文學界 2015年 2月号 (文学界)

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  • / ISBN・EAN: 4910077070256

感想・レビュー・書評

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  • お笑い芸人“又吉直樹”の純文学小説が収録されたことで、『文學界』創刊以降初めて、出版当日に増刷を決定してニュースにもなった。
    その話題作品、又吉直樹「火花」のレビュー。

    冒頭───
     大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の根が重なり響いていた。熱海湾に面した沿道は白昼の激しい陽射しの名残を夜気で溶かし、浴衣姿の男女や家族連れの草履に踏ませながら賑わっている。沿道の脇にある小さな空間に、裏返しにされた黄色いビニールケースがいくつか並べられ、その上にベニヤ板を数枚重ねただけの簡易な舞台の下で、僕達は花火大会の会場を目指し歩いて行く人達に向けて漫才を披露していた。
    ──────

    漫才とは何か? 漫才師とは何か? という疑問を抱きながら活動を続ける二人の若手漫才師の世界観を吐露した面白みのある小説だった。

    冒頭は情景描写にやや硬い表現が多く、作品世界に入り込むのにやや苦労するが、そこを乗り越え、会話文が多くなってくるとスムーズな文章で読みやすくなり、約一時間半で読了。

    「本当の漫才師というのは、極端な話、野菜を売ってても漫才師やねん」
    と独特の漫才師論を主張する先輩芸人『あほんだら』の神谷さん。
    その考えに共鳴し感化されていく主人公である後輩芸人『スパークス』の徳永。
    徳永が神谷を慕う思いと、神谷の漫才にかける熱い思いが最後まで伝わってくる結構な感動作品。

    実際の漫才のボケとツッコミのような作中の二人の会話が、なかなか粋だ。

    地の文章もしっかりしており、読んでいて違和感は殆どない。
    内容が内容だけに、自分の過去の経験などを題材にして書きやすい作品だったとは思うが、一つの小説としての完成度はまずまずの水準に到達しているのではないだろうか。
    次作があるのかどうか分からないが、もし出るのなら、また読んでみたいと思わせるような作品だった。

  • 創作
    又吉直樹 火花
    命を燃やす天才芸人の輝きと挫折。満を持して放つデビュー中篇230枚一挙掲載!

    伊藤たかみ 母を砕く日
    吉村萬壱 大きな助け
    楊逸 ココナツの樹のある家
    山下澄人 はふり

    新連載評論
    若松英輔 美しい花 小林秀雄
    不世出の批評家が語りながら考え、書きながら生きた軌跡を蘇らす試み

    特集
    小説の企み、言葉の魔力
    筒井康隆×佐々木敦 
    あなたは今、筒井康隆の文章を読んでいる。
    伊藤比呂美×山浦玄嗣
    聖書の言葉と物語る力

    オールカラー企画
    巻頭表現 第二回
    小島なお シナノゴールド

    著者インタビュー〈特別版〉
    沢木耕太郎 高倉健さんに捧ぐ賭博(バカラ)小説

    文學界新人賞応募規定改定のお知らせ

    連載
    円城塔 プロローグ 第九回
    星野博美 みんな彗星を見ていた 最終回
    松浦寿輝 黄昏客思 (こうかんかくし) 第十六回 凜冽可憐
    永井均 哲学探究 ─存在と意味─ 第八回

    エセー
    西村賢太 独りの味
    石岡良治 「視覚」と「文化」の辺縁にて

    コラム
    新人小説月評   小澤英実 藤田直哉
    も詩も詩   穂村弘
    鳥の眼・虫の眼   相馬悠々
    Author’s Eyes
    祖母と私と、   頭山ゆう紀

    文學界図書室
    山田詠美 『賢者の愛』 (村田沙耶香)
    保坂和志 『朝露通信』 (大澤真幸)
    江國香織 『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』 (東直子)
    上田岳弘 『太陽・惑星』 (巽孝之)
    湯本香樹実 『夜の木の下で』 (倉本さおり)

    日本全国文学ガイド   執筆者紹介   次号予告


    又吉フィーバーにうんざり。だったのだが、読んでちょっと気持ちも変わる。
    たしかに筋は凡庸。説教くさい。が、それがどこかしら爽やかな説教臭さ。
    だからこそ、「これが人間だ」といった台詞が素直にじんとくる。

  • 又吉の“火花”読み終わった。村上春樹っぽい文章書くかと思ったけど、会話文が関西弁だし、西加奈子の小説に近いと思った。残酷な心が痛くなる場面で、笑いの要素を加えるあたりが秀逸だった。“面白さ”“笑い”に対する真剣な姿勢、答えなんかないけど、シビアな世界だと思った。ただ、人に笑ってもらいたい一心で悪意なくやったことが、誰かをひどく傷つけてしまう、そんなこともあるよね。「でも僕達は世間を完全に無視することは出来ないんです。世間を無視することは人に優しくないことなんですです。それは、ほとんど面白くないことと同義なんです。」芥川龍之介の地獄変と同じテーマで、芸術の完成には狂気と紙一重という、根本的なテーマを描いてると思った。最終の神谷さんがシリコン入れて笑いを取ってテレビに出演しようと考えるとも、もう天才とか超えて気が狂ってて、一般人には狂気すぎて笑えないでしょ。笑いという一つの芸術が理解されずに終わると意味ないもんね。
    芥川賞として、テーマ性がいい作品だと思いました。

