永遠をさがしに

著者 :
  • 河出書房新社 (2011年11月18日発売)
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本棚登録 : 868
感想 : 161
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とにかく装丁が可愛い。チェロを持つ少女と裏表紙のカナリアに心奪われ手に取った作品。

表紙の少女は日本国際交響楽団のレジデント・コンダクターの梶ヶ谷奏一郎と国響の元首席チェリストの時依の娘・和音。
才能ある音楽家の娘として生まれた彼女は、当然、音楽の英才教育を幼い時から受ける。しかし、カナリア・トワとの別れ、母が自分の元から去り、クラッシックからも遠ざかってしまう。

幼い子供が自ら進んで、ピアノがしたい、チェロを始めたいとは言わない。小学生くらいになると友達が通っている、あるいは友達と一緒に通うからと言うのはあるかもしれない。しかし、もの心つく前の幼き子供がそんなことを言うことはなく、子供たちは親の想いによりその道を歩んでいく。そして、親の想いの大きさとその想いを受け止める子供の関心・興味の箱の大きさにより、道半ばにして諦めるか、モノにするか、はたまた、それ以上になるにはそこに才能の箱が加わる。

両親の離婚、有名な父、大きな家…一般の家庭とはかなり異なる環境で、普通の学校に通う少女は、なるべく目立たないようにと、考えるのも当然で、多感な思春期を孤独に、人との関わることに苦手になるのは、致し方がないことだ。それでも、型破りな(偽の)継母真弓との生活に戸惑いながら受け入れていけたのは、オープンでそれでいて思いやりのある真弓の性格もあったであろうが、和音の擦れていない素直さと人の優しさを感じとる感性と言う箱の大きさにではないかと思う。

そして、原田マハさんならではの展開は、真弓の突然の難聴勃発。私達が認識している音よりもはるかに深く数多い音の世界に住んでいた人間を音のない世界に投げ込こむ。この作品に真逆の世界を共存させることで、神経が震える音がいかなるものかを伝えようとしているように思えた。

はじめは、音楽をテーマのこの作品に少し意外性を感じた。しかし、それは私の原田マハさん=キュレーター=美術なる固定観念である。よくよく考えるとラム酒であったり、ファッションであったりと多種多様なテーマの作品がある。話の展開は、作りすぎている感、こんなのありえない感は、常に感じるのだが、小説の中だからこそ「あり」だと思うし、作品の環境、背景ではなく、登場人物の心の動きが好きなのだと改めて感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年5月26日
読了日 : 2020年5月21日
本棚登録日 : 2020年5月17日

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