傭兵の二千年史 (講談社現代新書) [Kindle]

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  • 世界最古の職業が売春婦で二番目に古い職業が傭兵。戦いや戦争の歴史を名称としては学んできたが、そこに関わる人、特に兵士がどのような性質の変遷をたどって来たかを知ることは大変興味深い。近代を除き、基本は「食うため」が傭兵という職業が成り立つ最大の理由のようだ。
    古代ローマから今日の国民軍まで、傭兵の変遷が軽快に語られる良書。

  • 古代から近代、現代までの”傭兵”について、軽妙な語り口で解説している良書。

    金銭で雇われて、命を賭けて戦地に赴く。
    その動機はさまざまであり、また、時代とともに変遷していく。

    スイスがなぜ時計の一大立国になったのか、その背景に傭兵集団があったとは知らなかった。
    また、秘伝の砲兵技術をこっそり漏らしてしまった名もなき傭兵の話、同じ民族で戦う馬鹿らしさから戦争放棄する話とか、いろいろ興味深かった。

  • ヨーロッパにおける傭兵の歴史を書いた本。著者は日本人なので日本との対比はたまに出てくるが、中国とかは皆無。ヨーロッパに限った話でもそれなりの分量はあるため、これで減点をするつもりはないが、タイトルに「ヨーロッパ」や「西洋」なんかは入れても良かったのでは。

    現代に生きる感覚からすると、国民軍こそ主で、傭兵は副に思える。しかし歴史を紐解くと、そうとも言えない。むしろ傭兵で戦うのが一般的であり、国民軍ならぬ市民軍こそが例外的存在なのだ。一般市民にも武装を揃えるだけの財産があり、守るべき土地を持っている。そういった基盤があってこそ市民軍は成り立つのだ。

    市民軍が成り立つ条件を考えると、傭兵がメインになった理由も頷ける。富は貧しい者から豊かな者へと流れ行く。何かしらの大事件が無い限り、格差は広がってしまう。そうすると、富裕層も貧困層も市民軍となるのを嫌がる。富裕層は金で解決できるなら、わざわざ自らを危険に晒したくはない。貧困層は守るべき財産を持たず、装備を自分で整えることはできない。なので命と金を交換するインセンティブが、両者に働く。富裕層は金を支払うことで貧困層を戦わせるのだ。

    現代では傭兵は一般的ではない。しかし、志願兵と資産の関係を考えると、今も傭兵が一般的であるのではないか。違うのは傭兵の調達先が自国民であるということ。そう思えてならない。

  •  現在のような形での「国民国家」や「正規軍(常備軍)」ができたのはそう昔のことではなく、ほんの300年ほど前まで国とは支配階層の勢力範囲のことであり、兵士は戦争のたびに金で集められる武装集団つまり傭兵が中心だった。ヨーロッパにおける傭兵と言えばまずスイス人傭兵が有名であり、その対抗馬となったのがドイツ人傭兵・ランツクネヒトだ。本書では主にこの辺りの傭兵たちがどのような歴史をもつか解説している。

     傭兵たちのルーツや組織、主な戦争における勢力分布などが語られているが、なんといっても傭兵たちのシンプルな行動原理がある意味でとても清々しい。彼らは愛国心とか忠誠心などとは無縁で、ただ金のために戦っていた。さすがに同郷の者同士が敵味方に別れて戦うことには抵抗があったようだが、その感覚は素朴なものだ。

     “誇り高い”騎士や武士や現代の職業軍人からすれば、金のために戦うのは卑しいことかもしれない。しかし愛国とか忠誠とかは、しばしば胡散臭い。それに比べたら人間の欲望そのものを理由とするほうがよほど信用できるではないか。

     主題とは外れるかもしれないが、本書の終盤、フランス革命軍から「フランス国民万歳!」の声が起こる場面はゾクゾクする。ゲーテが「世界史の新しい幕開け」と呼んだ瞬間だ。現代の軍と戦争はその先にある。

  • 金のために望むと望まざるとにかかわらず戦場に身を投じる傭兵たちの姿がわかった。
    スイスが産業がなくて傭兵業を中心にした国家だったというのは意外。
    概略戦争史としても。

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著者プロフィール

1948年生まれ。早稲田大学大学院博士課程に学ぶ。明治大学名誉教授。専攻はドイツ・オーストリア文化史。著書に『ハプスブルク家の人々』(新人物往来社)、『ハプスブルク家の光芒』(作品社)、『神聖ローマ帝国』(講談社現代新書)、『ハプスブルク帝国の情報メディア革命─近代郵便制度の誕生』(集英社新書)、『超説ハプスブルク家 貴賤百態大公戯』(H&I)、『ウィーン包囲 オスマン・トルコと神聖ローマ帝国の激闘』(河出書房新社)、訳書に『ドイツ傭兵の文化史』(新評論)などがある。

「2022年 『ドイツ誕生 神聖ローマ帝国初代皇帝オットー1世』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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