桓武天皇 決断する君主 (岩波新書) [Kindle]

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  •  桓武天皇と言えば、平安遷都を実行した天皇として名高いが、最近では、母方で百済系、渡来氏系につながる天皇ということで有名である。元々母の出自の低さから皇位継承者としては即位することなど想定外だったのに、父光仁天皇の近臣藤原百川の画策により天皇として即位することとなった。本書では、当時の政治情勢を追いつつ即位までの経緯、即位後の施政ー特に二大事業とされる「造作」(都造り)と「軍事」(蝦夷征討)を中心にーなどについて叙述される。

     光仁・桓武の即位により、皇統が天武系から天智系に移行したとされてきたが、著者はそれは違うと言う。いわゆる「吉野の盟約」により、天智の子、光仁の父である施基皇子が ”天武天皇の子”として扱われたことから、こうした擬制的血脈関係により光仁は天武系の天皇として擁立されたという。また桓武自身も自らを天武系との皇統意識を持ち続けたとする。この点について、現代的感覚から言うと本当にそうかな?との疑問を持つが、著者は、その後の桓武の節目節目における先帝等への奉告がどの天皇に対して行われたかを一つの裏付けとして明らかにしていく。  

     そのほか、井上皇后・他戸皇太子の廃妃・廃太子事件、藤原種継殺害と早良親王の関わりなど、これまで断片的な知識しかなかった問題について推理をまじえ詳しく解き明かしてくれる。特に桓武がこれらの怨霊を恐れたと良く言われているが、著者はその点についても祀ったのは確かだとして、決して恐れてのことではないとする。その辺りの考察はとても面白かった。

     全体を通読して、政治的パフォーマンスに優れた政治の人桓武とのイメージを強く持った。

     

  • 20240324ー0408 桓武天皇といえば平安遷都を果たし、蝦夷との戦いを決断し、最澄と空海らに始まる新たな仏教の展開を(結果的に)もたらした。本書は桓武天皇の半生について、新たな視点を盛り込みつつその血筋(天智系≒聖武天皇の血統としつつも天武系でもある?)をどこに拠ったのか、についても考察している。なかなか興味深い書きぶり。著者の他の作品(『持統天皇』)でも感じたことだが、タイトルの人物への深い思い入れを感じる。(論拠や出典をもう少し詳しく述べてくれたらなおよいかも、と思うが)。他のレビューでも書いている方がいるが、〜と思う、〜だろう、というのは著者の主観だよねー。

  • 桓武天皇の生涯について、言説とは異なった視点からも述べられている。
    改めて思うことは、歴史の教科書では一文で終わるようなことにも、それに至る背景や起こった原因があり、その当時の人が為してきたことが息づいているのだと感じる。

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著者プロフィール

1947年大阪府生まれ。京都女子大学大学院修士課程修了。京都女子大学文学部講師等を経て、1994年同大学教授。現在、京都女子大学名誉教授。文学博士(筑波大学)。専攻は日本古代史(飛鳥・奈良・平安)。主な著著に『平安建都(日本の歴史5)』(集英社)、『日本古代宮廷社会の研究』(思文閣出版)、『最後の女帝 孝謙天皇』『奈良朝の政変と道鏡』(ともに吉川弘文館)、『女性天皇』(集英社新書)、『藤原良房・基経』(ミネルヴァ書房)、『光明皇后―平城京にかけた夢と祈り―』『持統天皇―壬申の乱の「真の勝者」―』(ともに中公新書)がある。

「2022年 『聖武天皇 「天平の皇帝」とその時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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