チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学 [Kindle]

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  • 春秋社
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感想・レビュー・書評

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  • タイトル通り、アングラ経済の一例としてチョンキンマンションまわりで作者が見聞きし体験したこと、そして解析が書かれている。なるほどそういう形もあるのか、という面白さや発見はあれど、これを即日本の経済に採用できるかというとそうはならない。どうしたって背景事情や情勢、文化、宗教、etcetc……すべてが関わってなにかしらの制度は成り立つのだから仕方がない。

  • 香港のチョンキンマンションのタンザニア人コミュニティの研究からコミュニティのあり方についての考察

    今のシェアビジネスとの対比で彼らのネットワークの特徴をあぶりだしている。

    単純な見方としては、彼らはグレーゾーンのビジネス、信用度のない人々のため、既存のシェアビジネス的な基盤に乗れないから彼ら独自のネットワークがある。。。と断じてしまいそうだが、違う見方が示される。

    私なりに受け取ったところでは、
    コミュニティには、利害レイヤ(互恵性など)と帰属レイヤ(精神的な満足感など)の2つがあり、
    今のシェアビジネスが利害レイヤの効率化にフォーカスをしている一方で、帰属レイヤ、特にゆるく帰属レイヤに訴えかけるようなネットワーク(互恵コミュニティ)の可能性を感じた。

    実際に今後のビジネスでもSDGsでもエコでも地域よいが、なにかのコミュニティへの帰属意識をベースとした、ゆるい(互恵性に確実性に求めない)シェアコミュニティが大きな価値を生む(重要化する)可能性は非常に高いように思った。

  • 舞台は香港のチョンキンマンション。
    ここには多くのタンザニア人やアフリカ人達が行き交う。
    そして、そこのボスであるタンザニアン人のカラマを中心に彼らのコミュニティやコミュニケーションについて考察したのが本書である。

    仲間同士、お互いを信用しているのかいないのか一見分からない彼らの対応。それは彼らが裏切られた経験があるということに起因しているようだ。同じ人間でも、その人の置かれた状況によって信用できるときとできないときがあるということを身をもって知っている。仲間なのに信用しないなんて冷たいように思うけれど、実は彼らの態度(その時の状況を加味するという)は、苛烈な環境では当然のことだろう。
    また、昨今日本で叫ばれている「自己責任」というのとも無縁のように思う。
    彼らは「ついで」の行動で他人を助けている。そんな風に気軽に誰かを助けることで、互助の精神が無意識のうちに培われていくのだろう。
    そしてその互酬性によって、彼らの商いは回っているとも言える。
    また、彼らの商売の仕方もとても興味深かった。
    SNSを使って情報を提供したり、得たりするのだが、そのタイムラインには、ビジネスの話に混ざってとりとめのないおもしろ動画が突如として出てきたり、混沌としたもので、ビジネスツールとしては一見使いづらそうにも思える。
    しかし、そこで垣間見られる個人の生活や性格が、その人と取引をするかという判断材料にもなるのだという。
    数値化された信頼度(星の数など)では、得られないものがそこにはある。

    異国の地で生活する彼らの逞しさを感じると同時に、「人生は旅だ」と語る彼らの価値観には多少の羨望を感じる。

    また、彼らのコミュニケーションが他でも応用し得るものであるというのはとても興味深く、と同時に頷ける。
    示唆に富んだとても興味深い内容だった。

    (またしても、だらだらと時間をかけて読んでしまったため、内容の忘却と連続して読むことによる理解が損なわれたことを反省しつつ、もう少し真面目に読書しようと思ったしだいです…)

  • 香港で働くアフリカ系コミュニティについて、という見慣れないテーマなので、おもしろく読めた。
    この本で主に扱われるのはカラマというタンザニア人の中古車ブローカーであり、それを取り巻くのはインフォーマル経済の場なのだが、内容は思いのほか明るい。これは主役として書かれるカラマの憎めなさもあるだろうが、フィールドワークを行なっている著者の人柄も大きいのだろう。
    当然、文化人類学的な分析も出てくるが、それがおまけのように感じるほど件のコミュニティが魅力的な筆致で書かれている。一般的な法や制度の視点から見れば、眉をひそめるような振る舞いが多く、問題も多いだろうが、そもそも彼ら彼女らは既存のシステムへ期待しておらず、その外部で生きている人々であり、批判したところで笑って流されるだけだろう。
    反権力的ではないが脱権力的で、それはカラマのいい加減で適当な人柄に集約されているようであり、彼を主役に描くことで、おのずとこの特殊なコミュニティのこともわかるような構造になっている。

