人体六〇〇万年史 上──科学が明かす進化・健康・疾病 (早川書房) [Kindle]

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  • サヘラントロプス・チャデンシスからアウストラロピテクスそしてホモ族を通って人間の狩猟採集時代までの身体の進化をみていく。
    人間は、健康になるために進化したのではなく自然選択圧、つまり環境に適した身体となり生存と繁栄を優先した結果の今の身体である。

    下巻からは、600万年もの間、狩猟採集と飢餓に適した私たちホモ族が、農業革命でもたらされる食の変化と産業革命でもたらされた身体活動の変化による、現代病ミスマッチ病を見ていくこととなりそうだ。

  • 非常に面白く勉強になる。本書のように長期的にものを見ることも必要だと思う。
    〇いまは文化のおかげで人間はあまり大きく進化していません。
    〇予防可能な疾患として、ある種のがん、2型糖尿病、 骨粗鬆症、心臓病、脳卒中、腎臓病、一部のアレルギー、認知症、うつ病、不安障害、不眠症などがある。
    〇結果として、私たちは何不自由のない快適な条件のもとで何を食べ、どれだけ運動するかについて、合理的な選択ができるようには進化していない。
    〇丁寧かつ賢明に、軽い後押しや強い勧め、あるいは強制的な義務化も駆使したりして、人々にもっと健康を増進する食物を食べること、もっと活発に身体を動かすことをやらせなくてはならない。
    〇世界には70億人以上の人間が生きていて、その大半は、自分と同じように自分の子供や孫も70歳以上まで生きられるものと期待できている。
    〇高齢者によく見られるようになってきた病気と、通常の加齢が原因で起こる病気とを混同することは間違いである。
    〇45歳から79歳までの、よく運動し、野菜と果物をたくさん食べ、タバコを吸わず、アルコール摂取もほどほどな男女は、ある任意の1年間に死亡する危険性が、不健康な生活習慣を持っている男女に比べて平均4分の1なのである。
    〇人間の身体は何に対して適応しているのか?
    〇自然選択は驚くほど単純なプロセスで、本質的には、三つのありふれた現象の結果である。その一つめは、 変異だ。これはすべての生物が、同じ種のほかのメンバーとどこかが違っているということである。耳垢のことを役にも立たない煩わしいものと思っているかもしれないが、こうした分泌物は、じつは耳が病原菌に感染しないように守ってくれている。第1の問題は、どの特徴が適応で、なぜそうなのかを見きわめることである。自然選択は実質的に、完璧には到達できない。なぜなら環境がつねに変化しているからである。
    〇適応とは、自然選択を通じて形成される、相対的繁殖成功度(適応度)を高める特徴のことだ。結果として、健康や長命や幸福を促進するように適応が進化することもあるかもしれないが、それはその資質が、 個体がより多くの子を生き延びさせられるようにすることに資する場合に限ってなのである。
    〇最も貴重な教えの一つは、私たちが決して必然的な種ではないということである。
    〇私たちが何に適応していて、何に適応していないのかを正しく知ることで、私たちが病気になる理由も正しく知れることになるからだ。そして、病気になる理由を正しく知ることは、病気の予防や治療に不可欠なことであるからだ。
    〇人間の身体の物語は五つの主要な変化にまとめられる。
    第一の変化:最初の人間の祖先が類人猿から分岐して、直立した二足動物に進化した。    第二の変化:この最初の祖先の子孫であるアウストラロピテクスが、主食の果実以外のさまざまな食物を採集して食べるための適応を進化させた。
    第三の変化:約200万年前、最古のヒト属のメンバーが、現生人類に近い(完全にではないが)身体と、それまでよりわずかに大きい脳を進化させ、その利点により最初の狩猟採集民となった。
    第四の変化:旧人類の狩猟採集民が繁栄し、旧世界のほとんどの地域に拡散するにつれ、さらに大きな脳と、従来より大きくて成長に時間のかかる身体を進化させた。
