センスは知識からはじまる

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  • 朝日新聞出版 (2014年4月30日発売)
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タイトルに共感して購入した本。内容はまさにタイトルに集約されています。

筆者の水野さんは「くまモン」を手がけたアートディレクター。
デザインの世界で大活躍をしていると、天才的なセンスの持ち主、というイメージを持ってしまいがちですが、「センスは学ぶることのできるものである」というタイトルに集約される考えや、センスあるアートディレクターとしての「ものの見方」など、ものすごく共感できる考え方でした。

■「センスのよさ」とは
水野さんはセンスのよさを「数値化できない事象のよし悪しを判断し、最適化する能力」と定義します。

こう定義を置くと、次には「数値化できないものをどのように判断するか?」という疑問が出てきますが、これに対しての答えは「普通を知ること」であり、それが唯一の方法としています。

個人的にはわりとすんなり入ってくるところだったんですが、人によってはなかなか腑に落ちないこともあるんじゃないかと思う。普通って言葉が、難しすぎるもんね。

大多数の意見を知っていることでも常識であることとも違う。
普通とは「いいもの」と「わるいもの」とがわかるということ。
両方を知った上で「一番真ん中」がわかるということ。

知っているものが少なければ、たまたまそれは他の人から見れば「悪いもの」ばかりかもしれない。
その中でしか判断できない自分だとすれば、自分にとっての良いものが他の人にとっての良いものである可能性は低くなってしまいます。
相対的評価の精度をあげていくには、評価する世界を広くしていくことが一番です。
その上で、自分の評価と「みんな」の評価のズレを掴んでいく、という感じですかね。

■美術の授業が「センス」のハードルを高くしている
水野さんは、現在の美術の授業には大切なモノが欠けていると指摘します。

芸術や美術についての知識を蓄える「学科」
絵を描いたり、ものを作ったりする「実技」

美術はおおきくこの2つに分けることができるが、今の授業は実技にウエイトを置きすぎており、学科ももっと力を入れて身につけさせるべき。
学科、というと単なる知識の詰め込み的なイメージが浮かぶ方もいるかと思いますが、水野さんの例えはとても分かりやすい。

たとえば経済学では、経済そのものと関係がないカール・マルクスという人物の歴史を学ぶなど、枝葉と思われる知識の部分も知っておくことが大切だという共通認識があります。

同じことは美術でも重要である、と。

「ある絵の描かれた背景についてどれだけの知識があるか」や「どうしてこのような作品が生まれたのか、体系立てて説明できるか」というようなことが適切に評価されるようになれば、よきセンスを養うことにつながるだろう。

これはなるほどですね。
中学校ではペーパーテストもありました。教科書を読み込んでそれなりに良い点数をとった覚えもありますが、中身は何も覚えていないし、絵を見る態度について学校で学んだことはあまりないです。
もっとこういう勉強したかった。
絵はかけなくてもそっちはもっとできた気がする。

あと、個人的には現状の美術の授業は学科面の貧困さだけが問題じゃないと思う。実技についても問題多いです。みんな同じポーズの絵を描かせたりとかね。全然楽しくないもん。

■どうやってセンスを身につけるか
タイトルにも通じる本書の中心軸です。

センスとは知識の集積である

企画を考えるときの発想法の話が面白かったです。

何か企画を考えようというときには、「他とは全然違うもの」「今までにないもの」「あっと驚くもの」という視点で考えがちであるが、そもそもこれが間違いであるといいます。これ、けっこうな人が陥りがちですよね。自分もものすごく身に覚えがあります。

大切なのはまずは、「誰でも見たことのあるもの」という知識を蓄えること、だそうです。
前半の「普通を知る」にも繋がる部分です。

あっと驚くもの自体はよくあるんだそうです。
ただ、その「驚くかどうか」という一軸だけで考えるから失敗してしまう。
水野さんの指摘は企画なんだからちゃんと「売れるかどうか」も軸として持つべきといいます。
この2軸のマトリックスで世の中の商品を分析すると、

一番少ないのは、アット驚くヒット商品(2%)
次に少ないのが、あまり驚かない、売れない企画(15%)
あまり驚かないけれど売れる企画(20%)
あっと驚く売れない企画(63%)

