戦後60年という節目に、姉の仕事に関わることになった青年。実の祖父の痕跡を辿るため、祖父を知る人々への取材が始まる。それぞれの視点から見た祖父のこと、戦争のことが語られた。
本作を読んだならば、冷静ではない何かしらの感情を抱いた方も多かったのではないだろうか。
参考文献は多岐に渡り、事実も多く含まれているものと思う。
軍国主義へと突き進んでいた日本。当時のメディアの大衆扇動も一考されるべきである。そして戦後にメディアがどう戦争を解釈したか。メディアの功過については伊丹万作の『戦争責任者の問題』という作品も併せて読んでもらうと更に興味深くなる。国民を巻き込んでの大きなうねりがあったのだろう。
正に私は、現代を生きる戦争を知らない世代の象徴である。安寧の日々の中で、戦争というものは限りなく遠くに置かれ、昨今の日本を取り巻く国際情勢を心配していたかと思うと、1分もすれば他人事に変わっている。そんな自分に感慨は無い。しかし短い時間だが、やはり妻のこと、我が子のことを想うのだ。
戦争に纏わる話を聞くたびに、肯定も否定もひっくるめて、やはり戦争は愚かな行為だと思う。その中に色々なドラマがあり、多くの人生があったに違いない。戦争を経験した人たちにとっては、終戦は二度と訪れないのかもしれないな、と考えてしまう。
歴史に事実として残る戦争。日本で過去の大戦を知る人は本当に僅かだろう。今の我々の生活は何の上に築かれているか。戦後、日本は誰に救済されたか。
戦争を茶化す者なんていない。それは戦争を知らないから何も言えないのかもしれない。ただ学校で学び、断続的に入る情報に辟易してしまう。その繰り返しである。
だからこそ一つの視点として戦争をテーマにした小説を読むのはすごく意義があると思う。
ただこれが商業的なものであるということは、忘れてはいけない。そこに冷める自分を否定してはいけない。現実である。当然、小説という枠を脱することは決してない。あくまで創作でありエンタメ作品である。また、著者自身がマスメディア業界の人物であることも付け加えたい。
以下、ネタバレあり。(備忘録)
実の祖父、宮部久蔵の生前を追う。
宮部を知る人物たちが語る回想を読んでいく。それぞれの視点で宮部という男の人物像が浮かび上がってくる。
一番最後に語るのは、祖母の再婚相手である現在の祖父。実際に血のつながりは無いが、母親を含め姉弟たちを愛し育てた人物だ。祖父の語る実の祖父の話はクライマックスに相応しいものだった。
戦後にヤクザに囲われていた祖母を助けた青年の件は鳥肌ものだった。
やっぱりあれだ、各国の首脳全員を肝っ玉母ちゃんたちに変えれば良いと思う。男は野蛮だ。そしたら世界は変わるんじゃないだろうか。本当にそう思う。
読了。
- 感想投稿日 : 2021年7月20日
- 読了日 : 2021年7月20日
- 本棚登録日 : 2021年7月14日
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