    第五の変化:現生人類が、言語、文化、協力という特殊な能力を進化させ、その利点によって急速に地球全体に拡散し、地球上で唯一生き残ったヒトの種となった。文化は本質的に学習されるものであり、そうやって文化は進化する。ただし、文化的進化と生物学的進化の決定的な違いは、文化は偶然によって変わるだけでなく、意図によっても変わるものであり、したがって親に限らず、誰でもその変化の源になりうるということだ。
    第六の変化:農業革命。狩猟と採集に代わって農業が人々の食料調達手段となった。    第七の変化:産業革命。人間の手仕事に代わって機械が使われるようになった。
    〇標準的なチンパンジーでも、最も屈強な人間のアスリートの二倍以上の筋力を発揮できる
    〇「ミッシング・リンク」という言葉はしばしば誤用されるが、一般には、生命史において鍵となる過渡的な種のことを指す。
    〇人間はエネルギーの大半を、上半身の安定のためでなく前進のために使えるのだ。
    〇チンパンジーが一日にわずか二キロから三キロほどと、比較的短い距離しか移動できないのも不思議ではない。
    〇人類の系統をほかの類人猿と別の道に進ませる最初のきっかけとなったのは、大きな脳でも言語でも道具使用でもなく、二足歩行であった
    〇最初の二足歩行者は、両手を解放するために二足で立ち上がったのではない。むしろ、より効率的に食物を集めるため、歩くときの燃費を減らすために(LCAがナックル歩行者であったのなら)直立するようになったのだろう。
    〇人間の男性が二個しか持っていないところ、女性は三個の楔形の腰椎を持つ。
    〇二足動物は四足動物よりも太陽放射による体温上昇が抑えられる
    〇植物は栄養豊富な部位がさまざまな方法で守られていて、たとえば地面の下に隠れていたり(塊茎のように)、堅い外殻に覆われていたり(木の実のように)、あるいは毒素によって守られていたり(さまざまなベリーや根茎のように)するため、なんとかそれらをくぐりぬけて栄養のある部位を抜き出さなくてはならない。
    〇チンパンジーが一キロほどのサルの生肉を食べるには、11時間もかかるのである(
    〇吸い込まれた空気が水分で飽和されていないと、その空気の送られる肺がからからに乾燥してしまうからだ。
    〇人間は長い距離をらくらくと走れる数少ない哺乳類の一つなのであり、暑いなかでもマラソンを走れる唯一の哺乳類なのである。
    〇氷河期には地球のほぼ全体が巨大な氷河に覆われていたと思う人は多い。だが、実際には氷河が拡大する氷期と、急速に温暖化して氷河が縮小する間氷期との繰り返しだった。
    〇ネアンデルタール人について最も重要な事実は、彼らが20万年前から3万年前ぐらいのあいだにヨーロッパと西アジアに住んでいた旧ホモ属の一種だということだ。腕のいい賢い狩猟者で、自然選択による適応に加え、彼ら自身の才覚もあいまって、半ば極地のような氷河期の寒冷な環境のもとでも生き延びることができた。
    〇大きな脳はとんでもなく大量のエネルギーを消費するから、たいていの種はとてもそんなコストを払いきれないのだ。
    〇私たちもたいてい余剰エネルギーを脂肪として蓄えて、つねにいざというときの備えをしている。とはいえ、ほかの大半の哺乳類と比べると、人間は異様なほどに脂肪が多い。
    〇どの動物にも脂肪は必要だが、とくに人間は生まれた直後から大量の脂肪を必要とする。それは主として、エネルギーをつねに欲する脳のためだ。
    〇映画監督のモーガン・スパーロックはドキュメンタリー作品『スーパーサイズ・ミー』で自らを実験台にして、マクドナルドのメニューだけを食べつづけたところ(一日平均5000キロカロリー!)、わずか28日で約11キロも体重が増えた。
    〇氷河期が終わるころまでに、私たちの近縁種はすべて絶滅し、人類の系統のなかで現生人類だけが唯一生き残った種となった。
    〇今日の人間全員の祖先は、サハラ以南のアフリカ出身の14,000人足らずの繁殖個体の集団で、非アフリカ人のすべてを生んだ最初の集団は、おそらく3,000人以下だったとされている。
