- Amazon.co.jp ・電子書籍 (282ページ)
感想・レビュー・書評
-
奥様が藝大生(彫刻科)だった縁で、都心最後の秘境(?)藝大の内情を紹介したノンフィクション。
才能溢れる芸術家の卵達が、狭き狭き門を潜って勝ち取った特権的ポジション。日本の芸術の頂点を極めようと切磋琢磨する、トップオブトップの異能者達。本書を読む前の藝大生のイメージはこんなものだった。
本書を読んで、まあ半分は当たっていたかな。「藝大は「芸術界の東大」と言われているそうだが、むしろ東大を「学問界の藝大」と呼んでもいいのかもしれない」、藝大(音校)に「合格するにはトップレベルの実力が必要で、それを身につけるにはトップレベルの指導者に習う必要があり、トップレベルの指導者は藝大の教授であることが多い」とか、「美校の現役合格率は約二割。平均浪人年数が二・五年」、「何年かに一人、天才が出ればいい。他の人はその天才の礎。ここはそういう大学なんです」などなど。
意外だったのは、「藝大の学生さんたちからは、「これで名を馳せるんだ」というような意識をあまり感じませんでした」という点。野心満々、先々のことを考えて賢く立ち回っている人は意外と少なくて、ただ芸術にどっぷり漬かっていたい、先々のことはなるようになるさ、的な人が結構多い、ということのようだ。卒業生の約半数が行方不明(きちんと就職できていない)というのも凄い。
本書、魅力溢れる藝大生が大勢紹介されている。色々迷いながらも何かにひたすら打ち込んでる人って、輝いているし応援したくなるよなあ。
「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 」(山口周)ではないが、日本でもこれからはビジネスシーンでアート系の人材が求められるようになると思う。なので、藝大生の未来は明るいんじゃないかな。がんばれ、藝大生!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
丸い鋳型に納まるようにという教育を受け、鋳型に納まってきた(僕を含めた)大多数の人にとって、鋳型から突き抜けて尖ったモノを保ち、磨き続けている人たちは、やはりどこか不思議に映る。藝大という場所ではそうした突き抜けた人達の割合が圧倒的に高く、最早秘境としか思えない楽しさだけど、学長の言葉にある通り、その中で生きられる人達にとっては至って普通だったりする。そんな秘境な日常は、やはり刺激になるし、我が子にも藝大かどうかは別として、尖った部分を削らずに生きて欲しいな。生き難いかな。。
-
◯作れるものは何でも作ろうとするのである。(37p)
◯ とにかく、絵のことをいつでもずっと考えてます。絵の具とか、題材とか.……(69p)
◯ 雑誌を読んでは、このレイアウト作ったりする人になりたいとか。ジュエリーを見ては、これを作る人になりたいとか……そんなことばかり考えてしまうんですよね。(149p)
◯ 僕らやっぱり、声が楽器ということを誇りに思ってるんです。人間の体って素晴らしい、人生って素晴らしいと根っから信じてるんですよね(190p)
★好きをとことん極める人達。意志を持ってというよりは、やらずにはいられない人達。そんなすごい人達が大勢出てくる。
★声楽科の井口理さんってあの…? -
2022.8.7読了。
入学は東大より難しい、7浪・8浪当たり前などの真偽不確かなざっくりしたことしか知らなかった謎多き空間である「東京藝術大学」について、学生や卒業生へのインタビューを踏まえその特殊性をあぶりだす。
音楽系は、自身が商品となるので常に見られることを意識していて小綺麗なこと、商品価値のある期間はスポーツ選手並みに短いから何浪もしてまで必ずしもこの学校に入ろうとはしないこと、刹那に消えていく芸術であることなど、
芸術系は、作品自体が商品となり残ること、製作過程で汚れるから服装に頓着しないこと、0から生み出すからインスピレーションに従って作品作りに没頭するので時間や諸々にルーズな傾向があることなどなど、知らないことが多く非常に興味深かった。
あまり好みではない作品の作者に対するイメージが幾分変わった。 -
音楽と美術の間を自由自在に行き来する人たち、これこぞ藝大の人たちなのかなぁと思いました
-
なんとも異世界な東京芸大。
同じ芸大でも美校のワイルドさと音校の繊細さが同居しているというのが印象的だった。
小学校から始めるのでは遅いという音校の奏者ですが、私は音楽に限らずスポーツの世界でもこういう幼い頃から練習漬けでなければ結果が出せないものに嫌悪感を感じてしまう。
美校生にせよ音校生にせよ東京芸大の皆さんが異世界に住む理解し難い人達だというのは分かるのですが、音校生には近寄りがたく美校生の不可思議さの方が私には好ましく思えてしまう。 -
写真撮影をするようになってから、美術に対する興味が高まり、今では美術館巡りも自分の趣味として定着しています
しかし、身の回りには写真以外の分野の芸術家の知り合いはおらず、芸術系の学校を出たという人と交流を持った記憶もありません。
「芸大ではどのようなことを学んでいるのか、中はどのような雰囲気なのか」と、興味がありました。
その興味に応えてくれそうな本として、東京藝術大学(藝大)を題材にしたこの本が、何年か前に話題になっていたことを記憶していました。
今回、文庫化されていることを知って、電子書籍で読むことにしました。
著者は作家で、著者の奥さんが(執筆時点で)藝大の学生だとのこと。
奥さんの、藝大生ならではの不思議な行動に興味を持ち、藝大の複数の学生にインタビューをして、本書をまとめたようです。
読み進めてから理解したのは、藝大が扱っているジャンルがとても広いこと。
東京美術学校と東京音楽学校とが統合した、という経緯も影響しているようです。
登場人物の専攻名を読むと、「その分野も扱っているのか」と驚くものが多々、ありました。
そもそも、音楽の分野で邦楽(日本古来の音楽)を扱っているということも、本書を読んで初めて知りました。
そして本書の読みどころはなんといっても、登場する藝大生たちの個性の強さや、エピソードの面白さ。
大学の生協でガスマスクが売られているというエピソードには、「藝大というのはやっぱり、フツウの学校ではないな」と感じました。
そして、「この分野を変えたいんです」という人から、「いろいろ経緯があって、今はこれをやっています」という人まで、温度差が大きいことも印象に残りました。
クリエイティブな人材を育てる、という意味では、著者が本書に著した藝大の雰囲気というのはプラスになっているのだろうな、と思います。
ただし、クリエイティブな人材や特殊技術を持つ人々を、社会の中でどう、活用していくか、これらの人々がどう、生計を立てていくか、ということは、藝大そして日本社会として、今後考えていくべき課題、と感じました。
難しいことはともかく、藝大生たちからなんだかわからないパワーをもらえた、読み物として楽しめた一冊でした。
. -
東京藝大の教育システムは、自ら考え、自ら創り出す一握りの天才を産みだすための仕組み。
東京藝大は、芸術というフィールドを軸にしていますが、日本の他大学が今やらなけならないアプローチがこれなんやろなぁと、なんだか斜右上的な感想。
だから、日本社会、大学からは、ジョブスもマスクも生まれないのではないかと…。
作者の愛ある目線で紡ぎ出された藝大生のエピソードの数々と空気感、楽しく拝読。機会みつけて藝祭に絶対行ってみようと決意して読了。