年収は「住むところ」で決まる ─ 雇用とイノベーションの都市経済学 [Kindle]

制作 : 安田 洋祐(解説) 
  • プレジデント社
3.83
  • (20)
  • (30)
  • (26)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 349
感想 : 36
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (353ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 高学歴が集まり、イノベーションが起きる街では高学歴だけでなく、低学歴の収入も上がるという本。様々な研究を元に、なぜこのような現象が起きるのか、都市政策はどうするべきかを解説していく。

    基本的には人材のマタイ効果である。優秀な人材は優秀な人材と働きたいので、優秀な人材が多いところにやってくる。そうすると優秀な人材は互いを高め合うので、より優秀になり、金を多く稼ぐようになる。こういった人たちはサービスに金を出すため、サービス業に従事する優秀でない人たちの収入も増加するというわけだ。金を払う客は世界が対象となるが、自分を高めるのは周囲の環境。これが地域間の格差を生み出すのである。

    ここまではっきりと認識してはいなかったが、前々から感じていたことではある。特に以前『一兆ドルコーチ』を読んだ時に強く思った。やはり成功するなら周囲の環境が重要である、と。なかなか物理的に離れた人と偶然交流する機会はそうそう無いので。

    とはいえ現在はコロナ影響で人と人の距離が開く状況である。これでマシになるかというと、そうは思えない。物理的に離れた人との交流が活発になればいいのだが、実際は単純に交流が減るだけになる気がする。そうすると、世界的にイノベーションが減って終わるだけなのではないかと。

  •  ニューヨークの最低賃金は3000円です、というツイートを目にした。でも、ニューヨークではたぶん生活費が3倍なんだろうなと思う。いや、だから東京の生きやすい、とは思わない。ただ、こうした現象を説明するために、この本は役に立つなと思ったのだ。
     先進国で製造業は復活しない。生産性の向上により、製造業はどんどん雇用者を必要としなくなっているから。現代において乗数効果があるのはイノベーション産業のほうだ。高い給料をもらう人たちは、レストランでも、美容院でも、ヨガ教室でも、カネを落とす。さらにこうした企業は寄り集まる。人材は似たようなところで融通されるし、企業を飛び出して起業する人もいる。こうした結果、地方都市の大卒者より、サンフランシスコの高卒者のほうが年収が高いということが起こる。まぁ、結局生活にかかるカネもサンフランシスコのほうがダンチだということにはなるのだが。こうやって説明すると「知ってた」という人も多いだろうが、解説がしっかりしているということはよいことだ。

  • 郊外への引っ越しを考え始めたころに、数年前に読んでいたこの著書を読み直したところ、やはりまだ都心部に住み続けることが自分への投資になるのではないかと思いました。

    アメリカ拠点の経済学者による一般向けの本なので、実例と出される土地などが基本的にはアメリカ国内の都市で、地理関係なども掴みづらく読みにくいかもしれません。
    しかしさすが研究者によってまとめられた文章。企業であれ、テクノロジーであれ、優秀な人材であれ、リソースは集まるべく一箇所に集積をする傾向が歴史上のデータを元にまとめられています。車産業で栄えたデトロイト、テクノロジー産業で数多くの特許を生み出し続けているシリコンバレー。このような都市で起きた歴史をなぞっていくと、いかに集積効果が雪だるま式に働いたのかわかるのではないでしょうか。
    なぜしょうか。今日インターネットが普及して、ネットワークがつながるのであれば世界中どこであれ、必要な人とコミュニケーションを取ることができる時代です。なぜ高い家賃などを払ってまで、集積地で腰を据えないといけないのでしょうか。例えばオフライン発生するイノベーションを求めて。例えば日々の生活に刺激を与え続けるため。高品質なサービスを享受し続けるため。より高みを目指すことができる職場を得るため。富を気づくため。これら全て当てはまるでしょう。
    ちなみにこれらは高所得者だけが得をするゲームなのでしょうか。いいえ、違います。どのような業種でも基本的にな実入りとしては、郊外より集積地の方がいいようです。コストも高くなりますが、それでもペイできるという計算だったと言う研究結果は驚きです。