  • 又吉の火花を読む目的で購入。
    普段は芸人なのによくあそこまでの純文学を書けるなと尊敬。
    本は好きでもそこからまた書くと言う行為は別物だと自分は思うから本当に素直に尊敬した。

  • 【火花】
    神谷が驚異的というか…あそこまでいくと狂気になる。間違った道ではなかったのにどこかで踏み外してしまう。それでも笑いを追求していく姿はあまりにも切実で。狂気と人間愛が混ざっている部分でいえば芥川賞に向いてる作品かなと思う。個人的にはシリコン入れた神谷に語る徳永の世間がよかった。

    【母を砕く日】
    家族で正月を迎えるにあたって亡き母の骨を散骨するために砕きたいという父親。家族構成も少し複雑で揉めるけど結局は骨を砕くことになるんだけど、その作業を他人に任せず自分でやりたいという気持ちはわからなくもない。気持ち悪いと思う人もいるかもしれないけど個人的に私なら大丈夫だろうなと

    【大きな助け】
    何だこれ。意味がわからない。世の中全てに憎悪を感じてる男の話?

    【ココナツの樹のある家】
    勝手な嫁だなぁ。それにしても妄想が凄い。

    【はふり】
    よくわからなかった…

    全体を通して火花と母を砕く日以外はよくわからない話ばかり。文学の奥深さを痛感した。

  • 又吉直樹さんのデビュー中篇「火花」を読む。 掲載されている文学界が史上初めて重版がかかったほどの人気ぶり。 又吉さんの作品を初めて読んだが、ちょっと期待していた感じと違っていた。もう少しヒューマンドラマちっくな純文学を書くのかと勝手に思っていたからだ。 二作目に期待したい。

  • 又吉さんの文章力にビックリ。難しい言葉も使いこなしててすごい。ストーリーは私好みではなかったけど、小説としてすごいんじゃないでしょうか。

  • 対談『小説の企み、ことばの魔力』筒井康隆×佐々木敦は、佐々木が提唱する「パラフィクション」について。辻原登の『遊動亭円木』をメタからパラへの移行作品だと筒井はいう。新しい概念で理解するのが難しかったが、解説図を見ながら、なんとか。気になるので佐々木敦の新刊も読む予定。対して伊藤比呂美×山浦玄嗣は「聖書の言葉と物語る力」この山浦氏、ケセン語訳聖書の人でぶっ飛んでいる。笑った!「ピスティス」は「信仰」ではなく「信頼」いう言葉に訳すのがしっくりくる、「アガペー」は「愛」ではなく「大切」が相応しい「神さまはモノではなくコト。だから見ようったって見られない。だから誰も見たことがない」他にもユダは裏切り者ではないという根拠等、新鮮なキリスト教観がおもしろかった。 ⚪︎吉村萬壱『大きな助け』なにが悲しくて、こんな恐ろしいもの読まなきゃいけないんだ〜とべそかきながら読んだ。消耗した〜。 ⚪︎山田詠美の新刊は書店でパラ読みして購入を控えたのだが、村田沙耶香のセンスで深読みした書評を読むと、ものすごく魅力的な小説に思えてくる。

  • 短篇載せたときはここまで騒動にならなかったのになぁと思いながら増刷版でやっとこ入手。

    【火花】
    ―――「自分らしく生きる」という、居酒屋の便所に貼ってあるような単純な言葉の、血の通った激情の実践編―――

    神谷先輩、しょうもないのに嫌いになれない。
    芸人に焦点をあてたものって、それがいいとか悪いとかでなく、どこか綺麗事、青春、みたいなちょっと恥ずかしい具合に仕上がりがちだけど、又吉の書くそれもそういうシーンが無いわけではなかったけど、自然だった。素直だった。だからほんとうに存在する彼ら、として読むことができたし、心がゆらいだし、おもしろかった。
    特別うまいとか特別おもしろいとかではないが、彼だから書けるものだなという感想。こういう場所に載っているタレント的違和感もなかった。ひとつの文学として愉しかったし、読みやすかった。自分に一番近い題材をここまで小説として落とし込めるのはすごい。
    素直な人なのだろうなあとおもう。

  • 『火花』又吉直樹
    ピースの又吉さんのデビュー中編。面白かったです!
    売れない漫才師の主人公が師匠と仰ぐ天才(?)芸人の考える「面白いということ」が、ちょっと普通じゃなくて、でも、ほぅ~と納得したり。
    言葉や表現が豊かだなぁと思ったし、実際笑ったり涙ぐんだりさせてもらい、満足です。あのテンポの良い掛け合いを文章で表現できるなんて、又吉さんすごいなぁ。

    『母を砕く日』伊藤たかみ
    お墓はいらない、骨を海に撒いてと言い残された家族のお話。夫、息子、娘。それぞれの愛し方、考え方、言い分があるけれど、最後は血のつながりは無くとも一番彼女のことがわかるであろう夫の希望通り、自分達の手で骨を挽くことに……。

    あと、「文學界」の紙がすごく良かったと感じました(*^^*)

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