人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか (ブルーバックス) [Kindle]

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  • 講談社
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  •  名著。昨今、気候についての著作物は「地球温暖化に対する立場」を反映したものばかりである。温暖化説に反対しているわけではないが、もっと学術的なものだけにフォーカスした解説を求めていたところ、本書にたどり着いた。
     研究内容を温暖化に対してニュートラルに解説しながら、気候変動の周期性とその影響について示唆に富んだ自説を披露してくれる。

  • 二酸化炭素排出量の増大による地球温暖化が、世界全体の重要課題として位置付けられるようになって、けっこうな年数が経過しました。
    近年では、取り組む姿勢や具体的な対応状況が、企業さらには国の評価に及んでいると認識しています。
     
    十年、百年単位で見ると気温が大幅に上昇している、ということについては、メディア等で取り上げられているデータを見て理解しています。
    ただし、「さらに長いスパンで見るとどうなんだろう?」という疑問が、以前からありました。
    その問いに答えてくれそうな本が、Audibleにラインアップされていたので、聴いてみることにしました。

    本書は全7章で構成されています。

    第1~2章では、複数の時間軸で、気温がどう変化してきたかが解説されています。
    億年単位、百万年単位で見ると、現代は気温が低いというのは、意外に感じました。
    そして10万年単位で見ると、気温の上下にはリズムがあり、それは地球の公転と関係があること、さらに1万年単位では、現代は氷期が終了した後の温暖期にあたり、これまでの記録から、今の温暖期がいつ終わってもおかしくないことを、学ばせてもらいました。
    また、気温の変化に影響を与える地球の動きはあるものの、気温のように複数の(無限と言える)変数が関係する現象は、予測することはできないのだと理解しました。

    第3~6章は、著者が研究に携わった、福井県の水月湖での発見、およびその研究から分かったことについて。
    恥ずかしながら、水月湖という湖の存在は、本書を読んで初めて知りました。
    有史以前の気温や気候がなぜ分かるのか、不思議に思っていたのですが、その背景には長年の地道な研究があったのですね。
    急激な気温の変化が繰り返し起こっていたこと、その変動幅とスピードは現代の地球温暖化のペースをはるかに超えていたということに、驚きを感じました。

    第7章は、大きな気候の変化に、人類はどう対処するかについて。
    長いスパンで見ると、現生人類は過去の急激な気候変動を乗り越えてきた。
    ただし、農耕時代に入ってからは経験していないこと。
    「いつ起こるかわからない」ということも踏まえると、対策が難しいのは間違いない、と受け取りました。

    全体を通じて、専門的な内容を、データや比喩を交え、一般向けにわかり易く解説しているなと感じました。

    非常に大きな気候の変化が、短期間で起こる。
    その変化は予測ができず、いつそれが発生してもおかしくない。
    ではどう備えるか、備えても無駄なのか、備えなくて良いのか。

    二酸化炭素排出量の抑制のみならず、食料の確保や人口増加の抑制等々含め、さまざまな視点で議論・検討すべき課題だと感じました。
    この件については今後も、関連する書籍を読んで、自分なりに考えていきたいと思います。
    .

  • 福井県の水月湖の湖底の堆積物が過去7万年の気候の記録を正確に示している『スケール』となった経緯や理由を主軸に、そもそも過去の気候はどのような変動をしてきたのか、その原因は何か、といった古気候学の基礎が説明される。
    過去の気候についてザックリと「氷河期と温暖期がくりかえす」くらいの認識しか無かったので、その主な理由や、理由がわかっていてもいつ切り替わるかは計算できないなど、知らない事がたくさんあった。
    後半にある、なぜ人類は温暖期になる1万6千年前まで農耕をしなかったのか、という話は仮説とは書いてあるがとても納得できる説明だと思った。
    人類の進化にとって気候はとても大きな要素だと思うし、温暖化が進行している状況で未来について考える場合にもこの本の内容は重要な知見であると思う。

  • 間違いなく五つ星。温暖化には元々懐疑的だったのだが、それをも吹き飛ばす知見に溢れていて蒙を啓かれた。過去、万年単位の気候変動は現在問題視されている温暖化の比ではなく、ひょっとしたらその入り口にいるのかもしれない。温暖化は歓迎すべき現象かも、などと思ったりもした。人類は過去の気候変動をなんとか生き延びてきたが、果たして今後訪れるであろうその時代をまた生き延びることができるのだろうか