    〇私たちと旧人類とを区別する最も明白な違いは、その生物学的な関連性を解釈しにくい対照的な解剖学的構造にある。端的に言えば、頭部のつくりにおける二つの大きな変化である。
    第一の違いは、私たちの顔が小さいことだ。
    〇ネアンデルタール人と現生人類は、総称して「中期旧石器時代の」と形容される、同じ道具製作の伝統を受け継いだ。そしてどちらの種も、つねに人口密度の少ない集団で暮らし、槍を使って大型動物を狩り、火をおこし、食物を調理した。後期旧石器時代には、洞穴や岩窟にみごとな壁画が描かれ、装飾用の小さな彫像や、華やかな装飾品や、細工の美しい埋葬品を納めた手の込んだ墓所が作られている。
    〇現生人類に旧型のいとこと大きく違うところがあるとすれば、それは文化を通じて革新をはかろうとする驚くべき傾向と能力なのだ。
    〇現生人類と旧人類とのあいだに認知面での違いがあるとすると、それらの部位の大きさの違いが関連している可能性もある。
    〇現生人類と旧人類の新皮質の最も明白で最も重要な違いは、 側頭葉が二〇パーセントほど大きくなっていることである。
    〇現生人類のほうが相対的に大きいと思われるもう一つの脳の部位は、頭頂葉である。
    〇この数千年間の最もすばらしい文化的進歩のいくつかは、より効率的になった情報伝達手段のおかげで成し遂げられた。
    〇ネアンデルタール人などの旧人類も、間違いなく言語は持っていた。しかし現生人類は、その独特の短い引っ込んだ顔のおかげで、明瞭で聞きとりやすい言語音を非常に速いペースで発することに長けていた。
    〇人間の声道は特殊だと言える。第一に、私たちの脳は、舌と舌の形状を変化させる構造の動きを迅速かつ正確に制御することに非常に長けている。第二に、現生人類の顔は短くて引っ込んでいるという特徴があるため、私たちの声道の各部分は、音響上の有益な特徴を備えた独特の配置をしている。
    〇人間は、大きすぎるものを飲み込んだり、うっかり飲み込み方を間違えたりしたときに、窒息を起こす危険のある唯一の種なのだ。
    〇ホモ・サピエンスは本質的に、そして圧倒的に、文化的な種なのだ。実際、文化はヒトという種の最も顕著な特徴だといっていい。
    〇文化的進化は自然選択よりもはるかに強力で急速なものとなる。それは文化的な形質、いわゆる「ミーム」が、遺伝子とはいくつかの重要な面で違っている。
    〇文化的進化は生物学的進化よりも急速で、しかもたいてい強力な変化動因となる。
    〇現生人類を特別なものにしているすべての資質のなかでも、私たちの文化的な能力こそが最も変革力のある、最も大きな成功要因だったのだと結論してさしつかえないだろう。
    〇カラハリ砂漠のサン族が、採集、狩猟、道具製作、家事といった活動に費やす時間は、一日当たり平均六時間だ。
    〇天然痘、ポリオ、ペストといった主要な感染性流行病のほぼすべては、農業革命が始まったあとに起こっている。
    〇近代的な生活様式も、心臓病や一部のがん、 骨粗鬆症、2型糖尿病、アルツハイマー病といった、非伝染性でありながら広く蔓延する新たな病気を誘発したうえに、それらほど深刻ではないけれども不快には違いない、虫歯や慢性的な便秘のような多くの不健康な状態を助長してきた。さらに不安障害や抑うつ障害など、精神的な病のかなりの割合も、やはり現代環境が大きな要因になっていると
    〇自然選択は働くのをやめてはいないものの、ここ数千年のあいだに人間の生物学的仕組みには限られた局所的な影響しか及ぼしていないということである。
    〇異なる集団も、遺伝学的、解剖学的、生理学的に、大部分においては同じなのである。
    〇ここ数百世代のあいだに人間の身体は文化的変化の影響を受け、さまざまな面で変化してきた。成熟が早くなり、歯は小さくなり、顎は短くなり、骨は細くなり、足はしばしば扁平になり、多くの人が虫歯になりやすくなった。
    〇分裂する頻度の高い細胞(たとえば血液細胞や皮膚細胞)や、突然変異を引き起こす化学物質にさらされやすい細胞(たとえば肺細胞や胃細胞)は、とめどない細胞分裂を引き起こして腫瘍を形成するような突然変異を偶然に獲得する見込みが高い。
