探究する精神 職業としての基礎科学 (幻冬舎新書) [Kindle]

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  • 幻冬舎
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感想・レビュー・書評

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  • 軽いエッセイかと思ってなんとなく読み始めたら、著者である大栗博司氏の自叙伝のような内容だった。
    いつの間にか熱中して読んでいた。
    ひとつには、氏は超弦理論の第一線をいく研究者でありながら哲学にも造詣が深く、唖然としたからだ。でも読むうちに納得。氏は哲学に限らず、教養というものを大切に思っているらしい。死ぬまでに社会の役に立つかはわからないけれど、その人の全体を形作っている知の背景。

    本書の中で氏は、直接的な成果に結びつきやすい、工学的な研究が流行し(またこちらにばかり予算があてられ)ている昨今、いつ役に立つかはわからないけれど膨大な潜在力を秘めた(例えばマクスウェルの電磁気学における成果)「基礎科学」の大切さを繰り返し書いている。

    著者はいろんなきっかけが重なって、たまたま数学という言語を用いて宇宙の謎を解明する人生を選んだだけだという感じがする。ちょっときっかけが違えば、氏はきっと哲学者になっていただろうと思う。こんな学者がもっともっと増えてくれたらいいのにな。
    娘が将来、針路に悩むことがあれば、まずはこの本を紹介したい。悩まなかったとしても、ちょっとは迷ってみたら?と、やはり本書を紹介したい。(一蹴されるかもしれないけど。。)

  • 探究する精神 職業としての基礎科学。大栗 博司先生の著書。研究者に必要なことは探求心。探求心がないと研究者になれない。探求心がないと研究者として成功できない。探求心がないと研究者に不向き。探求する精神と研究者は切っても切れない関係。探求心があっても研究者になれるとは限らないけれど研究者になるためには探求心が必要不可欠。現役研究者や研究者を目指すすべての人にとってきっと役に立つ良書。研究者にならなくても探究する精神はきっと大切なもの。

  • 教養の深さが印象的でした

  • 基本的に筆者の経歴が大半で最後に基礎科学についての話だが、筆者自身の学びの体験やノーベル賞受賞者との交流など、とても面白かった。小学生で地球の大きさを計算しようと思ったことはないので(と言うか今まででも自分で計算しようと思った事がない)、そもそも自分とは全然違うが、学ぶ面白さの一端にふれた気がする。

  • 2022/9/6 Amazonより幻冬舎電本フェス本祭にて301円でDL購入。
    2024/2/9〜2/16

    大栗先生が基礎科学の重要性を説く内容。理学部出身であるが、今工学系にシフトしてしまっている(理学系も少し残っているけど)自分にとっては耳が痛い内容ではあるが、尤もな内容。予算をつける側の人に読んで欲しい本。

  • 生涯を基礎科学に捧げてこられた著者による、その人生の振り返り、そこから基礎学問の今日的意味に対しての考えを書かれています。個人として科学に興味を持ったきっかけ、子供時代の科学の思い出、社会的な仕事へと結びつき、評価され、評価する側としての運営側の経験など。多様な仕事を通じて世の中と関わってこられたからこそ、それを俯瞰した目線で語ることが出来ており、基礎科学をどのように実益に結び付けるのか、その知恵を得ることができるように思います。科学的に考えるとはどういうものか、それを仕事として行うとはどういうことか。著者の歴史を辿ることから、その実際とリアル、その意味を知ることが出来ます。

  • 日本人が物理学などでノーベル賞を受賞する機会が多く有りますが、基礎科学を専攻する科学者は減っていると聞いたことがあります。この分野はすぐに成果が出づらいし地味だから、が理由らしい。
    タイトルを見て、研究者がどのような精神で基礎化学を探究しているのか興味がわいたので読んでみたのですが、エッセイではあるけど"心の内を晒す"というよりは著者が歩んでこられた状況説明のように感じました。幼少期の頃の話は面白いですが、研究者としてのご活躍は、専門的な話が多く(それでも、大分わかりやすく書かれているんでしょうが)頭にすんなり入りずらかったです。大栗氏自体は丁寧で他人を尊敬できる、やさしい人柄だと思いました。

