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感想・レビュー・書評
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やっと出来た友達に下卑で汚い言葉で毒づき、プライドと悔恨に揺れる北町貫太のポケットには藤澤清造の私小説が入っている。北町貫太のその前後を読みたくなりました。
解説は石原慎太郎氏。受賞しても変わらず魅力的な大男でいることを期待している。
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再読した結果、あー芥川賞狙ってうまくやりやがったなーと。
小山田浩子「工場」、砂川文次「ブラックボックス」の例もあるように、こういう仕事現場があるのだという小説を、芥川賞は時に好む。
「どうで死ぬ身の一踊り」「小銭をかぞえる」に続く3度目の候補で受賞した、つまり「どうで」や「小銭」で描いた「文学臭」から敢えて距離をとった青春期を題材にした上、日雇い労働の実態を比較的丁寧に描写するという、全方位に配慮した上で貫多のキャラクターを描き込むという、結構バランスのいい作品なのだ。
そりゃ石原慎太郎および宮本輝といった「やや的外れ勢」の推挽と、池澤夏樹の選評における完全無視が、同時に起きるわけだわ。
ついでに書いちゃうが、「私小説の逆襲――」と銘打ったチラシが挟まれているが、すべて信濃八太郎の装画で、素敵すぎる。賢太のイメージ戦略への貢献大のはず。 -
生来の怠け者で、みえっぱりな北町貫太。港湾で、日当5,500円の日雇いの仕事に行ったり、行かなかったりしてギリギリの生活の毎日。そんな彼が日下部という同じ年の青年と職場で知り合い、刺激を受けたり、嫉妬したりする感情が描かれている。貫太のだめっぷりに呆れつつも、読者としてはほっとけないというか、嫌いになりきれないというか・・・。きっと誰もが多かれ少なかれ貫太に自分を重ね合わせているのではないか。
無駄のないそぎ落とした文章ながら、情景がありありと浮かぶ。 -
まず、西村賢太さんにご冥福をお祈り申し上げます。
図書館で借りて読んだ。
著者の訃報に触れ、一度も作品を読んだことがなかったので読んでみた。芥川賞受賞作。私小説。フィクションも含まれているだろうが、壮絶な人生。本人の資質もあるが、影響する環境、親、そしてDNA。暗いエピソードが続くが、決して落ち込むような暗さではない。私小説にありがちな、理解不能な難解さはなく、読みやすく、すっとこちらに伝わってくる文体に、著者の知性を感じる。自虐的ではあるが、プライドを感じる。上品ではないが、生きていく負けん気の強さを感じる。もっと作品を読んでみたい。 -
最近は、西村賢太ばかり読んでいます。
「小銭を数える」「人もいない春」「二度はゆけぬ町の地図」に続いて4冊目。
いよいよ芥川賞受賞作「苦役列車」です。
映画化もされたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
著者その人を投影した主人公、北町貫太19歳。
「地獄の1丁目」と呼ばれる人足仕事で、日下部正二という専門学生と出会い、友達になるという筋書きです。
日下部と意気投合するも、蜜月は長く続きません。
やがて不協和音が生じ、離れていく様が何とも痛々しい。
読みどころの一つは、日下部とその彼女、そして貫太が一緒に居酒屋へ飲みに行く場面。
貫太の性格の悪さや身勝手さ、ねちっこさ、打算といったものが存分に味わえます。
世間では「マイナス」と評価される、これらの資質を全て余すところなく持ち合わせているのに、途轍もなく魅力がある。
不思議なことです。
ところで、西村さんは、「中卒」という自身の経歴に誇りを持っていたようです。
著者略歴を本に記載する際、「芥川賞受賞」は削っても、「中卒」だけは削らないでくれ、と編集者に話したという逸話が残っています。
中卒で明日をも知れぬ人足仕事で糊口を凌ぎ、やがて小説で身を立てる。
「最後の無頼派作家」と呼ばれる所以です。
西村さんは、今年2月に54歳という若さで急逝しました。
タクシー乗車中に意識を失い、搬送先の病院で死亡が確認されたそうです。
死因は心疾患。
でも、彼の著作を読むと、彼にふさわしい死と死期だったのではという思いも込み上げてきます。
自分の生き方に殉じるような死。
私は、西村さんの日々の記録をまとめた「一私小説書きの日乗」を読んでいますが、毎日3箱も煙草を吸い、夜は大酒を飲み、大量の炭水化物を摂取して寝るという生活を繰り返していました。
死に急ぐような生き方をしてきたのです。
でも、いいんです。
「健康」なんて、私たち凡人に与えられた慰めみたいなもの。
規格外の作家には関心の埒外でしょう。
西村さんは、あっけなく死んでいきました。
だが彼の死後、たくさんの傑作が残りました。
存分に味わいつくそうではありませんか。
彼のような作家は、恐らくこの先二度と現れないのですから。 -
なんとも微妙な小説。
著者の自伝なのだろうが、人足から小説家になる過程が書いてないから知らない人は何これ?ってなると思う。
あと昭和初期に書かれたような文体で非常に読みにくい。
これは時代と文体がミスマッチでいつの時代なのか混乱するからなんだと思う。
正直言って、実体験ベース?のリアリティーを感じること以外は何も無い小説のような気がする。
ただ、ド底辺の切迫感は感じた。
でも、小説家になった時点で台無しみたいなよくわからん小説でした。 -
茂樹さんリリース
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こういう面倒臭いやついるわ、オレだ、と思いながら自分自身の学生時代を顧みる
知らない語彙が散りばめられていて、調べながら読む 厨二病的な著者のキャラクターを際立たせるために、あえて今はほとんど使われない語彙を使うんだと推測 面倒臭い奴だ
実際に身近にいたら面倒臭いことが簡単に想像できるのに、ここまで赤裸々に心情を曝け出されると、とても魅力的な人物に思えてしまうのが不思議