類 (集英社文芸単行本) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 戦争さえなければ

    世間知らずなお坊ちゃまとして

    鴎外の遺産で一生を

    穏やかに過ごされたでしょう。



    そう考えると

    類は周りに思われる以上に

    頑張った と思うのですが、



    どちらかというと

    類が一番 鴎外の子という

    呪縛のなかで

    まともだったんじゃないだろうか

    そんな風にさえ思ってしまいました。

  • 鴎外の子供たちにつけた名前、於菟(オト)茉莉(マリ)杏奴(アンヌ)類(ルイ)はまるでキラキラネームの先駆けのようだ。語学に堪能、ドイツ留学もしている鴎外にとって、子供たちも日本だけでなく外国で活躍するだろうと信じていたのだろう。作家・森茉莉さんしか知らなかったのだが、他の子供たちも強い個性を持ち才能に恵まれ輝かしい人生を歩んでいる。
    本作は末っ子の類(louis)さんの生涯を追ってある。肩書は随筆家、しかし他の兄弟と違い学業不振で進学もままならず、画家を志し留学するも大成できていない。出版社に勤めたり、美術講師をしたり、本屋を開業したりするが、どれも中途半端でうまくいかない。小説やエッセーはそこそこまでいってもいまひとつパッとしない。
    彼が姉・茉莉のプライベートな部分を文章化したために訪れた確執。類をどこか憎めないおっとりとした弟と思いながら読んでいたが、茉莉が著した小説『クレオの顔』では、類をモデルとした暮尾を次のように表現してあり驚いた。『微かな水ほどに薄い毒を双方の耳に流し込み続けて仲を裂き双方の愛情を独り占めにして手懐けた卑劣漢』と表現してあった。小説家は自らの家、プライベートをもさらけだすと聞き及ぶが、何とも凄まじい。類は共産党絡みの裁判を傍聴して、国家権力の凄まじさに恐怖し「裁量権」という作品なども発表していて興味深い。
    歴々とした家柄に生まれ、あまりに偉大な父(鴎外)を持ったことの苦悩、世に評価される兄や姉に比べ明らかに見劣りがして、何者かになれない焦りがあったはず。周囲はやきもきしていたが、焦りを他人に気取られないようにしていたようにも思えない。著者は、そんな類に「どうして何もしないで、ただ風に吹かれて生きてはいけないのだろう。どうして誰も彼もが、何かを為さねばならないのだろう」と、胸の裡を語らせている。鴎外亡き後も不思議と庇護してくれる人が現れる。師事した長原孝太郎画伯や、詩を見てくれた佐藤春夫、斎藤茂吉など、各界で一流の人たちの教えを受けかわいがられている。彼の持つユニークな生命力を感じた。遺産に残された土地や家を活用して不得手な労働を極力避け、絵や文章などの創作活動を続けている。悲壮感を感じさせないあっけらかんさは、パッパ(鴎外)に慈しまれた類さんの人がらだろう。
    本作の中で印象に残ったのは類さんの妻・美穂さんだった。美穂さんは有名な画伯の娘でありながら、家計が貧窮しても悪気無くプチ贅沢をし続けるお坊ちゃまぶりの類の尻を叩いている。類の長女は鴎外の孫にも拘らず苦しい家計を見過ごせずに進学をあきらめて就職するなど、しっかり者に育てあげたのは美穂さんあってこそだろう。
    美穂さんの亡きあと、類はすぐ再婚している。振り返ると類の周りにはいつも女性がいた。姉の杏奴と茉莉、美穂。
    植物が好きな私は、緑鮮やかな表紙絵に先ず魅せられたのだが、類が観潮楼(団子坂の鴎外邸)の花畑を描いた絵だと、後から知った。鴎外も花の手入れが好きだったらしいが、淋しがり屋で人懐っこい類が偲ばれた。