    一通り読み終えて、自分を含め家族を伸ばしていくためには、人や知識や企業が集まる場所に住むことが、大事な投資であると気が付かされます。

  • ## 日本語版への序章 浮かぶ都市、沈む都市

    - 都市にハイテク関連の雇用が一つ創出されると、最終的にその都市の非ハイテク部門で五つの雇用が生まれる。
    - 雇用の乗数効果はほとんどの産業で見られるが、それが最も際立っているのがイノベーション産業である。
    - 繁栄している都市はますます繁栄していく。イノベーションに熱心な企業は、イノベーションに熱心な都市を拠点に選ぶ傾向があるからだ。
    - イノベーション分野の良質な雇用を創出し、高度な技能をもった人材を引き寄せた都市は、そういう雇用と人材をさらに呼び込めるが、それができない都市はますます地盤沈下が進むことになる
    - 人は互いに顔を合わせてコラボレーションするとき、最も創造性を発揮できる。ある土地に人材が集積すれば、その土地にさらに人材が集まり、コラボレーションが促される。その結果、一人ひとりの技能がさらに高まり、ますます多くの人材が集まってくる。そうやって、イノベーション能力に富んだ人材を大勢引きつけられた都市や国が経済の覇者になる。

    ## 第1章 なぜ「ものづくり」だけでは駄目なのか

    - グローバル化した経済においては、あらゆることに卓越している必要はない。それを目標とすべきですらない。自国で生産するのが得意なものだけをつくり、それ以外のものは、他国に生産させて輸入するほうがよほどいい。
    - デヴィッド・ベッカムはサッカーに専念し、住む家の建設や、髪の毛のカット、衣服の製造はほかの人に任せるべきだろう。これが経済学で言う「比較優位」の考え方である。

    ## 第2章 イノベーション産業の「乗数効果」

    - 乗数効果 = 経済の雪だるま式
    - 例)投資が増える → 国民所得が増加する → 消費が増える →所得が増加する → 消費が増える → 、、、のような増加c
    - ハイテク産業の乗数効果は、他の産業よりも大きい
    - ハイテク企業で働いている人が非常に高給取り。そのため、地元のサービス業に落とす金が多く、地域の雇用創出への貢献も大きい。
    - 可処分所得が多いので、レストランで食事をしたり、美容院に行ったり、心理セラピーを受けたりする頻度が高いのだ。マイクロソフトの資料によると、同社の従業員に一年間に支払われている金額は平均して一七万ドルと、非常に大きな金額。

    ## 第4章 「引き寄せ」のパワー

    『集積効果』以下の3つを合わせて、集積効果と呼ぶ。

    1. 厚みのある労働市場(高度な技能を持った働き手が大勢いる
    2. 多くの専門のサービス業者の存在
    3. 知識の伝播

    集積効果は、イノベーションの能力に富んだ人材と企業がどこに集まるかを左右し、地域の経済的運命を決める要素である。

    ## 第5章 移住と生活コスト

    - 専門職の労働市場が全国規模で形成されているのと異なり、肉体労働や非専門職の労働市場が概して地域単位で完結している。
    - そういう事情があるので、肉体労働や非専門職に就こうとする人たちは、ほかの都市に好ましい就労機会があってもそれに目を向けない。これは、豊かな国ではほぼどこでも見られる現象

    ## 第7章 新たな「人的資本の世紀」

    - 良質な雇用と高い給料の供給源は、次第に、新しいアイデア、新しい知識、新しいテクノロジーを創造する活動に移ってきている。そうした変化は今後も続き、さらに加速するだろう。
    - それにともない、イノベーション能力に富んだ人的資本と企業を引きつけようとする国際競争が激化する。そして、人的資本がどこに集まるかは、地理と集積効果の影響をいっそう強く受けるようになる。
    - その結果、国が繁栄するか衰退するかは、その国の頭脳集積地の数と実力にますます大きく左右されはじめる。
    - 物理的な工場の重要性は低下し続け、その代わりに、互いにつながり合った高学歴層が大勢いる都市が、アイデアと知識を生む「工場」として台頭するだろう。

