高校のときの友人が読んでいたのを覚えている。10年前。「これ怖すぎ……。」と言っていた。
その印象が強くて、ホラー小説でも前にしたかのような心境でもって読んだのだが、なるほど確かに怖かった。
記憶のふたを開けたように、かつて自分が少女だったころのありとあらゆることをとめどなく思い出した。ここに書かれているのとそっくりなことも、そうでないことも。スイカの種をのみこんだら腹のなかでスイカの芽がでると信じ込んでいたあの頃。
それらを今まですっかり忘れていたことが怖かった。私にも少女として過ごした夏があったのだ。不機嫌で疑り深く、好奇心ばかり強かった、夏。
歯みがきカレンダーの緑色に塗られた蟹や、ラジオ体操のあとに食べる朝ごはん、開放された学校プールの水のきらめき、友達を待つとなりの家のお兄さんが持っていた溶けかけのアイス。思い出せる夏はそれこそたくさんある。
江國香織さんの言葉で、私はあっというまに少女に戻ってしまったようだった。
この中では「焼却炉」が好き。小学四年生の退屈な夏休みに、ボランティアで学校にやってきた大学生のお兄さん。無表情で歌をうたう彼とは、とても気持ちが合うという確信があったのに、どこまでもただ子供扱いされることへの苛立ちともどかしさが愛おしい。はやく大人になりたい、と願った切実さを覚えている。
とある音楽フェスティバルで露店のアイスクリームをながめていたら、その日共に参加していた同じサークルの男子大学生に「食べる?」と聞かれたときの気恥ずかしさをふいに思い出した。子供扱いされているようにも、大人扱いされているようにも思えて、どう答えればいいか分からず、顔を背けて無視してしまったこと、ごめんね。
- 感想投稿日 : 2019年8月14日
- 読了日 : 2019年8月14日
- 本棚登録日 : 2019年8月14日
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