「全聾の天才作曲家」佐村河内守は本物か―新潮45eBooklet [Kindle]

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  • 佐村河内氏の全聾偽装&ゴーストライター問題が発覚する前の記事を電子書籍化したものである。事件発覚後にタイムリーに低価格(100円)で出版するという形は非常にうまく電子書籍の特質を活用したものになっている。

    芸術の価値の観点からは、その評価は作品によってのみからなされるべきであり、創作者がどんなハンディがあり苦労をしたかどうかは捨象して評価されるべきであるという原則が、いかにたやすく破られるのかを示す事例だと思う。また、障害者を含む弱者に対して、批判を許さない力というものが内面を支配している様を示すものでもある。われわれは進んで喜び、そのことを受け入れるのである。芸術自体はわかっていないのだから。

    それに対して、本記事の筆者は率直に音楽が価値があるものではないと指摘する。「借りもののようである」といまとなっては的を射た内容だ。

    記事では、佐村河内氏の胡散臭さにも言及している。その作品の価値の凡庸さについて評価ができるのであれば、やっとその作者にも論を進めることが可能になるのである。逆に言うと、そこに至ることができないものにとっては、ハンディを克服したという物語は不可侵なままとどまる。

    ひとつの問題は、その芸術的には凡庸とされる作品を多くの人たちが喜んで金銭を支払って観賞していたことであろう。多くの人は、心理的には「芸術」にお金を払いたがっているのである。価値が金銭で測られるのであれば、そこに価値があったということになるのであろうか。

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    この件それにしても、高橋選手がフリーの曲に使っていると知りながら、オリンピック前のこの時期にばらさなくてもねえ。

著者プロフィール

作曲家・指揮者・音楽学者。1964 年東京生まれ。中央大学大学院(哲学)、桐朋学園大学研究科(音楽学)を修了。現在東京フルトヴェングラー研究会代表。著書に『フルトヴェングラーの遺言』(春秋社)、訳書にシェンカー『ベートーヴェン第5交響曲の分析』(音楽之友社)、フィッシャー=ディースカウ『フルトヴェングラーと私』(河出書房新社)、『伝説の指揮者フェレンツ・フリッチャイ』(アルファベータブックス)他がある。2014 年『新潮 45』掲載の論説、「“全聾の天才作曲家”佐村河内守は本物か」により第 20 回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。

「2021年 『あと四十日 “フルトヴェングラーの証人” による現代への警告』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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