    (内容)
    明治44年、文豪・森鴎外の末子として誕生した類。優しい父と美しい母志げ、姉の茉莉、杏奴と千駄木の大きな屋敷で何不自由なく暮らしていた。大正11年に父が亡くなり、生活は一変。大きな喪失を抱えながら、自らの道を模索する類は、杏奴とともに画業を志しパリへ遊学。帰国後に母を看取り、やがて、画家・安宅安五郎の娘と結婚。明るい未来が開けるはずが、戦争によって財産が失われ困窮していく――。
    昭和26年、心機一転を図り東京・千駄木で書店を開業。忙しない日々のなか、身を削り挑んだ文筆の道で才能を認められていくが……。
    明治、大正、昭和、平成。時代の荒波に大きく揺さぶられながら、自らの生と格闘し続けた生涯が鮮やかによみがえる圧巻の長編小説

    • goya626さん
      環境や遺伝ですかね。鴎外は子どもには無茶苦茶甘ちゃんだったらしいですが。
      環境や遺伝ですかね。鴎外は子どもには無茶苦茶甘ちゃんだったらしいですが。
      2020/11/28
    • しずくさん
      鴎外の子供たちだけでなく、妻・志げの作品や鴎外自身が書いた小説などから読者(私)が窺い知る鴎外。良くも悪くも彼の影響がかなりあると思われまし...
      鴎外の子供たちだけでなく、妻・志げの作品や鴎外自身が書いた小説などから読者(私)が窺い知る鴎外。良くも悪くも彼の影響がかなりあると思われました。類が引き立てられたのも、やはりバックに鴎外在りだったのではないでしょうか? 
      2020/11/29
    • goya626さん
      類は彼なりに複雑な思いで生きたでしょうね。
      類は彼なりに複雑な思いで生きたでしょうね。
      2020/11/29
  • 初出 2017〜20年「小説すばる」

    森鴎外の末子、類(タイトルの英語表記はLouis)の物心が付く大正期から晩年の平成初めまでを描く大作。参考文献が20冊を超える。
    10月4日の読売新聞の読書欄で著者が作品を語っている。

    幼少期、鴎外の邸宅では先妻の子で20才も違う長男於菟は別棟に住み、後妻志げの子である8才上の長姉茉莉、特に3才上の杏奴と一緒に育つ。鴎外は陸軍軍医総監を退役し、帝室博物館の館長と宮内省の図書頭を兼務したが、類が一緒に過ごしたその晩年は長くはない。
    類は学校の成績が振るわず、中学を中退し、自宅に別棟のアトリエを作ってもらって絵を描くが、踊りをやめて後から加わった杏奴のほうが才能があった。兄と茉莉がフランスに遊学したのに続いて彼らもフランスへ行き、個人が尊重される環境で、劣等感にさいなまれなくなりずっと留まりたいと願うが、姉に従って帰国する。
    帰国後、絵は描き続けるが評価されず、鴎外の遺産と印税で生活する高等遊民として暮らす。茉莉は2度離婚して翻訳や評論という文筆で頭角を現し、杏奴がフランスで出会った画家小堀と結婚して家を出、母が亡くなると、2人の気ままな暮らしになる。
    やがて類は画家安宅安五郎の娘美穂と結婚するが、太平洋戦争が始まり、福島に疎開している間に東京の空襲で屋敷は焼け、敗戦後の混乱で金融資産は紙くず同然になる。母が残した土地にあばら屋を建てて住むものの、絵が売れない生活は苦しく、絵筆を捨ててにわかに文筆活動をしても食べていけるはずもなく、世話してもらって出版者に勤めるが半年で解雇される。
    借金をして旧邸宅の跡地の一部で書店を開く傍ら、「鴎外の子供たち」の回想録を書いて雑誌に載るが、その暴露的内容のために姉たちから絶縁される。鴎外記念館の建設で立ち退きを求められて書店を廃業し、立ち退き料でアパート経営をする。やがて子供たちが大きくなって出て行き、妻は病死する。

    類は思う。「父親が偉大すぎて、息子は何一つその天資を受け継がなかった。どうして何もしないで、ただ風に吹かれて生きてはいけないのだろう、どうして誰も彼もが、何かを為さねばならないのだろう。」

