救いはあったのだろうか。主人公の不器用さが歯がゆい。葛藤から一歩前進する為に、どれだけの力を要するのか。幸せになることが許されないのは何故か。
きっと幸福や不幸は量ることは出来無いけど、周囲の人は、目には見えない何かに惹かれ、時には、目に見えない何かに脅え、嫌悪することがあるということを上手く描いている。そこに綺麗事はないし、寛容さが入る余地もない。
以下、ネタバレ有り(備忘録)。
加害者家族の目線で物語は綴られる。
強盗殺人を犯した罪で服役中の兄から弟へ、毎月送られてくる手紙。被害者家族と加害者家族について、逃れられない現実が描かれる。身内に犯罪者がいることで、これまでの生活が崩壊していく。
武島直貴は、兄である剛志が送ってくる手紙を読み、生き方を考えることになる。
遺族の悲しみや無念は尽きない。決して終わらないし、許されることも無い。
弟の大学進学費用を工面するために、働いて金を稼ぐ兄。体を痛め、思うように働くことが困難になった。ついに犯罪に手を染める。そして強盗犯罪という過ちを犯す。弟との生活、弟の大学進学。金の為であった。
一人残された弟は、殺人者である兄を持つことで、苦難の人生を歩み始める。兄のことを尊敬していたはずなのに、兄のことで不幸になる自分がいることへの、気持ちの整理がつかない日々を生きる。
しかし、懸命に前に進む直貴の精神的な強さは、兄を頼っていた弟と、同一人物とは思えないほど、しっかりとしているように見えた。働き、大学へ進学し、卒業して就職する。ゆっくりではあるが確実に前進していることはすごい。度々襲い掛かる苦難には、常に兄の影が付きまとい、逃れられない差別や偏見があった。
最後に兄と弟は互いに何を想ったのか。
救われた人はいなかったのだろうか。
読了。
- 感想投稿日 : 2021年10月19日
- 読了日 : 2021年10月19日
- 本棚登録日 : 2021年10月15日
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