    〇がん細胞とは、自らをほかの細胞よりも有効に生存させ、繁殖させられる突然変異を持った異常細胞にほかならないのだ。放射線療法や化学療法は、致死性でない腫瘍が突然変異を起こして自らの細胞をがん細胞に変容させる確率を高めるだけでなく、細胞の環境も変化させ、新しい突然変異が選択される利点を高めてしまうこともありうるのだ。この理由から、あまり悪性でない種類のがん患者には、あまり攻撃的でない療法のほうが有効な場合があると考えられる。
    〇「ミスマッチ病」で、定義するなら、旧石器時代以来の私たちの身体が現代の特定の行動や条件に十分に適応していないことから生じる病気、ということになる。
    〇ほとんどのミスマッチ病は、なじみのある刺激が身体の適応レベルを超えて強まったり弱まったりしたとき、あるいは身体がまったく適応していない、完全に新しい刺激にさらされたときに生じる。それらの病は私たちの身体の大昔からの生物学的仕組みと同調しない、近代的な生活様式によって発生もしくは悪化させられているからである。
    〇私たちの身体が環境の変化に十分に適応していないため、刺激が強すぎること、弱すぎること、あるいは新しすぎることにより、進化的ミスマッチの病気や怪我に襲われることにある。
    〇若年層や中年層における高血圧の主要原因は、肥満を招くような食生活と、塩分の摂りすぎ、運動不足、そして酒の飲みすぎだ。
    〇それらの病はいくつかの予測可能な共通の特徴を持っている。最も明らかな第一の特徴は、ほとんどが原因に対処しにくい慢性的な非感染性の病であることだ。慢性的な非感染性の病気はあいかわらず予防や治療が困難だ。なぜならこれらは全般に、多くの相互作用する原因を持っていて、そこには複雑なトレードオフが絡んでいるからだ。
    第二の特徴は、このプロセスが、繁殖適応度にさほど影響を及ぼさないミスマッチ病のほとんどに当てはまると予測されることである。ミスマッチ病の最後の特徴は、その原因が別の文化的利点を持っていることだ。私を心地よくさせてはくれるものの、すべてが私の身体にとって健康的であるとはかぎらない。ディスエボリューション仮説の予測するところでは、これらの製品がなんらかの問題の兆候を引き起こしたとしても、私たちがそれを受け入れたり、その兆候に──たいていは別の製品の力を借りて──対処したりするかぎり、そして便益が費用を上回っているかぎり、私たちはそれらを買いつづけ、使いつづけて、自分の子供にも伝えていくだろう。
    〇多くの動物はビタミンCを体内で合成するが、果実食のサルと類人猿はこの能力を何百万年も前に失った。したがって一部の動物の器官には適度な量のビタミンCが見られる。

  • 人体六〇〇万年史 上──科学が明かす進化・健康・疾病 (早川書房)

  • 下巻参照。

  • 進化生物学者が人体の進化の歴史を解き明かす。人間はいかに適応してきたのか?「適応」とはなにか?何に適応してきたかを明確に述べるのは難しいようだ。人類に歴史と進化の話題は興味深いものだ。現在も進化しているし、自然選択は起こっているのだが、文化的な進化の影響で、以前のようには明確に判明しない。

  • テーマは進化医学。『GO WILD』『人類進化の謎を解く』『私たちは今でも進化しているのか』と合わせて読むと理解が深まる。

  • 『GO WILD』を読んだ人は☆5
    この本の著者は持久狩猟の提唱者である。『GO WILD』や『BORN TO RUN』で有名となったあの狩猟がどんなものであったかが分かる。そして、この狩猟にしろミスマッチ病(人体の進化の結果と環境がミスマッチしたことにで患う病気)にしろ、実態はそう単純なものではないと言える。

    上巻では人類の進化がメインとなり、それぞれの形質がどのような情況で何のために獲得したのか、という説明が続く。ホモ・サピエンス以前のことを知るのにはいい本だと思う。

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