魂の退社―会社を辞めるということ。 [Kindle]

著者 :
  • 東洋経済新報社
3.79
  • (18)
  • (30)
  • (22)
  • (6)
  • (0)
本棚登録 : 228
感想 : 34
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (213ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 『魂の退社』稲垣えみ子

    著者は、一橋大学を卒業し朝日新聞に入社、そして50歳で退職をしています。著書は、退職を決意するまでの生活、考え方の変遷を記述しています。

    著者が退職を考え始めるきっかけは40代手前の中間管理職になったときです。同期間での処遇の差異が発生しはじめた時期と重なります。具体的には、同期が順調に出世するなかで「選別が始まっている」ことを自覚しはじめることになるのです。
    そんななかで、地方局での転勤を命じられます。そこで、転機となる体験を重ねることとなります。

    【著者が行ったこと】
    1;本当に必要なもので生活をすること
    東日本大震災を機会に、最低限の電力での生活を始めます。
    従前月2,000円の電気代の半分カットを目標とします。
    具体的には、テレビ、冷蔵庫などの電化製品の一掃です。その結果、著者は気づきます。電化製品が無い分、その日に必要な食材だけ購買するという基本形ができあがると。

    2;感謝、ありがとうを伝える仕事をすること
    朝日新聞本社の移転ともに、長年お世話になった食堂の閉鎖が決まります。
    そこで著者は、一人で食堂のスタッフ向けにアルバムづくりを始めます。ありがとうの気持ちとして。その動きに、多くの社員が賛同し、アルバムが完成することとなります。

    3;無いことに気づく生活。
    地方勤務で道の駅を知ります。道の駅で旬の食材と出会います。季節がすぎれば、見なくなる野菜があることに気づくのです。有る幸せではなく、無いことの幸せに。

    【こんなひとにおすすめ】
    著者の下記の言葉に関心をもった方
    「会社で働くこと」について考えるささやかなきっかけとなれば幸いです。19ページ。

    【読み終えて】
    働くということ、職場に対して感じたことを、著者が素直に記述していることが読み取れます。書き言葉ではなく、話し言葉に近い文体であるから余計にそのように感じるかもしれません。

    会社が与えてくれた機会、職務をどのように解釈して、自身の人生に取り込んでいくのか?
    正解がなく、100人いれば100通りの考え方があるのだろうと考えます。

    したがって、著者の考え方も、そのひとつの一例・サンプルとしてとらえるという具合でもよいのかもしれません。

    個人的には、仕事とはひとに喜ばれることという下りが胸に残り続けています。

    【著書より抜粋】数字はページ
    会社で働くということは、極論をすれば人生を支配されていることでもあるのではないか。
    15

    働くとは人に喜んでもらうということでもある。人とつながるために働くということがあってもいいのではないだろうか。17

    自分には力がないのだと認め、もっともっと努力するということしかないのです。
    でも、頑張って頑張って、でもその結果再び「外される」ことが延々と続いた場合、私の精神はどこまで耐えられるのか。32

    むしろ「ない」ことの方がずうっと贅沢だったのだ。53

    それまでずっと、何かを得ることが幸せだと思ってきた。しかし、何かをすてることこそが本当の幸せへの道なのかもしれない・・・。59

    組織の論理がいつも間違っているわけでも、個人の論理がいつも正しいわけでもありません。しかし、この双方の力関係が拮抗しているのが「よい」会社なのではないでそうか。95

    人事の評価はさておき、自分としては出せるものはすべて出し尽くしたという思いでした。かくして「私、会社を辞めます」と宣言したのです。113

    もう会社に貢献することができなくなったから辞めるしかなかったわけで、もったいないも何も、そんな人間に給料をもらう覚悟などそもそもあるはずもない。122

    誰かが何かを与えてくれるのを待つのではなく。自分の足で何かを取りにいく方法を自分の頭で感が無ければならない。173

    会社に依存しない自分を作ることができれば、きっと本来の仕事の喜びが蘇ってくるということだ。仕事とは本来、人を満足させ喜ばせることのできる素晴らしい行為である。人がどうすれば喜ぶかを考えるのは、何よりも創造的で心躍る行為だ。179

  • アフロヘアの名物女性記者が、50歳を機に思い切って新聞社を退社した。その顛末記。生き生きとしたリズミカルな文章で、なかなか読みやすかった。

    著者、ふと思いついてアフロヘアにしたところ「40代も半ばを過ぎて、まさかのモテ期が訪れた」のだとか。ガードが取れて声かけやすくなったのかな?

    著者の退職理由は、お金や出世争いに自分の人生を左右されたくない、「お金」稼ぎよりも自由にできる「時間」や心のゆとりが欲しい、というもの。新たな生き方に目覚めたきっかけは、大阪から高松への(左遷的?)転勤。田舎生活で農産物の直売所にはまり、山歩きを始め、と徐々にスローライフに目覚めていき、お遍路さんたちの「澄みきった笑顔」に触れて突然号泣。「それは自分の中にあるちっぽけで固くてゴリゴリになった石のようなものに、ビーム光線のように突き刺さってきた。それは私の中の石を、なぜだかわからないが一瞬にして溶かしたのである」。このシーンには感動したな。著者は女性記者としてずっと頑張ってきた、気持ちのうえで無理をしてきた、きっとそういうことなんだろうなあ。

    「私はそれまでずっと、何かを得ることが幸せだと思ってきた。しかし、何かを捨てることこそが本当の幸せへの道なのかもしれない……」、なかなか深い言葉だなあ。

    会社に依存しない生き方、かあ。それにしてもフリーのライターの原稿料、ほんと安いんだな。「この「書くことの安さ」は本当に由々しきことです」!

