ヤマケイ文庫 定本 黒部の山賊 [Kindle]

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  • 山と溪谷社
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感想・レビュー・書評

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  • 昭和二十一年頃、北アルプス山中で山賊に出合って獲物や金銭をまきあげられたという噂が広まっていた。自らが所有する三俣蓮華小屋を占拠された著者は、視察をかねて小屋へと向かう。山小屋に到着した著者は、そこに棲みついていた山賊と呼ばれる四人の男たちの人柄と技術に魅せられ、彼らとの交流がはじまる。

    山賊と呼称される男たちだが、彼らの話によれば旅人を襲って盗みを働くような本格的な犯罪をおこなっていたわけではない。アルプスが国有林に編入されて営林署が設置される以前からのカモシカ猟が密猟とされてしまったり、金額にすれば安価な木を伐採したことを罪に問われたり、不届き者の登山者を追い返すための脅しであったりと、罪だとしても軽微なものばかりで、そもそも山での生活が後追いで近代の法に絡め取られたことで犯罪扱いされたことに納得できないことからの行動が多い。また、終戦直後の混乱期とあってさまざまな事件が山賊と噂された彼らに濡れ衣を着せやすくなっていた事情も大きい。つまり"山賊"は愛称に近く、実際は山で暮らすための技術に精通した男たちということになる。

    戦後の北アルプスを舞台に、熊狩りを含む狩猟、山に棲息する動物、金鉱・埋蔵金発掘、怪異譚、遭難事故など、章単位でカテゴリー別に数々のエピソードが綴られる。山賊たちの活躍が多く語られるが、「第五章 山の遭難事件と登山者」のように山賊が登場しない章もあり、山賊たちを描くことのみを目的にしているわけではない。途中からは山賊たちはどちらかといえば構成の一要素で、戦後の一時期の北アルプスの自然と人の営みを記録するこを目的としているようである。

    さばけていて、かつ、どこか呑気な語りが特徴である。山賊たちのキャラクターによるところもあるのだろう。遭難事故や山を舞台にした犯罪事件など、人死にもそれなりに多く描かれるのだがあくまで淡々としている。山賊たちの動向については空白が多く、肝心の彼らがどのような生涯を送ったのかをクローズアップしてほしいところだった。総じて、貴重な題材を扱っていながらやや淡泊にも感じた。巻末には四人の山賊たちの顔写真付きで略歴が掲載されている。

    • 淳水堂さん
      ikawa.ariseさんこんばんは。

      私もこの本好きです!
      結構命がけだろうになんか呑気な語り口で、まるごと受け入れている感じが良...
      ikawa.ariseさんこんばんは。

      私もこの本好きです!
      結構命がけだろうになんか呑気な語り口で、まるごと受け入れている感じが良いです。
      「クマの糞鍋」とか、「毎年地面から浮き上がってくる馴染みの白骨死体」とか、なんかすごいですよね。
      2021/11/09
    • ikawa.ariseさん
      淳水堂さん こんばんは。

      わたしも豪快な話だったり、悲惨な話も身構えずあっさり出てくるところに、価値観というか捉え方の違いに驚かされました...
      淳水堂さん こんばんは。

      わたしも豪快な話だったり、悲惨な話も身構えずあっさり出てくるところに、価値観というか捉え方の違いに驚かされました。内容もバラエティ豊かですよね。河童の正体にはなるほどと思わされました。

      コメントをありがとうございます ^^
      2021/11/10
  • 山好きな人にはたまらない1冊。戦後の混乱期をたくましく豪快に生きた山賊(猟師)達と登山者達が黒部源流の大自然と共に生き生きと描かれている。未だ雨具等の装備が十分ではなかった時代の登山客の遭難記は身につまされる。

  • 山小屋という未知の世界。山を歩いていると、「なぜこんなところに?」「どうやって作ったの?」と不思議になる建築物がある。そして登山者を導く数々の山道。本書は北アルプスを舞台に、これら未知の世界の生い立ちを解き明かしてくれる。

    本書は半世紀以上前の北アルプスが舞台であるが、特に伊藤新道やその周辺を歩いた後に読むと、当時の情景が頭に浮かんできて、感動が大きい。

  • 伊藤新道で有名な伊藤さんが、黒部の山小屋での日々を綴る傑作です。前から読みたいと思っていましたが、こうして手軽に入手できるようになったのは実にいいですね。面白かったです。

  • ずっと「いつか読みたい」と思いつつ、表紙とか本の雰囲気(山賊とか、アルプスの怪とか…)がなんだか怖くて読めていなかった本。

    やっと読んだら全然思っていたような怖さはなくて、北アルプス最深部の雲の平までの登山道を拓き、三俣、水晶、雲ノ平の山小屋を整えた伊藤正一さんと、ともに働いた「山賊」と呼ばれた猟師たちの話で、これがめちゃくちゃ面白かった。

    山奥に山小屋を立てる費用とその苦労、登山道の変遷、遭難や救助。北アルプスの、もはや歴史書。

    そして、きっと下界では生きていけないんだろうなと思わされる「山賊」と呼ばれる山男たちの魅力的なことといったら…!

    そういえば、伊藤正一さんの息子である伊藤兄弟とみっつの山小屋、伊藤新道を見つめたNHKのドキュメンタリーを今年見て、それがとても良かったので、また見たい。

  • 先日訪れて大変気に入った三俣山荘(旧三俣蓮華小屋)の小屋主・伊藤正一さんによる、黒部源流域を舞台とした「ほんとにあった」「すべらない話」。

    伊藤氏は、戦後間もなくして小屋の権利を買い取り、アルプスで初めてヘリコプターによる荷上げを成功させたり、湯俣より三俣に至る「伊藤新道」を開通させたりと、山小屋主きってのパイオニア。そんな彼が、当時北アルプス最奥を住み処としていた山賊たちと邂逅し、共に小屋を再建、そして共に時を過ごしていく過程をスリリングかつロマンに満ちた筆致で描く。

    個人的に最高だったのが、後半に出てくる"山小屋生活あるある"。街に降りると「女性が全員美人に見える」「アスファルトがツルツル滑って不安になる」「お金を持って歩くのを忘れる」など、クスッと笑えてなんとな〜くわかるものが多くて笑いました。笑

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