  • p.2021/9/10

  • 「場」とか「九次元」とか超弦理論とか、理解できないので、初めのころは、成功者の自慢話のようで鼻についていたけれど、読み進めるにつれて、偉さがわかってくるというか、知性に、説得されていく。たしかに、きちんと勉強さえしていけば、公教育だけで、十分なのかもしれない。オレはと言えば、大学への数学も放り投げたし、大学では麻雀と女の子を追いかけていただけだったし・・。たしかに、都築卓司のブルーバックスは面白かったな。高校生の頃こういう本に出合いたかったなんて思っていたら、どこかの書評で、ずっと学び続けたい大人のための本というおススメがあった、知的探求心を鼓舞される本ではあるね。第四部「社会にとって基礎科学とは何か」はとてもためになりました。

    備忘
    ・リベラルアーツ 合理的な思考法のため(算術、幾何、天文)、説得力のある言葉で語るため(論理、文法、修辞)、音楽
    ・「明日を信じず、今をつかめ」
    ・科学や生物学が「対象の学問」、物理学は「方法の学問」
    ・多様な文化と交流してきた欧米では、「言葉の力を発揮するあらゆる方法」が教え込まれる
    ・「宇宙という偉大な書物を読むためには、そこに書いてある言葉を学び、文字を習得しておかなければならない。この書物は数学の言葉で書かれている」
    ・著作権のために講演ビデオが公開できないという問題があるのは日本だけ
    ・科学とは、自然現象の観察や実験に基づき仮説を立て、その仮説の予言をさらなる観察や実験により検証する手続きのこと
    ・学校とは役に立たない学問を自由に探究する場所だった

  • - 回顧録のエッセイという感じ。サラッと読める。
    - なぜ基礎科学が重要かという説明はなるほど。
    - ***
    - 実際にそこの研究者に会って話をしてみると、彼らの日常的な議論がそれほど鋭いわけではありません。黒板に数式を書きながら「ああでもない、こうでもない」と悩んでいる姿を見ると、私の東京での日常と変わりませんでした。  しかしそれを考え続ける体力は全く違いました。次の日も、その次の日も、同じ黒板の前で「わからない、わからない」と頭をひねり、誰か通ると捕まえて「どう思う」などと聞いています。かと思うと研究室にこもって朝から晩まで長い計算をしています。同じ問題をあきらめずに考え続け、最後には解いてしまう。そうやって物事を底の底まで深く理解するまでしぶとく考える耐久力の強さには感服しました。
    - 工学部の目的合理的な教育や研究は、何がどのように役に立つかがよくわかるので、大学の活動の中でも社会の支援を受けやすい部分です。しかし、それだけに社会の資源を集中すると、逆に大きな損失を招くこともあります。  まず指摘できることは、何が役に立つかは時間とともに変化しうるということです。
    - すでに与えられた目的を効率的に達成するための目的合理的行為は、短期的には大きな利益を生むことがあります。しかし価値の軸が変わると役に立たなくなってしまう。それに備えるためには、与えられた目的を批判的に吟味し、新しい価値を創造する行為が重要です。ヨーロッパの大学が、一二世紀から普遍的な価値の追究を続け、何百年にもわたって社会の中で独立した地位を保ち続けてきたのもそのためだと思います。
    - 基礎科学の発見が社会の役に立つのは当然ではあります。産業革命によって、自然科学の知識や数学の方法が、技術の発展に目に見える形で役に立つようになりました。基礎科学は自然界の仕組みの基礎の部分を探究するので、様々な技術の水源となります。また、基礎科学の研究成果は、それが生まれた時には何の役に立つのかわからないだけに、逆に価値の軸が変わってもその有益さは影響を受けません。マクスウェルの電磁気理論の通信への応用や、フェルマーの小定理のインターネット暗号への応用のように、基礎科学の発見が思いがけないかたちで役に立つのも、そうした発見がそれ自身の価値のために行われたからです。

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著者プロフィール

カリフォルニア工科大学フレッド・カブリ冠教授/ウォルター・バーク理論物理学研究所所長
東京大学カブリIPMU主任研究員
米国アスペン物理学センター所長

「2018年 『素粒子論のランドスケープ2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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