  •  香港の安宿を拠点にするタンザニア人コミュニティを一人の男カラマの生活から学ぶ。
     
     香港のアフリカ人コミュニティなので当然歴史などない。たかだか10年ちょい。どこまで意図してつくったのかも分からない。でもこのシステムは確かに不思議な魅力がある。
     コミュニティは強いつながりや信頼など裏切らない保障ががあればと思うのが普通だ。しかし、このカラマらがつくったものはそれとは真逆。信頼が強いわけではない緩いコミュニティの中でついでにやる程度の奉仕が積み重なっていく。カラマ個人もがめつい商売人の様でもあり、あんまり働いておらずポンポン奢ってしまう様ないいかげんさもあり、人物として格段に面白い。
     緩くていいかげんな助け合いコミュニティ。しかし、ここには今の社会問題を考える上で重要なヒントがある様に感じた。

  • 香港のタンザニア人ブローカーの間には、開かれた互酬性が見られる。本来、互酬においては相手から何かしてもらった場合、お返しをしないといけないという気持ちになる。しかし、彼らはそうではない。「ついで」にできることなら他人の要望に応え、そこに対価は求めない。つまり、偶然チャンスを手にした人が他の人に成果を配り、次回はまた別の人が同じ事をする。その繰り返しで経済が回っているのだという。そして、各々が広いコミュニティを持っていることも特徴だ。自分が得意なのはこれ、だけどそれ以外のことはそれが得意な他人にお願いすればよいという発想である。
    今日のシェアリングエコノミーでは、見知らぬ他人の信用をどう可視化するかに重点がおかれている。それは、お返しができない者を排除するシステムである。そうではなく、誰が助けてくれるか分からないからこそ、今「ついで」に目の前の人を助けておけば、困ったときは誰かが助けてくれる社会の方が暮らしやすいのではないかと筆者は考えている。

  • 久しぶりに二子玉川の高島屋の本屋に行って、フェアから面白そうな本を手にとって読んだらこれが最高でした。信頼、SNS、alibabaのシステム、そして、facebook上でのメンバー不定のコミュニティーのロバストネス。希望はやっぱこっちにある気がする。旅。ローリングストーンズな感じ。

  • 香港でグレーな商売をしているタンザニア人達の生活や商売について、彼らがたむろするチョンキンマンションのボスを自称する人物、カラマを中心として書かれた本。
    「ついで」というキーワードで表されるような軽やかなつながりによって形成されたセーフティネットみたいなものの存在が興味深い。とはいえ、経済とかそういうのを抜きにして単純に魅力的な人たちとその生活を描いた本としても読むことができる。

    カラマが(日本人女性である)著者とのセルフィーをSNSに投稿しまくるのが、楽しみであるとともにそうとは言わないもの香港に現地妻がいるように印象付け信頼性を上げる役割を担っていたくだりとかすごく面白かった。パーティーの写真や、高価なファッションに身を包んだ写真も同様らしい。

    やたら取引相手との約束に遅刻したりすっぽかしたりする点に関して、「毎日イスマエル(取引相手)に会いに行けば、彼は俺を自分の子分のように思い始めるだろう」とカラマが言っていたのはすごく…「今日から使える」感があった。あるよね誠心誠意やった結果何故か軽く見られていいように使われる現象。

  • 香港のタンザニア人ビジネスコミュニティに密着したエッセイ。“精算しきらない曖昧さ”を残すことによる不確実性下で生き残る強靭さ、伝統的公領域を補完する社会関係資本など、監視社会国家との対比を考えさせられる。

  • 裏社会というか、タンザニアやパキスタンの人たちの、中国における活動、暮らしぶりを垣間見ることができた。
    それにしてもこの作者は研究者として、自らそのフィールドに身を投じ研究をするという、

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著者プロフィール

小川さやか(おがわ・さやか) 立命館大学先端総合学術研究科教授。専門は文化人類学。研究テーマは、タンザニアの商人たちのユニークな商慣行や商売の実践。主な著書に『都市を生きぬくための狡知――タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社、2011年)、『チョンキンマンションのボスは知っている―アングラ経済の人類学』(春秋社、2019年)など。

「2022年 『自由に生きるための知性とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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