸があるが、通信関係だけは想定より現実の方が進んでいる感じ。AIも、昨今はdeepラーニングなどかしましいが、SFの想定ほどには進んでいない。そういえば、涙を流すのはバックマンであり、タヴァナーは涙を見せない。でも、ストーリーの中では、感情移入しやすいのは官僚的で制度を操るバックマンの方ではなく、システムに翻弄されるタヴァナーの方だったりする。涙を流さずに自らの意志で動くアンドロイドより、涙を流すけれどもシステムを守ることに躍起になっている人間の方が人間的だ、と言えるのだろうか。
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SFって何だろう。
ある日突然タヴァナーは見知らぬ世界に放り出される。何が一体起こったのか? その謎を追いかけるSFを読んでいるんだと思ったのに、それは主題ではない。
喪失は愛の一部であるということ。失ったものと自分を結びつけるために、涙は流れる。
キャシィとメアリーも印象的だったけれど、私の中ではルースが愛のサイクルを語る場面がピークだった。
無感情がちなスィックスとの対比で人間たちは脆く醜く近しく感じる。その効果はさすが。 -
ディック作品には珍しくない、実世界を失った男の話。
もともとの世界の多少の不可解さや、新しい世界での登場人物の変化なども、「ああ、ディックだな」と思える作品。
しかし、その世界を失った理由が割とはっきりわかるのは珍しいかも。最後は結構感情的な物語です。本作のダンディズムは古典的だな、と思いました。そういう部分は、日本も欧米も共通なのかもしれません。