空の中 (角川文庫 あ 48-1)

著者 :
  • 角川グループパブリッシング (2008年6月25日発売)
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感想 : 1870
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「空の中」のスピンアウトの「クジラの彼」の『ファイターパイロット』で登場していた三津菱重工(MIT)の技術者・春田高己と女性パイロットの武田光稀の出会いの話として本作をチョイス。自衛隊三部作の2冊目。

本作は、高度2万メートルで起こった2つの飛行機爆発炎上から始まる物語。民間航空機開発計画の1号試験機「スワローテイル」が試験飛行中の爆発炎上する。次いで航空自衛官・斉木敏郎三が操縦する自衛隊イーグル機の爆発炎上。高度2万メートルて起こった事故の原因解明にMIT社員・春田高己と自衛隊パイロット・武田光稀は事故高空へ飛ぶ。事故空域で彼ら秘密を探す。また一方で、その事故で亡くなった自衛官の息子・斉木瞬と瞬の幼馴染み・佳江は海辺で秘密を持ち帰る。秘密を探す大人たちと秘密を拾った子供たちの2つの秘密に絡む、公と私の対応、静と動の感情、2組の恋愛の物語。

ありえない物語ではあるが、大人の秘密である白鯨と子供たちの秘密であるフェイクの性格がそれぞれに呼応する性格で表現されている。子供たちの心の成長とフェイクの成長。子供のある種残酷な性格もフェイクに刷り込まれる。また組織の中の大人たちと全き一つから分離した白鯨たち、冷静な高己と温厚なディックそんなところが、安心して素直に読み進めていけるところであろうと思う。

男女平等といわれる中、航空自衛隊岐阜基地には、女性パイロットが光稀しかいない。1986年に施行され、30年が経った今はかなり浸透しているが、本作が発表になったときは、まだ、難しかったのであろうか。それとも自衛隊という職業的なものであろうか。
本作が発表になったときは施行から17年くらいしか経っていないことも理由であると思う。法律改正を重ね、2020年までに女性管理職の比率を30%にする政府の目標もあり、今でこそ、職種を超えて女性が活躍する場が増えたものの、この当時、光稀がパイロットとしてひとりで男性たちの中で生き抜いていくためには、朴訥で、男性のような逞しさが必要であったのだろう。そんな光稀に女性らしさと可愛さを見つけた高己の洞察力は、大したもので、それがあの白鯨との交渉力に現れているのであろうか。

本作の中でも、いくつか名言があった。
「ようわからんが、間違うたほうをずんずん行っても正解にはならんろう。正しいように見えるとしたらそれはそう見えるように取り繕っちゅうだけよ」と言った仁淀川の川漁師・宮じいの言葉。「人間は間違う生き物やき、それはもうしょうがないがよね。何回も間違うけんどそれはそのたびに間違うたにゃあと思い知るしかないがよ…間違うことをごまかしたらいかんがよ。次は間違わんと思いながら生きていくしかないがよ。けんど、わしはこの年になってもまだまだ間違うぜよ。
げに人間は業が深い。死ぬまで我と我が身を律しちょかないかんがやき」

少し子供っぽく感じるところもあるが、漫画のように流れていく展開が読みやすかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年7月16日
読了日 : 2020年7月16日
本棚登録日 : 2020年7月16日

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