  • 現在は氷期と氷期の間の間氷期と言われる時代で、これまでの周期よりも長く続いている。時間軸を伸ばすと、むしろこの暖かい時期の方が例外。未来予想には予測できるものとできないものがある。めちゃくちゃ面白い。

  • 気候の仕組みやサイクル、その変化に伴う人類の行動を知ることができた。現代の温暖化はこの10万年の中でも見られない異常現象。といっても間氷期だから温暖かつ安定しており、氷期のほうが激しく移り変わっていたらしい。しかも氷期から間氷期へ変わるのはじっくりとではなくある1〜3年で急激に変わった。今の温暖化はきついのかもしれないが、自然のものによるほうが予測不可能かつ圧倒的。これから温暖化が進行しても100年くらい傷つきながらそれでも人類には順応性という強みがあるから打開策はきっと見つかる。
    この本はスケールの大きさと多様で複雑なデータが噛み合うのが興味深く面白かった。

  • 地球温暖化が叫ばれて久しく、まるで人類が地球を一瞬にして破壊してしまうかのような論説もあるが、100年かけて5℃の気温上昇は過去何度も発生しているし、もっと急激な変化も幾度となくあった。だから今の温暖化を軽視して良いわけではないが、人類とは関係なく地球規模の気候変動はおおきなダイナミズムがあることを理解しておきたい。更に言うと、温暖化よりも深刻なのは寒冷化である。実はすでにいまの安定して温暖な間氷期は1万6000年続いており、いつまた氷期に入るかわからない。氷期では平均気温が10度近くさがる(東京がモスクワになる)だけでなく、不安定で先の予測がしづらくなり計画的な農業はかなり難しくなる。これは氷期の間に農業が発展せず、狩猟採集が人類の暮らし方だったことの主因である。原始の人々は現代人よりも頭が悪かったわけではなく、気候にあわせて最適な生活を設計した結果、狩猟採集がベストだったのだ。
    著者はこういった過去の気候変動についての研究者である。特に人類が誕生してから10万年の近い過去について、世界的に貴重な縞模様の地層「年縞」が美しく残る、水月湖研究の第一人者だ。地質学の世界標準となる資料が日本の福井県にあるとはまったく知らなかったが、ぜひ機会があれば訪れてみたい。
    今後の気候変動について明確な予測も対応策もないと結んでいるが、それでもあらゆる生物のなかでもっとも適応力の高い人類が知恵を出し合うことで、未来はあるとする希望のあるまとめとなっていて、ポジティブな姿勢が嬉しい。

  • 全く知らなかったが、1991年の春、福井県の水月湖が「奇跡の湖」として発見された。10万年単位の歴史を刻んだ良質の「年縞堆積物」の存在が確認されたのである。いまやこの湖の年縞は世界一正確な年代が分かる堆積物として世界に知られているらしい。
    水月湖が地質学と古代気候学にとっていかに貴重な存在か、何がこの湖をかくも特別にしたのか、そしてそこから分かってきた10万年単位の気候変動と地球景観の変容がいかに驚くべきものであったかを、研究の最前線におけるさまざまな苦労、格闘とともに生き生きと描き出す。
    第一級の研究者が自らの研究成果を一般の人々にも噛み砕いて伝えることに成功した、興奮必至のとびっきり見事なサイエンスノンフィクションだ。

  • Audibleで聞いた。今見たら特典の対象外になってた。ラッキー。
    タイトルにある通りの、10万年の地球の気候についての概観も大変興味深かったのだが、著者ご本人の研究成果である、水月湖の年縞に関する件、なぜそれが重要で、どれほど困難で、いかにそれを成し遂げたかが、実に情熱に書かれていて大変面白かった。
    当事者にしか書けない文章だなと思った。
    以下、興味深いと思ったこと。

