「空気」の研究 (文春文庫) [Kindle]

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  • 山本七平による日本人論の古典。
    池田信夫氏のブログなどによく登場するが、Kindleで購入して一読してみた。

    ここでいう「空気」とは、「とてもそんなこと言える空気ではなかった」「その場の空気が許さなかった」の「空気」。
    山本は、「空気」を「臨在感的把握の絶対化」と定義する。
    というと難しいが、簡単な言葉で言えば「対象物への感情移入」。
    単なる物体や事象に感情が移入されることで、それを客観的に語ることは許されず、科学的な分析が立ち入る余地がなくなってしまう。
    本著の中では、(執筆当時に話題になっていたのであろう)イタイイタイ病の原因物質とされたカドミウムが事例として多く取り上げられているが、原発や核、御真影、甲子園の砂、などいくらでも思いつく。
    言い換えれば、「そんなことをしたらバチが当たる」存在といったところか。

    日本人はなぜそんなに「空気」に支配されやすいのか。
    日本的な世界はアニミズムの世界である。
    そこでは原則的に「相対化」が無く、絶対化の対象が無数にある。
    他方、一神教の世界においては、「絶対」は唯一神のみであり、他の全ては対立概念で相対化が可能である。
    相対化をしない(できない)から、「空気」に支配されてしまう。

    そしてもうひとつの特徴、「空気」は容易に一変し得る。
    典型的なのは終戦。
    軍国主義的価値観が一夜にして吹き飛び、民主主義と自由主義が国是となる。
    山本は、これを「水」と表現する。
    「水を差す」の「水」。
    ※なお、山本は「水」=「通常性」と定義しているが、この「通常性」という概念を理解するのが難しい。

    山本は、その背後にあるのは、「情況」を行為の正当化の根拠とする考え方であるとする。
    「そういう情況だったのだから仕方がない」という正当化。
    そこでは、情況の創出には自己もまた参加したのだという最小限の意識さえ完全に欠如している状態となる。
    自己の意志の否定であり、自己の行為への責任の否定である。
    この考え方をする者は、同じ情況に置かれても、それへの対応は個人個人でみな違う、その違いは、各個人の自らの意志に基づく決断であることを絶対に認めようとせず、人間は一定の情況に対して平等かつ等質に反応するものと規定してしまう。
    これは「日本的平等主義」に起因している。

    この本が書かれてから40年が経過しているが、日本社会の本質はまったく変わっていない。
    依然として「空気」と「水」だけがある世界。
    その社会の一番の問題は、「空気」「水」に乗れなかった少数の人たちを排除する方向に社会の力学が動きやすいことだろう。
    菊池桃子が言っている「社会的包摂」とは真逆の方向性だ。

    とはいえ、堅固な「空気」と「水」の社会もグローバル化の波には抗し切れず、少しずつ崩れていく方向にあるのは間違いないだろう。
    だが、その一方、ネット社会・世論の大衆化によって支配の傾向が増幅しやすくなっている面も感じられる。
    これからの日本社会は、「空気」「水」の支配から一線を画して生きるグローバルな人々と、そこから相変わらず抜け出せないローカル・マジョリティ、そして排除される側の不幸なローカル・マイノリティの三極にわかれていくのかもしれない。

  • 個人が責任を持って自らの意思により下す決断よりも、全体から醸成される空気に絶対的に優先される事への考察。
    言わんとしてることは分かりやすいのだが分析内容は意外と難解で、読み終わって振り返ってみると、とても自分では説明できず、再読が必要だということだけ分かった。。

  • キリスト教的西洋思想と比較した、日本的思想(≠儒教)の構造と本質。なぜ論理を無視した「空気」がすべてを支配してしまうのか。なぜそれは何度も繰り返されるのか。非常に重要で興味深いテーマ。が、正直な話、難解すぎて半分も内容が理解できず。

  • 難解でしたがなんとか読了。
    日本にもちゃんとした科学者はいるのだけれどな、と思った。
    そうでない人が圧倒的に多く、かつ、覇権を握っているのは未だにそうだけれど。

著者プロフィール

1921年、東京都に生まれる。1942年、青山学院高等商業学部を卒業。野砲少尉としてマニラで戦い、捕虜となる。戦後、山本書店を創設し、聖書学関係の出版に携わる。1970年、イザヤ・ベンダサン名で出版した『日本人とユダヤ人』が300万部のベストセラーに。
著書には『「空気」の研究』(文藝春秋)、『帝王学』(日本経済新聞社)、『論語の読み方』(祥伝社)、『なぜ日本は変われないのか』『日本人には何が欠けているのか』『日本はなぜ外交で負けるのか』『戦争責任と靖国問題』(以上、さくら舎)などがある。

「2020年 『日本型組織 存続の条件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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