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感想・レビュー・書評
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著者の主張は、「芸術作品に対する批評とは理由を明確にしたうえでの良し悪しの評価である(べきである)」となる。この時に、主観的ではなく客観的に評価できるかどうかが最大の問題となる。
これを私なりに整理すると、芸術作品の価値には「人に快などの感情を呼び起こすかどうか」と、「満たすと望ましい目的に対してうまくできているかどうか」の2つの観点があり得る。
「人に感情を呼び起こすかどうか」は主観的な批評になるが(すべてとは著者は思っていないようだが)、「満たすと望ましい目的に対してうまくできているかどうか」は、その評価した理由を示すこととセットにすることで客観的な批評が可能である。
ここで、客観という言葉は「超越性(真、基礎づけられた価値など)」と「普遍性(間主観性など)」の2つがある。普遍性についても、確実にすべての人が合意できるような実在的なものと、社会もしくは集団での合意としての普遍性の2つのレベルがある。著者は、本書の冒頭で、明確に間主観性を目的にしており、内容を読むに、社会/集団(美術を楽しむ人々)での「満たすと望ましい目的」の合意を意図していると思われる。
ここまで考えれば著者の主張を私なりに理解することができる。
もとの著者の主張を私の言葉で言い換えるなら、批評とは、【当該批評を消費する「社会/集団(美術を楽しむ人々)」が合意する「望ましいとされる目的」を(当該目的を著者も意図していることを推定したうえで)達成したかどうかを、分析や解釈をもとに理由を明確にして評価すること】となる。
この議論は、政治哲学の分野で正義論や倫理学からコミュニティの熟議を中心とするコミュニタリズムにいたった構造と同じになるのでははないかと思われる。
このような議論や観点が本書のなかでは、著者主張への批判に対する著者の感覚や反例紹介などによる読者への共感での説得中心で、明確には整理されていないことが、著者の主張を、わかりにくくしていると感じた。
ただ、あとがきを読んで、訳者が副題に「批評の哲学」とつけてしまったがために、私が「哲学的な基礎付けにおける芸術の評価とは」として読もうとしてしまい、上記の感想になったが、どうも著者の意図ではなかったようで、「批評の方法」というぐらいに読めば、もう少し感じ方は変わったかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示