    ## 地球の軌道と気候との関係
    - ミランコビッチ・サイクル:地球の公転軌道の変化、地軸の傾きの変化、自転軸の歳差運動の要因で、日照量が変化する。
    - 公転周期の楕円の形状が一定でない。今は割と真円に近い。

    ## 人類の活動と温暖化の関係
    - 現在は氷期に入るはずの時期なのだが、8000年ほど前から、人間活動により地球が温暖化して間氷期が長引いている。

    ## 炭素年代推定法
    - 5万年ぐらいまでしか使えない。
    - C14炭素同位体の割合は時代によって異なるため、他の方法で時代が確認された標本と比較したキャリブレーションが必要

  • - 知的興奮を呼び起こしてくれる本。素晴らしい。
    - ***
    - 地質学的な時間を視野に入れれば、「想定」と「対策」に限界があることは明らかである。 10 年と数千万年の間のどこかに、私たちは現実的な線を引かなくてはならない。それをどこにするかは、究極的には哲学の問題であって科学の問題ではない。
    - 少なくともこのタイムスケールで見る限り、地球の気候は変化し続けているということである。少なくとも、何か「正常」と表現されるような定常状態が背景にあって、そこからときどき逸脱するといったパターンには見えない。とにかく、たえず変化し続けているのである。
    - 第一の傾向は、およそ300万年前頃から、地球上では徐々に寒冷化が進行しているということで ある。/// もうひとつの傾向は、気候の振幅が増大している、つまり寒冷化と連動して、不安定性も同時に増してきているように見えるという点である。
    - 現代は例外的に温暖な時代であることが分かる。現代と同等あるいはそれより暖かい時代は、全体の中の1割ほどしかない。残りの9割はすべて「氷期」である。これは重要な認識なのであえて強調するが、数十万年のスケールで見た場合、「正常」な状態とは氷期のことであり、現代のような温暖な時代は、氷期と氷期の間に挟まっている例外的な時代に過ぎない。
    - 地球と太陽の位置関係のうち、時間とともに変化するのは公転軌道の形だけではない。地軸の向きや傾きの大きさも、それぞれ独自の周期で規則的に変動している。現代では、軌道要素と呼ばれるこれらの要因はすべて、気候に大きな影響を与えることが分かっている。また、軌道要素と気候を結びつけて考える理論のことを「ミランコビッチ理論」と呼ぶ。
    - 近年の地球温暖化にともなって、集中豪雨などのいわゆる「極端気象」の頻度が上昇していることは、多くの研究者によって指摘されている。これがもし何かの「前触れ」であるなら、私たちは大きな転換点に近づきつつあることになってしまう.
    - もし私たちが、温室効果ガスの放出によって「とっくに来ていた」はずの氷期を回避しているのだとしたら、温暖化をめぐる善悪の議論は根底から揺らいでしまう。私たちは自然にやってくる氷期の地球で暮らしたいのか、それとも人為的に暖かく保たれた気候の中で暮らしたいのか。これはもはや、哲学の問題であって科学の問題ではない。
    - 狩猟採集民は、平素は食べ慣れないそのような生物資源を活用することで、異常気象の年を比較的平穏に乗りきることが できる。/// そのように考えてみると、気候がまだ安定していなかった時代に、農業を始めることに積極的な魅力を見いだす人がいなかったのは、むしろ当然のように思えてはこないだろうか。
    - 言い換えるなら、氷期を生き抜いた私たちの遠い祖先は、知恵が足りないせいで農耕を思いつけなかった哀れな原始人などではなかった。彼らはそれが「賢明なことではない」からこそ、氷期が終わるまでは農業に手を付けなかったのだ。その一方で、アフリカを出てからわずか数万年の間に、世界のほぼすべての気候帯にまで分布を拡大することができた彼らは、したたかで沈着で順応性に富み、さらに好奇心とバイタリティーまで併せ持った、偉大な冒険者たちだった。

著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。1992年、京都大学理学部卒業。1998年、エクス・マルセイユ第三大学(フランス)博士課程修了。Docteur en Sciences(理学博士)。国際日本文化研究センター助手、ニューカッスル大学(英国)教授などを経て、現在は立命館大学古気候学研究センター長。専攻は古気候学、地質年代学。趣味はオリジナル実験機器の発明。主に年縞堆積物の花粉分析を通して、過去の気候変動の「タイミング」と「スピード」を解明することをめざしている。

「2017年 『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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