という分布になる、というのが水野さんの感覚。
驚くものに目が行き過ぎて売れない企画になってしまうことが多いという指摘も納得です。

過去に存在していたあらゆるものを知識として蓄えておくことが、売れるものを生み出すには必要不可欠。
ひらめきを待つのではなく、知識から考える。

ということを繰り返しおっしゃるんですが、ここら辺はアイディアの発想法としては実はけっこう昔から言われていることですね。「アイディアのつくり方」という本を思い出しました。

「アイディアとは既存の要素の新しい君合わせ意外の何ものでもない」というアイディアの本質が語られる本なのですが、水野さんの言葉を読みながらトップレベルで活躍する人はきちんと実践シテイルんだなぁと改めて感じました。

「アイディアのつくり方」もものすごく面白いので、オススメです。

■知識を増やすコツ

1、王道から解いていく
2、流行しているものを知る
3、共通項や一定のルールがないかを考えてみる

この3つの手順にそっていけばある程度のレベルまでは達するそうです。
これは共感、というよりすでに実践できていました。
というかこういう視点でものを見ることができるかどうか、こそがセンスの本質何じゃないかとも思います。

このあとの話も面白かった。

知識はものすごく大事だけれど、ものを見たり良い悪いを判断するときには知識だけでなく、感覚も使っているそうなんです。
ただし、水野さんによれば「感覚」とは知識の集合体であり、それまでに良いと判断をしてきた体験や、社会知こそが感覚を形作っているとのこと。

これは先日読んだ「脳には妙なクセがある」の池谷さんも似たことを書いていましいた。
良い反射、良い意識、良い思考を作っていくためには良い経験をするしかない、と。

と、ここまで考えてそういえば将棋の羽生さんも同じようなこと言ってたなと思いだしました。
羽生さんは「直感力」という本を書いていますが、経験により直感の精度が上がっていくという話をされていました。これは水野さんの言う「感覚」と通じる部分です。

池谷さんは脳科学者なんで別枠にするにしても、デザインと将棋という全然違う世界で活躍している方が似た感覚を持って仕事に臨んでいるというのはおもしろいことですね。

■「センス」コンプレックスの人にこそぜひ手にとって欲しい

いちおう仕事ではwebディレクターをしており、本職としてのデザイン制作はしないにしろ、
制作物のコンセプト決めやラフデザインの作成は担当するし、デザイナーさんへの制作の指示出しは行います。
制作のスキルはそれほどないし、そもそも絵を描くことはまったくできませんが、
それでもデザインの良い悪いは判断することはまがりなりにもできています。
が、もともとはかなりのセンスコンプレックスの塊です。

もとからデザイン的なことが好きな方だったのですが、好きなのに絵や字は上手くできないという意識はずっと持っていました。
自分の場合は、そういう実技面でのコンプレックスがあったからこそ、かえって勉強しよう。勉強で補うことの出来る部分はカバーしようという意識に向かっていました。
良いものの良い部分や悪いものの悪い部分を分析する見方はいまではもう習慣として当たり前になっています。
例えば自分は本業ではweb広告にも関わっていますが、街中で見かける交通広告や看板などを見て、良い悪いを判断してみたり、自分ならこうすると考えてみるとか。
また、広告という自分に関わりのある部分以外でもそうで、お店の外装内装を考えてみたり、街を歩きながら写真や動画を撮るとしたらどうするか、と考えてみたりとか。
普段からこういう視点でいることで、いざ自分がデザインに関わる時にも、考えるべきポイントに因数分解することができたり、因数分解したポイントに対しての引き出しを用意しておくことができたりする。

こういうアプローチもまったく間違っていない、というかむしろ水野さんに言わせればそれこそがセンスの身につけ方であり、王道であったということです。これは個人的には非常に励まされる内容でした。

センスなんて、と思って諦めている人こそこの指摘を知り、そして勉強すべき。

個人的にはセンスあふれるデザインというのは、見る人や使う人を思い遣ることに通じるものだと思っているので、センスについて知り勉強する人が増えることは、世の中に素敵な優しいものが増えていくことにつながると思っています。

かっこよくおしゃれでやさしい世界を目指して。

■以上

ということで、新しい気付きというよりはすでに実践している部分も多く、共感をしたり自信につながったりということの多い本でした。

デザインとかセンスというものにどのように向き合っているかで、読んだ感想は大きく変わりそうな本です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 【本】アート・デザイン
感想投稿日 : 2014年12月13日
読了日 : 2014年10月16日
本棚登録日 : 2014年10月16日

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