「先送り」は生物学的に正しい 究極の生き残る技術 (講談社+α新書) [Kindle]

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  • Amazonの書籍で「すぐやる」を検索すると、驚くほどたくさんの本が引っかかる。本屋は「すぐやる」ためのビジネス本で溢れている。
    本書は「すぐやる」という風潮に対するアンチテーゼのビジネス本ではなく、純粋な生物学エッセイ。

    著者は進化生物学を専門とする学者さん。「進化生物学とは 、簡単にいえば 、生物がその長い歴史の中でいかに生き延び 、自らの遺伝子を後世に伝えるための術をどう発達 、発展させてきたのかを科学的に明らかにする学問だ 」。
    弱肉強食の世界では、捕食する者とされる者が存在する。本書では、前者を上司に、後者を部下に見立てている。
    「逆らえないほどの敵に対峙したとき 、生き物はどのようにして事態を回避するかを知ることが 、本書の主要なテ ーマである 。そこから 、あなた自身が 〝いま 〟という時代を生き抜くうえで 、次々と立ちはだかる苦境をうまくやりすごすヒントを見出してくれたらと思っている 」。
    この見立ては、若干こじつけがきついかもしれない。しかし、本書は面白い。

    例えば、ハエトリグモに出くわしたコクヌストモドキ(甲虫)は死んだ振りをする。実験では、死んだ振りをした14匹中13匹が助かっている。これは、個体が死んだ振りをして動かなくなることにより、隣人である個体に捕食者の注意を向けさせ、自分は助かるという戦略である。
    会社の会議で、良いアイデアが出ない場合がある。下手なアイデアを出してペケが付くくらいなら黙っていた方が良い。そして、どこにもひとりくらいは、良いか悪いかは別にして、積極的にアイデアを出そうとする人たちが存在する。この場合、〝提案しない人 〟が生き延びられる 。「このように 、あらゆる場面で活発に問題に対処しようとする他者がいてくれてはじめて 、先送り戦術である 「死んだふり 」が功を奏するのだ 」と著者は進化生物学の視点から分析する。

    本書は擬態、休み、寄生、共生など、「モラルは少し脇に置いてでも 」生き延びるための知恵を紹介し、「途方に暮れたときは 、敵 (上司 )に食われてしまった数多の生物 (部下たち )の行動を思い出し 、生物の原点に立ち返って 、進化生物学的に考えてみてほしい 。生物の原点 。それは 「生きて 、つなぐ 」である 」と結論づける。

    特に、この本を読んで、気が楽になるとか、勇気づけられるということはない。でも、「生き残る」という視点から見た生物学は面白い。気楽に読める生物学本としてお勧めの星4つ。

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著者プロフィール

岡山大

「2014年 『昆虫生態学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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