    本書には会社を辞めて1週間目までの顛末が書いてある。"賄いおばさん"やりたいとか、"大工修行"したいとか、夢が色々な書いてあるけど、その後どうなったのかな? 続編も読まなきゃ。

  • 髪をアフロにしたことから始まって
    アフロの良さを語ってますので
    つい 自分もアフロにしちゃおうかしら
    なんて思います
    お金を使わない生活への転機が
    大阪支社から 香川支社への転勤が原因
    というのが分かる~ 讃岐うどんは清貧生活にぴったり

  • 「もうレシピ本はいらない」を読んで、俄然興味が湧いたので、稲垣えみ子さんの本を2冊、立て続けに読みました。

    まず1冊目の「魂の退社」。

    レシピ本、で、大体の経緯はわかっている話ではあるのだけど、この本では、日本で暮らすということはすなわち、

     「会社社会」

    なのだ、ということを、実際の経験から痛感した、というドキュメンタリーになっていました。


    いい学校を出て、いい会社に入って、そこそこ出世して、そこそこの給料をもらって、「お金」で幸せを買って生活するーそれが基本の生き方になっている、と。

    うーん、確かに。

    会社勤めをしていない人ももちろんるけれど、会社勤めをしている人のサポートをしていたり(主婦とかね)、自分で自分を雇っていたり(自営業とかね)、結局のところ「会社社会」の周辺に位置するわけで…。

    「会社を辞める」という選択をした著者さんが、カードを作れなかったり、家を借りられなかったり、と、さまざまは「会社に入ってない人は、危険人物」的な扱いを受けることになる、というのは、確かに、「あぁ、あるだろうねー」とは思っていたけど、「問題だ!」とは思っていなかったよね、私も。

    そんな、いろいろなことを考えさせる素晴らしい内容で、それが、読みやすくて、すんなり心に入ってくる。

    やばい本ですね。
    いろいろ感化されそう。
    いや、私は「会社社会」から抜け出せないけど。
    ってか、会社に所属してないけどw



    途中に、古代インド人が人生を4段階に分けて考えていた、という話が紹介されていたのだけれど、なるほどなーと思いました(※宗教学者の山折哲雄先生の取材で伺ったとのこと)。
    その4つというのは、「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」とのこと。「学生期」は独り立ちの準備をする期間、「家住期」は仕事をして家庭を養う時期、そして「林住期」以降が面白い。
    「林住期」が家を出て(出家)世俗を離れて林に住む時期、最後の「遊行期」は宗教の世界にどっぷりの時期。

    日本で暮らしていたら、定年退職した時に「林住期」なのだ、という感覚にはなれないから、「会社社会からはみ出してしまった(脱落した)」と考えてしまいがち。

    そんな考えから解き放たれましょうよー、という話なんですよね。きっと。

    仕事を辞めることを前向きに捉えるために、準備体操として読むといいのかもしれません。ありがたい。そして、面白い。最高です。

  • 読みやすくて一気読み。
    小さい頃よく行った香川県に行きたくなりました。

  • 良本でした!!
    稲垣えみ子さんという方は本当に素敵な方だと思いました。
    社会のモヤモヤにも共感しました。
    読んでいると、会社に所属しないと生きていけないとも思いましたが、可能な限りそうでもないということ。
    働くなとは言わないが、会社に依存することだけは気をつけること。
    会社で働くなら、「誰かを幸せにしたい」そんな気持ちがないとダメだと思いました。
    会社の金儲け目的で働くことは詐欺であること。
    改めて、「幸せ」とは何かを考えさせられました。

    あと、私たちはモノに支配されているのではないか?とも思いました。モノがなくて不便で買ったモノが贅沢でなくなり、当たり前になってくる。
    当たり前になってくると、幸せとも不幸とも、どちらも感じなくなっている。

    モノがないことの方が実は幸せなのかもしれない。

    お金をかけないで楽しむ方法、探したらきっとたくさん見つかりそう。
    この本に出会えたことに感謝。

  • オーディオブック

    とにかく
    思い切りがよい!
    生きる力にあふれているなぁ

  • ・アフロヘアーの元朝日新聞記者(キャラ濃すぎ!)香川県への転勤を機に、野菜の直売所や山歩きなどお金のかからない楽しみがあることに気付く。給料にとらわれなくなり、最終的には目安としていた50歳を迎え退職。
    ・本文では一度もこの言葉は使われてない(と思う)がいわゆる「ミニマリスト」に目覚めていく過程、と思えた。
    ・個人的に刺さったのは『何かをなくすと、そこには何もなくなるんじゃなくて、別の世界が立ち現れる』というくだり。捨てたら無になるのではなく、これまで注目していなかったものが見えるようになる。
    ・退職後1ヶ月で書かれた本らしいので、その後の無職生活がどうなのか気になるところ。

  • けっこうな業績や結果を残しつつも
    自分をアホだと書くタイプの才人って
    ちょっと苦手です。
    素直に受け取れないかな、彼女の場合。
    まだ退社して半年ほどの出版なので
    そこから先のほうが興味ある。

  • 今後、自分の人生を考える何らかの指南になるのではと思い手に取りました。
    なかなかここまでのパラダイムシフトは難しい
    と思いましたが、楽しむため、依存しないための退社であること、この世が会社に依存した社会であることはとても納得がいきました。

全34件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一九六五年、愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒。朝日新聞社で大阪本社社会部、週刊朝日編集部などを経て論説委員、編集委員を務め、二〇一六年に五〇歳で退社。以来、都内で夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしのフリーランス生活を送る。『魂の退社』『もうレシピ本はいらない』(第五回料理レシピ本大賞料理部門エッセイ賞受賞)、『一人飲みで生きていく』『老後とピアノ』など著書多数。


「2023年 『家事か地獄か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

稲垣えみ子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×