  • ◆第1章 なぜ「ものづくり」だけではだめなのか
    高学歴の若者による「都市型製造業」の限界
    中国とウォルマートは貧困層の味方?
    先進国の製造業は復活しない

    ◆第2章 イノベーション産業の「乗数効果」
    ハイテク関連の雇用には「5倍」の乗数効果がある
    新しい雇用、古い雇用、リサイクルされる雇用

    ◆第3章 給料は学歴より住所で決まる
    イノベーション産業は一握りの都市部に集中している
    上位都市の高卒者は下位都市の大卒者よりも年収が高い

    ◆第4章 「引き寄せ」のパワー
    頭脳流出が朗報である理由
    イノベーションの拠点は簡単に海外移転できない

    ◆第5章 移住と生活コスト
    学歴の低い層ほど地元にとどまる
    格差と不動産価格の知られざる関係

    ◆第6章 「貧困の罠」と地域再生の条件
    バイオテクノロジー産業とハリウッドの共通点
    シリコンバレーができたのは「偶然」だった

    ◆第7章 新たなる「人的資本の世紀」
    格差の核心は教育にある
    大学進学はきわめてハイリターンの投資
    イノベーションの担い手は移民?
    移民政策の転換か、自国民の教育か
    ローカル・グローバル・エコノミーの時代

  • タイトルはえげつないけれどいたって真面目な経済学の本でした。つくば市をはじめとする学術研究都市の関係者の方にはよい内容かもしれないと思います。

  • 住む所によって年収が異なってくることを詳しいデータと共に説明してあった。

    日本でも実際に書いてある通りで少しショックを受けた。
    低学歴の人ほど育った場所から離れないと言う。
    個人的なことだが大学の先輩や同期は生まれ育った場所を離れて世界中・日本中で活躍しているのに対し、小中学校(平均偏差値40)の人達は地元に根ざしたまま低収入の人間が多い。

    また、最後の方で、地域の問題は人材の定着化の問題と分かり非常に示唆に富む内容だった。
    これを企業や国都道府県・市町村がどの様に活かしていくが課題。
    恐らく殆どのところで活かせないと思うが(笑)

  • 雑駁に言うと、生産性の高い(≒賃金の高い)産業が立地すれば、それ以外の地域サービス等の作業の賃金も上がり、結果として、地域全体に繁栄をもたらす。だから年収は住むところ次第という話。これまでは製造業の立地が大事だったが、今後はイノベーション産業の立地こそ繁栄の礎。ディシプリンは経済学のようですが、あくまで平易であっという間に読めることが良くもあり、若干食い足りないところもあり。☆4つが適当では。

  • 「著者の分析によると、ハイテク産業で新たに一件の雇用が生まれると、その地域でサービス関連の新規雇用がなんと五件も生み出される。」

    インターネットが普及し、これからは場所に縛られる事なく繋がると多くの人が考える中で、それでもやはり住む場所は働く上で大切だと説く本。

    成功した場所や人のもとには、それに興味のある人が多く集まる。そして、その中の優秀なものがさらに多くのものを集める。つまり、成功が成功を呼ぶ好循環を生み出す。

    現代社会では調べたいものをすぐに調べられるようになってきた。それでも、何か新しいことを知るには、それに関連する何かをまず知っておかなければならない。知識の伝播はローカルなもので、人づてに聞く情報こそが新しく私たちを導く。

    大学進学はとてもおいしい投資。高卒と大卒では生涯賃金に五倍程度の開きができる。ただ、ある場所とある場所を比べると大卒よりも高卒の給与が良い場所もある。やはり働く場所は大切なのだ。そして、子供は大学に送るべきなのだ。

エンリコ・モレッティの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×