    偉大な親は不幸ではないし、成功することが幸福でもないが、類は満足して生きたのだろうか。
    けっして感動作でもないし、共感できる訳でもないが、自分が生きることにおいて幸せなのかと考えさせられる作品だ。

  • 森鷗外の末っ子「類」を主人公にした小説。森家の長兄は類とは21歳年上の於莵。森家の後妻に入った志げは、茉莉・杏奴・類の三人の子どもを産む。鴎外亡き後の森家の兄弟姉妹の話が、この小説の本筋。鴎外の血を濃くひき文才を認められるが自由奔放に生きることしかできない茉莉、兄弟のなかではいちばん出来損ないの類。

  • 森鴎外の末子、森類のお話。
    ひさびさに、ゆっくり、丁寧に、より味わうために情景描写をきちんと調べつつ、辞書を片手に読みたくなる、場面場面を絵画として鑑賞したくなるような色の作品に出会った。途中までさらさら読んで、だんだん世界観に入り込んでいくと、もういちど冒頭からしっかり読みたくなり、植物や、お衣裳の色、銀座の風景、知らなかった文学や文学者、画家の名前、そんなものをひとつひとつ、より鮮やかに類の目線を辿りたくなって、ゆっくりゆっくり、調べつつ読んだ。
    森鴎外という、存命のうちにすでに国中に(すごい人認定)を受けたような偉人の、後妻の末子という立場で、ただでさえ凡人の半生では味わえない贅も圧もあったろう上に、時代は戦争を通っていくわけで。でも、哀しい場面でも描写は常に切り取った絵画のようだった。人生が画集のような。それは森類を描こうとおもった、朝井さんの脳内の創った映像なのかもしれないけれど。
    森類というひとは、姉たちや妻たち、人生そのときそのときの女性の理解者に恵まれているよなあ。身内の愛憎も濃いお家事情のなか、ふたりの妻もほんとそれぞれが1冊の本になっていいくらいできた妻。マネできない。
    ともかくも、苦しみながらもちゃんと生きたひとの半生を、繊細で美しい選ばれた言葉で綴られた物語は、とても読み応えアリでした。オススメ。

  • 森鴎外亡き後の森家の人々の生涯を、次男 類を主人公に描いた作品。

    本能だけでは生きられない人間は、程度の差こそあれ、人生の目的、意味を考え、価値ある存在になりたいと願い、故に苦闘する。
    軍医として栄達を果たし、作家としても偉大な作品をものにし、さらには良き家庭人でもあった鴎外を見て育った森家の子たちはなおのことであったろう。
    父の才覚、才能に憧れ、何よりその人柄を慕い続けるが故に、彼らの苦悩は深く、生涯苦闘は続く。その有様に凡人である我々も強く共感を覚える。
    物語の終盤、類が己の人生を振り返り、自分の本当の夢に思い至る。そこに生きる事の本質と救いを見出す事が出来る。

    繊細な文章と、植物を中心とした細やかな自然描写が、作品を味わい深いものとしている。何度も味読したい作品です。

  • 朝井まかてさんは文が上手い、キレイに書くと本当は実態とはかけ離れていく気になる。鷗外の住んだ千駄木のお家が残念なくらい想像出来ない(文のせいでは、なく大きいお屋敷が理解出来ないだけ)。 類さんの”鷗外の子供たち”は読んでおり、ここまで類さんが坊ちゃんだったとは思わなかった。本にするなら茉莉さんの生涯だろうとも思うが、耽美主義的な彼女は余り自分の事は楽しかった時以外、書いてこなかったのかもしれない。楽しく読み終えました。 腹違いのお兄さん読みシオンさんじゃないんですか?皆向こうでも読めるように付けられたのだと

  • 森鴎外の末息子、類の物語。類の生い立ちが丁寧に書かれている。森鴎外の没後に出した一冊の本の是非。この本について類は姉たちと対立している。類にとって、姉や兄にとってこの本をこの世に出す事の心情の違いが興味深かったです。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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