静かで厳かで、いっそ宗教的なにおいさえする話。
それぞれが思い出を語るが、人質にされ死と隣り合っているからか、どの話にも生と死が濃厚に漂っていた。
読み終わって、悲しくて寂しいのに、なぜか満ち足りた気持ちもする。
たりなかったものが少し埋まったのだろうか。
誰に対してかもわからないが、感謝の気持ちも溢れてくる。
なんだろうな。
強いて言えば、通りすがりの人に親切にしてもらった時の気持ちに似ている。
追記 2022 12/13 2回目
改めて読み直すと、この本はガーゼに似ている。
絹や木綿の布ではなく、赤ちゃんや手当に使うガーゼ。
みんなが授業中、遠くにグラウンドのざわめきが聞こえる中、白い保健室で保健の先生にそっとガーゼを当て包帯を巻いてもらっているような、そんなイメージが頭に浮かぶ。
傷が見えなくなる安心感と、手際良く優しく手当てしてくれた人に対する感謝と尊敬の念。
人質として死も間近に感じている人たちの話なのに、そこには不安ではなく安らぎを感じた。
読んだはずの「槍投げの青年」と「花束」が読み始めてしばらく経つまで思い出せなかった。
一方、一番記憶が鮮明なのは「死んだおばあさん」だ。
生きている人ではなく、それぞれの既になくなっている人に似ているという話のインパクトが強いからだろうと思ったが、最後の一文に打ち抜かれた。
「コンソメスープ名人」もよく覚えていた。
美味しそうで崇高な、それでいてやっぱりいい匂いまで漂ってきそうな、一緒にそばで見ていたような臨場感があるからか。
「冬眠中のヤマネ」は私がぬいぐるみが好きだからだと思う。
改めて読み返すと、もちろん奇妙な人形たちが印象的なのだが、おじいさんの心境を考えると胸が苦しくなる。
- 感想投稿日 : 2021年4月18日
- 読了日 : 2021年4月18日
- 本棚登録日 : 2021年4月13日
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