学び続ける力 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社 (2013年1月18日発売)
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東工大で行われた池上さんの一般教養の授業を収録した本は別に出版されているのですが、この本は、その授業での経験を通じて、池上さんが感じた、

・教養とはなにか?
・学ぶとはどういう事か?

についてのまとめになっています。

本書を読んで初めて意識したのですが、教養「 liberal arts」って、直訳すると

「自由になるための技術」

ですよね。

本文からの引用

<blockquote>古代ギリシャでは、人は奴隷と、奴隷を使う自由人に分かれていました。リベラルアーツは自由人としての教養を身につけるための学問として発展しました。
ローマ時代にこれは「自由七科」として定義されます。
七科とは、文法、修辞学、論理学、算術、幾何、天文学、音楽です。
</blockquote>

僕は二十歳ぐらいまでに本がとても好きだったのですが、卒料して数年経過してから本をほとんど読まなくなりました。
社会に出て時間が取りにくくなった事もあるのですが、大人の「知識人」というものに懐疑的だったからです。

社会に出てから接した読書量を誇る人たちは、

「〜ぐらい読んでおかないと」
「〜を知らないの?」

という感じて、経験と知識は誇るのですが、そこからなにを学んだかという事をあまり語りません。
なので、いつしか、知識とは実地体験の中で獲得するもの、という考えになり、3年ぐらい前までは、紙の新聞すらほとんど読んでいませんでした。

僕のこの考えと近い人は多く、

・ビジネス書にビジネスはない。
・学ぶ事だけに力を注ぐのは、単なる自己満足だ。
・実践こそが生きた知識の拠り所だ。

という意見をよく聴きますし、僕も同じ意見でした。


本書の中で、池上さんが言われているポイントは

・本は他人の経験の追体験である。
・自分の経験だけでは得られない世界を体験する為に「知識」はある。
・そして、読む事だけでは、ザルで水を汲むのと同じ事である。
・読んで自分で考え、批評してこそ「知識」として定着する。


というものです。
僕が読書や新聞というものに、この年になって興味をもったのもまさにそこでした。
読んだ本に記録をつける方法が多種に渡ったことで、本からの知識を、かなりしっかりと補完できるようになったのです。
そして、以前、「〜ぐらいは読んでおかないと」と言っていた大人達に、なぜ違和感を感じたのかもわかりました。

彼らの意見では、知識は「降ってくるもの」で、お経のようなものだったのですね。

実践的知識(すぐに役立つ知識)というのは、

・提示された設問に対して、最大の効率で解答が出来る知識。

つまり、試験へ特化した能力といえます。

太平洋戦争の日本軍の失敗原因の一つとして、海軍のエリート層が、試験対策に特化した秀才で固められた事が別の本で挙げられていました。

戦場の状況は設問があるわけではなく、また唯一の正解があるわけでもありません。
設問の前提を疑い、時には自ら設問を作り、そして、正解ではなく、状況の中で最適な解答を選ばないといけません。

これは現代のビジネスシーンでも同じ事です。

今まで、この

・設問に対する最適解ではなく、設問自体を作っていく能力

を身につけるのは、アカデミックな活動よりも、プラクティカル(実践的)な活動だと思っていました。

この本を読んで初めて納得したのは、例え、自分の専門がITの世界だとしても、ITを使う人間はビジネスもすれば遊びもして。恋もして、そして感動して泣く、という事です。

専門ではない世界の知識が、今のIT世界を動かしている事から、リベラルアーツという「すぐに役に立つわけではない教養」の持つ意味の大きさが分かります。


その代表例が、スティーブ・ジョブズでしょうね。

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カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2019年1月17日
本棚登録日 : 2019年1月17日

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