あなたの涙は蜜の味 イヤミス傑作選 (PHP文芸文庫)

  • PHP研究所 (2022年9月9日発売)
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本棚登録 : 913
感想 : 63

 なぜ女性作家のみを集めたのだろう。前作も読んでいる記録があるが、簡単な感想しか書いていないのと、記憶がなかった。別に男女で違いがあるアンソロジーでもなさそう。前作で編者の解説とかあったのかな。今作品全体を通しての感想は、実力のある作家ばかりなので安定して読めた。イヤミスでも読後感は悪くなく、物語の展開や、ラストの落ちの上手さにうならせられることの方が多かった。普通の人間の醜いところや、暗いところを描くバランスが絶妙なんだろう。

パッとしない子(辻村深月)・・・
 人気アイドルがかつての教え子だった教師。当時の印象は「ぱっとしない子。」本人が母校に来るので、楽しみにしていたが、アイドルから話された内容は厳しいものだった。
 一番印象が強かった。やっぱり辻村深月は上手いなー。普通の人間が無意識のうちに、他人を選んだり、順位をつけてしまうような薄い悪意を描くのが上手い。そしてそれを指摘してさらけだすタイミングも絶妙。

福の神(宇佐美まこと)・・・義母が仲良くなった冴えない女性は福の神?家で使わない花瓶など、ちょっとしたものをあげると、なんとなく運が良くなる一家。イヤミスというよりホラーに片足入れている。

コミュニティ(篠田節子)・・・やり手だった妻はリストラにあい、夫は不況で給料が下がったため、都会から郊外の団地に引っ越してきた一家。団地は転居が増えていたが、残った住人は中がよく、なれ合いで暮らしていた。

北口の女(王谷晶)・・・一番意表を突かれた作品。作品自体も短く感じたな。大麻で引退を余儀なくされた女性演歌歌手と、40歳手前の付き人。歌手の姉が営む弁当屋で働くうち、付き人は新たな才能を見つけ出す・・・。
 解説にもあったけど、才能がある人と才能がない人の話。他者よりずば抜けて才能がある人にしかわからない道があるのだろう。そしてそれは平凡な人間にはついていくことはできないのだろう。どんなに長い年月一緒にいようとしても無理なんだろう・・・という、クールな内容だと思った。

ひとりでいいのに(降田天)・・・お互い憎み合う双子姉妹の話。

口封じ(乃南アサ)・・・これが一番イヤミスっぽい。誰もが幸せになっていない気がする。そもそもどの登場人物も微妙に好感度が低い。
 完全看護の病院で付添婦として働く主人公。看護は興味がない、若くして妊娠・結婚したが、子供は好きでなく、ネグレクト気味だ。患者にも子供にも当たりがきつく、評判は芳しくない。あるとき、子供の育て方で近所から苦情が来る・・・。

裏切らないで(宮部みゆき)・・・都会で派手な生活を送る、若い女性が殺害される。多額の借金があったが、実家が補填してくれるので心配はなかった。働いてはいるが、熱心でもなく、着飾ること、豪華な暮らしをすることだけに興味があったようだ・・・。
 手堅い作品。イヤミスというより、ある女性達の生活を暮らしを切り取った作品。物語の時代は今より少し前みたいだけど、今でもありそう。華やかな暮らしに憧れる様子が。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説アンソロジー
感想投稿日 : 2023年8月19日
読了日 : 2023年8月19日
本棚登録日 : 2023年8月19日

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