日米開戦と情報戦 (講談社現代新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 著者の森山優(あつし)は日本近現代史を得意とする歴史学者であり、静岡県立大学教授である。
    物事をありのままに見ることは難しい。人間は「認識の枠組み」を持ってしまう。その枠組みから自由になるには、因果関係を見極めていく歴史学的思考や他国と比較する方法論が有効である、と著者は説く。

  • 【最大の悲劇は、日米の強硬(と相手がみなす)態度が、最悪のタイミングで噛み合ってしまったことであろう】(文中より引用)

    日米開戦に至るまでの情報の流れとその受け取られ方を丹念に追うことで、意思決定プロセスの謎を丁寧に解明しようと試みた作品。著者は、日本近現代史を専門とする森山優。

    ふらふらと両国が戦争への道に足を踏み入れていく様子がよくわかる一冊。必ずしも合理的な政策判断ができていたわけでもなければ、相手国の意図や能力に関し正確な評価が下せていたわけでもなかったことが克明に記されていました。

    少し読みづらさもありましたが☆5つ

  • 本書は、北部仏印から南部仏印、そして真珠湾攻撃に至る裏側での日・米・英それぞれの意思決定過程をなぞりながら、重要とされてきた暗号解読情報がどのような役割を果たしたか、あるいは果たさなかったのかを検討している。

    新書ではあるが完全な初心者向けの本ではない。仮に「情報戦」というタイトルに惹かれて本書を手に取ったとしたら、その議論の前提となる日米英の詳細な動向に関する記述についていけなくなってしまうかも。「日米開戦と情報戦」なので、大まかな歴史の流れに加え、特に日本の主たるプレーヤーを理解して初めて味が出てくる本なのではないか。

    日米戦争に向けては、大多数が、日本に至っては殆ど誰もが戦争を避けたいと希望していたことに悲劇が見える。
    「戦争への道は、想定外の連鎖でもあった。」(No.3618)と筆者が記しているが、外交ルートを使い、暗号を解読し、当時の最新の手段を尽くしても "fog of (pre-)war" は払拭できなかった。今も相手の意図を理解し、自分の側の動きに対する相手方の反応を想定することがどれほど正確にできるか。このような研究を頼りに、当時の道筋を振り返ることで、今後の国際政治における国家間の悲劇的な誤謬が少しでも回避されることを期待したい。

  •  第2次大戦が始まるまでに日本、米国、それに英国なども含めて繰り広げられた外交的駆け引きの裏側を、戦後公開された各国の資料から再構築している。

     情報戦といえばなんとなく日本があまり得意ではない分野で、英米の情報機関には日本の暗号通信など筒抜けになっていたようなイメージがある。しかし本書や他の関連書籍を読むと、この両方とも正しくないことがわかってくる。つまり日本の情報機関もそれなりに相手国の暗号を解読していたし、英米もさほど完璧な活動をしていたわけではないということだ。

     しかし本書が強く示唆しているのは、暗号解読といった技術的な面よりも、得た情報をどのように解釈するかという部分の方がずっと重要であり、かつ、日米ともにその点では大きく失敗していたということだ。この点はとても勉強になった。

     特に、政策決定者が一次情報に触れることの危険性。一次情報とは現場担当者による報告書や日誌、本国から外交官への通信文などいわゆる「ナマの情報」で、さらに暗号解読によって得られた情報は「暗号化されているということはそれが重要で、事実であることの証明」と思いがちだが、そうでもないという。

     文書はなんらかの意図を持って書かれるものなので、事実を都合よく歪曲していたり、相手を説得するための誇張も含まれている。個人の日記でさえ、勘違いや願望が含まれてしまう。一次情報を読む時は複数の情報を突き合わせるなどしてそういう問題を回避する必要があるのだが、情報の専門家ではない政治家が一次情報に触れるとすんなり信じてしまいがちのようだ。

     政治家は常に自分なりの意見や推測を持っており、それに一致する情報は重視し、そうでないものは無視する。日本だけでなく米国もまた、そういうミスを犯す政策決定者が少なくなかったようだ。

     開戦に至るまでの日本政府の行動は実に残念なものだ。せっかく情報が得られても希望的観測に合うものにしか耳をかさない。上層部は誰も責任をもって決断せず、両論併記の曖昧な指示しか出さずに現場任せ。ただし本書では米国も実は似たようなものだったことがわかり、国によらず人間の本質なのかもしれない。

     しかし、こういう傾向は今の日本でもよくあるように思える。数百万の国民の死という巨大な犠牲を払っても、何も学べなかったのかと思うと、絶望的だ。

  • 結論が、日英米全てにとって悲しい。

  • 安全保障を考えるため、日本の最後の戦争になるだろう太平洋戦争への道筋を知るために本書を手に取りました。 陸海軍の優秀な将校が開戦直前だけ、楽観的なバカになるのがどうにもよくわからない。空気ってもんでしょうか。

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著者プロフィール

一九六二年福岡県生まれ。西南学院大学文学部卒業、九州大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。現在、静岡県立大学国際関係学部准教授。専門は日本近現代史・日本外交史・インテリジェンス研究。著書に『日米開戦の政治過程』(吉川弘文館)、『日本はなぜ開戦に踏み切ったか――「両論併記」と「非決定」』(新潮選書)、『昭和史講義』(共著、ちくま新書)などがある。

「2016年 『日米開戦と情報戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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